表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/64

話の13:準備しませう(参)

「アキさん、霧江きりえ君はどうだった?」


 アタシに気付いたウエインちゃんは、商品棚に向けていた顔を上げて問い掛けてくる。

 少しだけ心配そうな彼女を安心させる為、アタシ自身の感想を添えて答えを返した。


「彼なら心配いらないわ。ちゃんと計算の出来る子だから、自棄になって自滅なんてしないわよ。きっとね」

「そっか。なら良かった」


 安堵の息を吐いて、ウエインちゃんは笑みを浮かべる。

 誰の事でも親身になって心配出来るのは、この子の美徳ね。

 こういう所はレシオスちゃんそっくり。流石に兄妹だわ。

 だからこそ放っておけないんだけど。


「さ、人の心配もここまで。次は自分の事を心配しなきゃ」

「あ、そうだね。私がこのチームの中で1番弱いんだから、皆の足を引っ張らないようにしないと」


 ウエインちゃんは拳を固めて神妙な顔をする。

 真面目なこの子らしい考え方ね。

 でも肩に力が入りすぎ。これじゃ逆に心配だわ。


「意気込むのはいいけど、気負いすぎちゃ駄目よ?変に気を張ると、出せる力も出せないんだから」

「え、えぇっと、はい」


 アタシの指摘は予想外だったのか、真剣みが強まっていた彼女の表情に困惑が入る。

 それでも素直に頷いて、浅く深呼吸を始めた。

 少しだけど落ち着いてきてるわ。


「確かにウエインちゃんは経験不足だけど、それを負い目に感じる事はないのよ。誰だって最初は初心者なんだから」

「は、はい」

「初めから上手くやろうなんてしなくてもいいの。無理をすれば良い成果が出るというものでもないからね。寧ろ自然体でいる方が、良く動けるんだから」


 ウエインちゃんもレシオスちゃん同様に一本気だわ。真面目で素直で真っ直ぐだけど、その所為で応用があんまり利かないのよね。1つの道を見たら、それしか無いと思っちゃう。

 目の前の事に無心で打ち込めるのは悪い事じゃないけど、時には周囲を万遍なく見渡せないと。特にアウェーカーなんて仕事は、臨機応変に動く事が重要になってくるんだから。

 こういう危なっかしい所までそっくりだと、ますます気に掛かる。ホント、レシオスちゃんが戻ってきたみたい。


「新米さんはね、先輩達に迷惑かけるぐらいで丁度いいのよ。失敗して、そこから学んで、誰しもそうやって成長していくものなんだから。後はアタシ達がフォローするから」

「はい」

「勿論、迷惑を掛けない様にしようって思うのは大切だけど、そればっかりに意識を向けてちゃ駄目よ。重要なのは自分に出来る事を着実にこなす事。自分の力と程度をちゃんと把握して、その範囲で無理なく動く事ね。過信や焦りは禁物だから、覚えておいて」

「うん、判った。私、頑張りすぎないように頑張る。……て、なんか変だね」


 ウエインちゃんは表情を緩めてクスクスと笑う。

 さっきまでの緊張も、それなりに解けたみたいだわ。取り合えず、無茶を事前に押さえられたという観点では安心かしら。

 とは言うものの、彼女が自分の未熟さに引け目を感じるのも無理ないのよね。レシオスちゃんが命を散らした遺跡に潜ろうっていうんだから。

 本当なら今のウエインちゃんを連れて行くべきじゃない。もっと経験を積んで、腕を上げてからじゃないと危険だわ。熟練者だって危ないんだもの。

 でもだからと言って、アタシが止めてもこの子は1人で行ってしまうでしょうね。兄であるレシオスちゃんの軌跡をなぞる為に。それなら一緒に行くのが現状での最善だわ。

 妥協なんて器用な事が出来る子じゃないのよ。頑固というか。その姿勢もまたレシオスちゃんそのものだわ。時折、本当に2人がダブって見える程よ。

 あの子も初めのうちは、こんな風に危なっかしかったわね。真面目で御人好し、お節介で無駄に優しい変わった子。

 だけど不思議な雰囲気を持っていたわ。頑なだった人の心を、何時の間にか溶かしてしまうような。

 もう何年も忘れていた、誰かを何かを護るという気持ち。アタシにそれを思い出させてくれたのも彼だった。レシオスちゃんのお陰で、アタシは見失っていた道を見付け直せたのよ。

 この仮は、護る事で返そうと思ってたのにね。

 人生にやり直しはきかない。だけど同じ過ちを繰り返さぬよう、新たに進む事は出来る。

 だから今度こそは……


「アキさん」

「なにかしら?」

「色々と、ごめんなさい」

「それは言わない約束でしょ?」


 不安に沈みかけた彼女へと、アタシは何時も通りに微笑みかける。

 アタシに彼女を責める気はないわ。譲れない事があると、無理だと判ってても突っ走ろうとしちゃう。そんな欠点も含めて、ウエイン・ダートルーナなんだから。


「さーさ、必要な装備を買って準備を終わらせちゃいましょ。任意に展開出来る電磁シールドなんてオススメよ」

「うん」


 今はウエインちゃんに見合う道具を選びましょう。

 少しでも、この子の生き残る可能性を高める為に。

 願わくば、彼女の願いが叶うよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