表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/64

話の11:準備しませう(1)

 半放棄区画には、人の気配というものが希薄だ。

 生活臭というものも殆ど感じられない。そして人影も疎ら。

 真昼の中央道路で銃を撃ったり、路面を破壊する程の騒動を起こしても、文句を言う者はおろか様子を見に来る者さえ無い程に。

 それはこの区画エリアに住まう数少ない住民が、総じて事なかれ主義で外界の変事にも無頓着、且つ好奇心や積極性というものが大きく欠落している為だろう。

 要するに覇気がないのだ。

 自分の事以外には徹底して無関心。全ては対岸の火事。スラム相当区に在住する人々の、それが基本的思考である。

 故にこの地には、表の世界で生きられない者達が自然と集まり、色々と事件を起こす事も珍しくない。

 ルナ・パレス中心区の警邏機構も意図的に放棄区分への干渉を避け、一般住民はこちら側は存在しないものと扱っている。そうなると止める者は誰も居ない。不祥なる暗事の温床が出来上がり、という訳だ。

 そんな此処ら周辺は、都合によって人目を避けたい連中の、ある種活動拠点のように機能する。

 反政府組織や犯罪集団、秘密結社に宗教団体、そしてアウェーカーにとっての要所として。

 それら非一般的職種を相手取った商売を当て込み、彼等の利用基準に即した事業を展開、店舗を開く者達がある。

 独自に放棄区画商業組合なる物を設立し、関連各者の活動支援を目的とした商魂溢るる人々。スラムの生活環境向上化には興味なく、只管に己が利潤を追求する商売人達だ。

 彼等によって人知れず営まれるブラックマーケット的な市場。そこには各顧客の意思を反映し、この区画故の秘匿性を利用して、表社会には流通しないような様々な物資が扱われている。

 危険な薬物、強力な重火器、多用な弾丸・爆発物、法令違反の個人兵装、不正に仕入れられた各種ツール、多岐に渡る情報、その他諸々。

 所持する事さえ禁じられているような危険物も、放棄区画商業組合が管理する商店では当然の如く売買される。裏社会を生きる者達にとっては、名実共に生命線のような場所だ。

 僕等が訪れたのも、そんな商店の1つ。

 レリックス・ギルドが存在する区の隣接エリアに在り、一見ではお粗末な民家と見分けの付かないような所。

 普段から人通りのない区画の端で、更にカモフラージュされたような其処は、穴場と言えたかもしれない。

 僕も、そしてらうも、そんな所に店が在るとは知らなかった。

 ウエイン曰く、彼女の兄達がよく利用していた店で、遺跡探索に欠かせない品々が豊富に取り揃えてあるらしい。

 また様々な武器類も扱っている総合ショップである為、冒険の準備をするにはもってこいなのだとか。


 入り口は前時代的な古ぼけた引き戸型玄関扉なのに対し、その内部は全く別の空間だった。

 内外を隔てる扉の一歩先は、幾つもの陳列棚とショーウィンドウが整然と並び、明るさと清潔さと気品を併せ持った名門店さながらの構成である。

 そこがスラムの一角にあるとは到底思えない完成された内装は、思わず溜息が漏れる程の見事さ。

 ルナ・パレスの中央区で開いても、他店に引けを取らぬだろう美麗な設えは、それ自体が来場者を圧倒してしまう。

 そのくせ扱っている品々といえば。


「おお、コイツはM359炸裂鐵鋼弾じゃねぇか。こっちは零式砕壊烈弾のB22型。ナイアルソーン用の完滅榴弾に、ロングキル専門のバレット系弾頭まであるぜ。なんて品揃えだ。マジかよ」


