話の16:いざ、出陣!(II)
ああ、私が未熟な所為でアクトレアの進行を許してしまった。
やっぱり私は駄目。皆みたいに戦えない。
戦う事の覚悟はしているつもりだった。でも所詮「つもり」でしかなかったんだ。
話に聞いたり、想像したりで、私は戦いを知った気でいた。その結果がこれ。
肌で直接感じた戦いは、私のイメージとは全然違う。事前の予想が打ち砕かれて、ただでさえ戸惑っていたのに。そこへ攻撃されて、傷付けられて、頭の中は真っ白になってしまった。
何をどうすればいいのか判らないし、考えようとしても考えられない。色んな事が滅茶苦茶に思い浮かんで、こんがらがって、何が何だか。
もうパニックだよ。
腕に走った痛みが恐怖心ばかりを増長させて、勝手に身を竦ませる。
その隙を突かれて、越えられて、我に返って追おうとしたら、また抜けられた。
やる事なす事全部が裏目。望み通りにいってくれない。
私の失敗を補おうとしてくれた風皇君は、その所為で敵に逃げられちゃうし。
私がもっと上手くやってれば、彼がミスする事も無かったのに。
ごめんね、風皇君。ごめんね、アキさん、霧江君。
皆が必死に頑張ってるのに、私は足を引っ張っちゃうよ。
腕の傷が痛む度、未熟者って言われてる気がする。ううん、事実その通りだわ。
うう。
……でも、だけど。今はクヨクヨウジウジしてる場合じゃない。
そうだ。まだ戦いの途中なんだから。
気をしっかり持って、目の前の戦いに集中しなきゃ。
泣くのも、落ち込むのも、悩むのも、全部後回し。これ以上、皆に迷惑をかけないようにしないと。
手の中にある愛用の双刃剣の感触。余計な思考は全部捨てて、其処にだけ意識を集中する。
強く、もっと強く握り直して、見るのは前だけ。
私の腕に傷をつけた奴が、今度は腕を高く振り上げてた。
やらせない。先にこっちから、踏み込む。
「えぇい!」
気合い込めた掛け声と一緒に両腕を振る。全力で。
羽根みたいに軽い剣は、私の腕が操るままに水平へ走った。そのまま一気に、分厚い刃をアイツの体へ叩き付ける。
刃を介して伝わってくる確かな手応え。次にはもう、センテンツアは敵の体を両断して、反対側へ抜けていた。
切断面から噴き出る赤い色。血よりも濃い赤を撒き散らし、斬れた上体が飛んでいく。
上から降り注ぐ真っ赤な液体に体が濡れるけど、気にしない。
その間にも新手がすぐさま現れる。前と同じ様な外観の奴。
集中。何も考えないで、今はただ目の前の敵に集中。
今度こそ通さないように。確実に倒す為に。
「たぁっ!」
両手で握るセンテンツア、頭上高くへ振り翳す。相手の姿は私の正面。
攻撃の暇は与えない。敵を捉えて狙いを定め、掲げた巨剣を力の限りに打ち下ろす。
大刃が縦一文字に走り落ち、正対するアクトレアを頭頂から両断した。
敵の体は左右に分かれ、断面から赤い液体が迸る。
髪に、顔に、服に、脚に、怪物の血液が付着してきた。ベタベタでヌルヌルで生暖かくて、この上もなく気持ち悪い。
でも拭ってる暇はないよ。気にしてる余裕もね。
次の敵がすぐに襲いかかってくるもの。
センテンツアの厚い刃を体面に掲げて、相手の突き出してきた腕を防ぐ。
凄い衝撃に剣が震えて、私の腕も少し痺れた。だけどまだ大丈夫、ちゃんと動かせるから。
剣を振るって敵の腕を払い除け、構え直して斬り込んだ。刃は相手の肩に触れて、そのまま滑った。
綺麗に切り裂き、アクトレアの胸上を体から分離させる。
まだよ。まだ私は戦える。