話の17:いざ、出陣!(参)
ウエインちゃんと劉ちゃんは、どうやら抜かれてしまったようね。
上に居座ってる軍隊が連中を始末してくれるでしょうから、大した問題にはならないと思うけど。
だからって楽観視は出来ない。何せ、問題事に直面してるのはアタシ達の方なんだもの。
ここで誰かが力尽きでもしてごらんなさい。あっと言う間に突き崩されて、全員仲良く三途の渡し。無体よねぇ。
赤巴ちゃんも頑張ってるようだけど、特異能力の代償は大きそう。それを考えたら、あまり長くは保たないかもしれないわ。
状況は頗る芳しくなぁい。
ま、最初から判ってはいたのよ。たった4人で、底知れない多量のアクトレアを防ぎきれる筈がないもの。
この戦いは始まった瞬間から、アタシ達の敗北が決定してたわ。
それでも戦ったのは、逃げようが無かったから。例え大急ぎで階段を駆け上がっても、地上へ出る前に追い付かれて結局戦う事になってたでしょうね。
皆、それを理解してたのよ。だから戦う以外に選択肢は無かった。
でもぉ、アタシの手の内には戦闘を回避する手段があったのよねぇ。それを使えば、今の状況は存在してなかったわ。
なのに、そうしなかった。敢えてね。
だってぇ、アタシには狙いがあったんだもの。
1つは、ウエインちゃんに実戦を経験させてあげたかったから。
知識としてだけじゃない、本物の戦を身を以って体感して欲しかったのよ。アウェーカーをやる以上、避けては通れない道だもの。
いずれ踏まねばならぬなら、いっその事、今回みたいな特異な状況から始めちゃおうと思ったワケ。
平々凡々とした初陣よりも、危機的状況下の方が得る物は圧倒的に大きい。多少インパクトはあるけど、これを遣り遂げれば生半可な事じゃ動じない胆力が養える。
本当はもっとソフトに始めたかったんだけどねぇ。でも、折角の機会じゃない。こんな変事、滅多に体験出来ないでしょ。これを逃す手は無いわ。
さてぇ、理由その2だけど。ちょっと個人的な趣向の問題なのよね。アタシ自身の為だから。
誰にだって好きな事ってあるじゃない。歌うのが好きだったり、泳ぐのが好きだったり、食べるのが好きだったり、遊ぶのが好きだったり。
アタシの場合はね、戦うのが好きなの。
それも生死を分かつ危険な戦闘が大好きなの。
極限まで張り詰めた緊張感、澱む悪意に濁った害意、漲る敵意と溢れる殺意。黒くて昏い空気に満ちた戦場の臭い。
互いの存在を賭け、傷付け合い、潰し合い、全てを磨耗させていく退廃的な時間。その場に自分が立っていると思うだけで、ウフフ、全身の血が騒ぐ、心が躍る。
堪らないわ。最高だわ。イイ。凄くイイぃ。
暫く御無沙汰だったけど、やっぱりコレね。コレだけは外せない。
戦いこそ至高の快楽。脳髄を痺れさす無二の悦楽。
死の可能性をまじかに望みながら、立ちはだかる敵と命を削り合うは究極のエクスタシー。
そう、状況が危機的であればある程スリルが増すわ。死が近ければ近い程、熱く燃えるのよ。
他人には理解出来ないかもしれないけど、アタシは嗚呼々、幸せ。もうイっちゃいそう。
あんまりイイもんだから、魂の誓いをツイ忘れちゃいそうになるのは困りものだけど。
そんな理由から、アタシはこの状況を甘んじて受け入れたの。そうせざる負えないと皆思ってたし、丁度良かった。
でも残念だわ。何時までも悦ってるワケにいかないのよね。
個人的にはもっとこの戦闘を満喫したい所ではあるけど、これ以上の長居はウエインちゃんへの負担が大きくなりすぎるもの。
彼女の命を護る為にも、この辺が潮時ね。
名残惜しいけど仕方ないわ。例の手を使いましょう。
「皆ぁ、このままじゃマズイから、そろそろ退却しましょうか」