 店内西側に設けられた銃と弾丸のコーナーを彷徨う劉から、興奮気味な喜声が連続して発せられる。

 滅多に見られない希少品が数多く取り揃えられているようで、彼の悲鳴はそれが原因らしい。


「あのハシャギ様、まるっきり子供だな」


 さっきは疲れたとか言ってたくせに、今はこれだ。

 無邪気というには年を取りすぎている劉の言動に、つい呆れてしまう。


「何時までも子供心を忘れない男の人って、それはそれで可愛いと思うけど」


 僕の隣に立つウエインは、独り騒ぎ真っ最中の劉を微笑んで評す。

 生憎と僕はそれに賛同しかねるけれど。


「可愛い、ね。僕には馬鹿っぽく見えて好感は持てないよ」

霧江きりえ君は厳しいな〜」


 他愛ない会話を交わしながら、僕達は携帯食料や簡易テント等の外泊行軍用品が並ぶ棚の合間を進んでいく。

 彼女が僕達に会わせたいという人物は、店の更に奥で待っているそうだ。


「劉、何時までも見てるなよ。買い物は後でも出来る。今は先に進もう」

「おう、判ってるさ。って、うおお! 俺の愛用弾が1パックでこの値段だと!? なんてお買い得なんだ」


 呼んだ傍からこれか。

 やれやれだ。


 ウエインに案内されて店内の奥を目指す途中、方々に陳列されている商品を流し見た。

 銃火器や刃物、医療キット、超小型モバイルパソコンに対戦車ミサイルランチャー、偽造IDカードまで、その種類は多彩。

 ここまで手広く無節操に、多量の品を取り扱う店も珍しい。

 他店を上回る量と質。確かに此処ならば、必要とする物が労せずして手に入るだろう。

 そう思わせるだけの品揃えだ。

 ウエインの兄達が好んで利用していたというのも納得出来る。

 そして今も、そのチームメンバーが生き残りは、此処を冒険の足掛かりとしているとの事。

 これから会いに行く件の人物は、果たしてどのような人なのだろうか。

 来るべき出会いにを前に僕が心に宿すのは、大きな期待と一握りの不安。


「あ〜ら、お兄さん、それに興味があるの?」

「な、なんだアンタ?」


 ガラにも無く少しばかり緊張していた僕の耳へ、離れた場所から上がる2つの声が届く。

 1つは聞き慣れたもの。らうの声だ。

 しかしもう1つは判らない。甘ったるい調子の声。考えてみても聞き覚えはない。


「劉め、どうかしたのか」

「行ってみましょう」


 ウエインの申し出に僕は一度だけ頷く。

 どの道、待ち人の元には劉も連れて行かねばならない。様子を見る意味も込めて、僕達は彼と合流すべく、店内を声の出所目指して進んだ。


「ウフフ、お目が高いわねぇ。それは広域拡散型強襲散弾機関砲マルアークスランツェよ。扱いは難しいけど、威力の程は大保障。お出掛けの際は一本持ってくと、いざって時に助かっちゃうわよ」

