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話の19:いざ、出陣!(5)

 アキさんの投げた爆弾が、彼の前方部上方へ舞い上がる。

 天井を行くアクトレアの背に接するかという瞬間、球形爆発物の中心に穴が開いた。

 らうが撃ち抜いたんだ。

 その瞬間、爆弾は己が役目を果たさんと眩い輝きを放ち、自らの存在を用いて強大な破壊力を生み出す。

 発生した力場は球状に拡がりつつ、灼熱の炎を伴って空間を満たした。

 僕はアキさんの横を抜けて前へ踏み出す。同時に、視界一杯へ燃え盛る波が映った。

 臆する事は無い。赤い炎と高度な熱量がもたらす破壊は、僕の最も馴染む所。それこそ生まれた時から慣れ親しんだ、自らの一部に等しい物だ。

 自身の生み出す力と外的な炎波に親和性はなくとも、余人が抱く灼熱への怖れは皆無。

 友人と語らうような気軽さで、散歩に出向くような心持ちで、平常の心を保ったまま対する事が出来る。

 僕は力宿した両手を突き出し、目前へ迫った爆炎に叩き付けた。

 あらゆる物を熱し、焼いて、壊し、消す、それが僕の特異能力サイキック。衝撃波と共に訪れる爆風と熱波とて、その標的から外れる事は無い。

 能力発動と同時に僕へ張られる力の薄膜をイメージして、両腕全体に纏われたエネルギーを展開させる。

 伸ばした腕を這い、四方へ巡る熱と力。掌に集ったそれは湧き出る水のよう。円形の波紋を描き広がって、押し寄せる威力を前に壁の如く立ち塞がった。

 波打つ炎が膜と化し、赤熱視される波動の壁。前面に置き据えたそこへ、猛烈な勢いで叩き付けてくる衝撃は、瞬時に霧消されて僕達まで届かない。


「凄い」


 背後から声が聞こえた。

 振り返らないでも判る。現チーム最年少であるウエインの物だ。


「攻撃こそ最大の防御って言うけど。赤巴せきはちゃんの特異能力サイキックって、こんな使い方も出来るのねぇ」


 溜息にも似た感嘆の声が背に掛かる。甘ったるい調子の発生者はアキさんか。

 今の僕は彼が評した通り、攻撃を防御として使っている。破壊する為の力で吹き付ける爆発を受け止め、一切の威力を無力化するんだ。

 僕の力が爆弾の威力に劣っていれば押し切られ、全員消し炭となるだろう。しかし現状を見る限り、爆弾と同等以上の力らしい。

 今回みたいな防御壁風に力を使った事は無いけれど、思ったよりも上手くいった。爆炎を防ぐも幾許かの余裕がある。

 但し、四肢に纏わせて繰り出すのとは違い、寄る辺ない空間に広げて置くので消耗が激しい。一定時間を掛けて継続させるのが若干辛いか。

 そんな自作障壁の向こう側では、爆流を直接浴びたアクトレア勢が成す術も無く吹き飛び、溶け、爆ぜ、瞬時に無固形状態に変じては消えていった。


「お、見ろよ」


 僕の力で護る一同、その中の一人、劉の声で視線が動く。

 僕の背後へ居る為に彼が何処を示しているのか見えないが、其処は考えずとも判った。

 両腕を爆発流に宛がったまま目だけを動かし、爆弾の崩壊地点に視野を移す。

 盛大に炸裂した発破の影響で天井が破壊され、重量物と思しき硬建材と共に、大きな岩塊が落下してきた。

 僕等の狙い通りだ。

 地下遺跡と月地表部の間には、ルナ・パレス建造以前から厚い岩盤が横たわっていたらしい。それを都市建設チームがり抜いて、遺跡への移動用路である階段を造ったのだとか。

 その際、元からあった岩盤の貫通道だけを硬度な建設材で固め、それ以外は自然のまま残したという。

 つまり人工物である天井のすぐ上には、堅牢な岩盤が今尚存在している。それが今回の爆発で一部破壊され、崩落してきた。

 幸い、階段帯の天井はかなり頑丈な作りであるらしく、爆発の直上以外に損壊箇所は見られない。お陰で他の場所に同様の崩落現象は起こっていないようだ。

 巨大な衝撃に砕かれた天井、そこから崩れ落ちてくる幾多の岩塊が、僕達の見ている前で数m先を無秩序に埋める。

 その最中、黒々とした大小様々な岩と灰色の建材が折り重なり、濃い埃煙を放って視界を閉ざした。

 更に無数の岩片が周囲へ飛び散り、壁や踏み板を傷付ける。だが僕の張っている特異能力サイキックの壁を越える物はなく、触れた切片は蒸発し、舞い上がる濃煙も僕達の器官を痛めない。

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