「いや、別に買う気はねぇしな」

「あらぁ、そうなの? お兄さんみたいなオトコが、無骨な重器を持って戦う姿はさぞや素敵でしょうに。あぁ〜ん、想像したらゾクゾクしちゃう」


 移動の際も聞こえてくる声。そのやりとりを聞いていると、どうやら劉が誰か妙な人に絡まれているようだ。

 世間一般に言うオネエ言葉を利用する相手へ、劉の声にも怯えと嫌悪が滲んでいる気が。


「変な想像すんな、気色悪い! てかアンタは何だ。この店の関係者か?」

「ええ、そうよ。興味があるなら、電話番号教えてあげてもいいわ。貴方少し好みだから、と・く・べ・つ・にね」

「やめろぉぉぉ! そんな目で俺を見るなぁ! 俺にソッチ系の趣味はない。他を当たれ!」

「んもぉ〜、イケズ」


 僕達が其処へ辿り付いた時、劉は蒼白になって後退りしていた。

 そんな彼の正面には、背の高い金髪の男性が居る。彼は右の小指を口に咥え、悩ましげに腰をくねらせている最中だった。


「うおぉぉ、赤巴せきはにウエインお嬢さん、丁度いい所に! 助けてくれぇ〜」


 僕達の姿を認めると、劉は情けない声を上げながらこちら側へと走り寄ってくる。

 面上には恐怖の色が刷かれ、腰は若干引けていた。


「いったい、どうしたんだ?」

「あの変質者が迫って来るんだよ!」


 僕等の前に立つと、劉は震える人差し指を己が後方へ向けて、金髪の男性を指し示す。


「んもぉ、変質者呼ばわりなんて失礼しちゃうわ」


 彼は口から指を離し、両手を腰に当てて、上体を少しだけ前屈めた。

 その表情は憮然としたもの。しかし強い敵意や憎悪は感じない。軽く腹立てた程度のようだ。


「良かったじゃないか。モテてさ」


 僕は前方面に立つ男性と劉を順に見遣り、それから細目の相棒へ率直な感想を述べる。

 別に嫌味という訳じゃないけど。


「ちょ、赤巴、おま、本気で言ってんのか!? 酷! それは酷!」


 僕の発言に劉は絶望的驚愕を満面にして叫ぶ。

 慌てふためく彼を見るのは少し面白いな。


「あ」


 縋りつかんとする勢いの劉を制し、互いに言葉を交わす僕等の傍で、ウエインが端的な一声を発した。

 彼女の目は正面の男性へと向けられている。


「アキさん」

「あらぁ、ウエインちゃんじゃないの。戻ってきたのね」


 僕と劉を余所に、彼女は金髪男性と名を呼び合った。

 両者の気負いない親しげさは、2人が単なる知り合いでない事を理解させるには充分だ。


「ウエイン、知ってる人なのか?」

「知ってるも何も、あの人よ。君達に紹介しようとしてたのは」


 少女の返答に、僕等は一瞬言葉を失った。


 ウエインが示した男性、彼の身長はらうと同程度。恐らく180cmには届いているだろう。

 すらりとした痩身へ着込むのは、黒地で仕立て上げられたスリーピースのスーツ。

 その完璧な着こなしと優雅な立ち居振る舞いもあって、彼の姿は清廉たるこの場に相応しい紳士の如く感じられた。

 手入れの行き届いた柔らかげな金髪は耳を隠すまで伸び、目鼻立ちの整った顔は、男の僕から見ても美形と思える程。

 端整な面貌には女性物の化粧がくどくない程度に施してあり、唇へ引かれた赤いルージュが上質な潤いを以って煌いている。

 上品なメイクの所為だろうか。彼には妖艶とも言える独特な雰囲気があるように思う。

 それが彼の存在を異様や不気味とは一線を画す、一個の美として確立させている気がした。

 如何せん、少々の奇抜さは拭えないが。


「つまりその子達が、ウエインちゃんの見付けたお仲間ってワケね」


 前方に立つ男性は、僕と劉を順々に見遣って微笑する。

 それだけで劉は小さな悲鳴を上げて、じりじりと一、二歩後退った。

 見慣れた軽妙の感は表情から消え失せ、冷や汗混じりの怯え顔に固まっている。

 どうやらあの手のタイプは生理的に受け付けないらしい。先刻モーションを掛けられた影響かもしれないけど。


「そうです。こっちが霧江きりえ赤巴せきは君で、それからこっちが風皇ふおう劉君」


 ウエインは浅く頷くと、僕等を指して名を告げた。


「どうも」


 真っ直ぐに注がれる底の知れない目へ、僕はほんの少しだけ会釈を返す。

 対して劉は相変わらず引き攣った顔で数歩下がっていた。今にも逃げ出しそうだ。


「ふぅ〜ん」


 彼は値踏みするような目で、僕と劉を上から下まで舐めるように見回している。

 好奇の視線には慣れっこなんだけど、こういう粘つくような目っていうのは不慣れだ。

 正直、いい気持ちはしない。だからささやかな抵抗の意味も合わせ、僕からも相手の様子を探り見る事にした。

 化粧の所為でいまいち年齢は読めないが、大凡20代後半だろうか。

 しなやかな細身からは力強さというものは感じないのに、不思議な空気がある。熟練の猛者、やり手の仕事屋、そんなイメージを想起させるだけの、静かで落ち着いているが、荒ぶる獣に等しい気配。

 彼は強い。黙っていてもそれが感じられる。それだけの物が、彼の全身には滲んでいた。

 或いは、それは経験に裏打ちされた自信だったのかもしれない。


「ウフフ、けっこう素敵な子達じゃない。グーよ、ウエインちゃん」


 程無くして僕等から視線を外すと、金髪の男性はウエインへ右の親指を立ててみせた。

 それへ微笑んで頷くと、彼女は今度、こちらへ向き直って男性を示す。


「さっきも言ったよね。あの人が君達に紹介したかった兄様の仲間で……」

「アキマリナ・ルーネンメビュラよ。堅苦しいのは嫌いだから、気軽にアキちゃんて呼んで」


 ウエインの言葉を引き継ぎ、アキマリナと名乗った男性がウィンクしてくる。

 僕は大した反応は返さなかったけれど、劉の応対は劇的だった。


「じょ、冗談はよし子さんだぜ! 幾らウエインお嬢さんの紹介でも、そんなキワモノと面識を持つなんざゴメンだっての!」


 凍り付いていた表情のまま、劉は固まっていた口を強引に開いて抗議する。

 彼の吐き出す言葉には熱気を含んだ本心と拒絶の意思が、これでもかという程に塗り込まれていた。

 僕は然して気にならないけどな。

 劉は次世代品種セカンドよりもオカマの方が嫌いのようだ。


「待ってよ風皇君。確かにアキさんはちょっと個性的だけど、アウェーカーとしての腕は本物なんだよ」


 劉の激発に意見したのはキワモノ呼ばわりされた当人ではなく、僕等と共に来たウエインの方だった。

 彼女は真剣な顔で劉を見詰め、拳を握って力説を始める。


「アキさんはね、兄様を探していた私を親身になって面倒見てくれた。アウェーカーの事を色々と教えてくれたり、稽古をつけてくれたりもしたわ。自分には何の得もないのによ。とても優しくて、頼りになる人なんだから。何も知らない君が、そんな風に言うのは許せないんだから!」


 少女の剣幕は凄い。

 両瞳に怒りの炎を灯し、自分の親兄弟を馬鹿にされたかのような勢いで、劉へ猛然と食って掛かる。

 まだ会って間もないけど、これが僕等に見せた彼女初めての激情だ。

 これには劉も面食らったらしく、ウエインの顔を見たまま何も言い返せない。

 少女に圧倒されて、面上には困惑が広がっている。

 彼の性格から考えて女の子に怒られる事態というのが、許容限界を越えた難問なのかもしれない。


「2人とも、その辺にしてちょうだい」


 どうしたらいいのか判らないという様子のらうと、彼を睨み見るウエイン。

 そんな2人へ向けてアキマリナが、やんわりと声を掛ける。

 彼の甘ったるいが穏やかな声は、両者の間に生まれつつある険悪な空気を制した。


「アキさん、でも……」


 ウエインは声の主へと振り返り、止められた事に僅かばかり不服そうな顔をする。

 それへ微笑を返し、アキマリナは彼女へと歩み寄って、両肩へ静かに手を置いた。


「人には誰だって好き嫌いがあるわ。嗜好の違いもね。アタシは他人にどんな目で見られても気にしない。それよりも、アタシの事でウエインちゃんが、折角見付けた仲間と喧嘩する方が辛いわ」


 彼女の目を見て、彼はゆっくりと言い聞かせる。

 傍から見ると姉妹(と言っていいのだろうか。兄妹の方が適当な気がするけど)のようだ。


「……はい、すみませんでした」


 アキマリナに諭されて、少女は申し訳なさそうに頭を下げた。

 全体的な雰囲気から、劉へ向けていた怒気はすっかり萎み消えている。

 彼女にとって兄の元仲間というアキマリナは、かなりの影響力を持つらしい。色々と世話になったという話だから、その為だろうか。

 邪推するなら、彼に亡き兄の面影を重ねているとも考えられるけど。

 どちらにせよ、僕には関係のない事だな。


「判ってくれたらいいのよ。でも、ちょっと嬉しかったわよ」


 彼はと言えば、すっかり大人しくなったウエインに微笑み掛けて、ウィンクを1つ投げ寄越す。

 それを見て彼女の顔にも笑顔が戻った。

 第三者的目線で言わせて貰うなら、互いにフォローのし合える良いコンビだと思う。


「なんか、俺が悪者みたいだな」


 眼前で行われる微笑ましやかな2人のやり取りを見て、劉が所在無さ気に呟く。


「実際、君が悪いだろ」

「だってよ、アレはないと思わないか?」


 僕が事実を伝えてやると、彼は最後の抵抗が如く顎先でアキマリナを指した。


「別に。性格は人それぞれさ。それへいちいち文句を言うのは、デリカシーが無いと思うけどね」

「なんだよ、ちょっとぐらい味方してくれたっていいだろ」

「生憎と僕は嘘が嫌いでね。心にも無い事は口に出来ない性分なんだよ」

「へん。どーせ俺は悪者ですよ。自己中で空気の読めない男ですよーだ」


 とうとう子供じみた自己批判を始めた劉。

 どうしようもない奴だ。それ以前に、どうしようとも思わないけど。

 ウエインはこういうのも可愛いっていうのかな。


「男のくせに女の真似する奴と、女顔の男で親近感でも湧いたかよ」

「……殴るぞ?」


 不貞腐れた彼のイチャモンに対し、僕は拳を固めて晒しやる。

 大人げないこんな男の心情を汲むつもりなど無い。もう一言二言僕の気に障る事を言ったら、本気で殴ってやるつもりだ。


「はいはい、皆、取り合えずお話しましょ」


 打ち合わされた両手の音に、僕等はそちらへと意識を引き寄せる。

 見ればアキマリナが手を叩き、微笑みながらこちらを見ていた。


「遺跡へ下りるには仲間は必要よ。ウエインちゃんとアタシだけじゃ心細いから、彼女に他の面子を探してきてもらったの。それが貴方達ね。どう? アタシ達と一緒に動いてくれる?」

「僕は一向に構わない。貴方はかなり腕が立つようだ。そういう人材は歓迎するよ」

「あら、有り難う赤巴ちゃん」


 僕の言葉に彼は笑顔を作った。

 男顔だが、女性っぽい柔和さが宿っている。無理矢理女風を演じている訳ではないようだ。


「で、劉ちゃんはどうかしら?アタシを嫌うのは構わないけど、あぁんでも、本当はとっても構うわ。と、それは置いといて。ウエインちゃんが見定めた相手ですもの。出来るんなら、仲良くしたいのよねぇ」

「俺は、その、なぁ……」


 等しい笑顔を向けられた劉は、言いよどみながらウエインの方を見た。

 彼女は怒りの引いた穏やかな顔をしているが、劉を見る目には言外の強制力が光る。

 つまり『いいに決まってるよな』と語り掛けてる訳だ。


「ま、まぁ、さっきは言い過ぎたと思う、ぜ。アンタが強いってのは何となく判るから、手ぇ貸してくれるなら有り難いんだが……あんまり変な目で見てくれるなよ。それと、必要以上に近付くな。そいつを守ってくれるなら、な」


 ウエインから送られる無言の圧力に押されたらしく、彼はぎこちなく笑って搾り出すように述べる。

 それでもアキマリナは嬉しそうに微笑み、手で了承のサインを描いた。


「ウフフ、有り難う。アタシも貴方達と御一緒出来て嬉しいわ。これから、よ・ろ・し・く・ね」


 彼の笑顔とウィンクに、劉は限界まで引き攣った無理矢理な笑みで応える。

 ウエインはその様子を満足気に見て、アキマリナと手を打ち合わせていた。

 新たな、そして心強い仲間を得て、僕等のパーティーは形を成してきた。各々の思いや関係は複雑且つ微妙なものだけど。


「話もまとまった所で、遺跡探索の準備を始めたいんだけど」

「それなら大丈夫。私が仲間集めへ行ってる間に、アキさんが用意しておいてくれたから」

「ウフフ、全員に共通して必要な道具類は集め終えてるから、後は個人で入用な品を選ぶだけよ」


 言いながら、アキマリナは店の奥まった場所を指差す。

 そこには紺色をした4つのロールボストンバックが置いてあった。

 前後に長い円筒形の収納部は、ほぼ限界近くまで膨らんでいる。

 あの中には栄養素の凝縮された携帯食料や飲料水、簡易シェルターや照明器具や医療キット等が詰め込まれているのだろう。

 各品々の小型化に伴い、バッグ1つを満たすだけで数週間分の旅準備が完了するのだから心強い。


「今回の費用はアタシが持つから安心してね」

「全部?」

「ええ」


 アキマリナの思わぬ提言に、僕とらうは顔を見合わせる。

 金銭に対する考え方が基本的にシビアなアウェーカーは、例えそれが協力関係を結ぶ相手であっても、自分の分は自分で払わせるのが常だからだ。

 会ったばかりの見ず知らずな連中分まで準備費を負担する、そんな寛大さ・サービス精神を持つ者は極めて稀。何より単なる善意にしては割が大きすぎる。

 そこに秘めたる思惑、狙いがあると勘繰ってしまうのは仕方ないだろう。

 そうした僕等の胸中を察してか、彼は微笑を湛えたまま語り始めた。


「ウエインちゃんのお兄様は、レシオスちゃんて言うんだけどね。彼が居なくなってから、アタシ、アウェーカーは休業してたのよ。それで馴染み深いこの店で働きつつ、元同業を手助けしてたの」

「この店で装備を整えたアウェーカーが活躍すれば、そのアウェーカーをバックアップした店の評価が高まるでしょ。だからこれは先行投資なんだって。ね、アキさん?」

「そ〜いう事。だから貴方達は何も気にしないで、アタシの見立てた道具を受け取って頂戴。そして充分な活躍をしてね。それがお返しよ」


 そういう事か。なら、もし僕達が大した成果を上げられなかったら、用立てた分の経費はキッチリと徴収するつもりなんだろうな。

 事実、彼の双眸がそう言っていた。

 アウェーカーは慈善事業では立ち行かない。行動の端々に、自らへプラスとなるべく計算が存在する。

 どの程度一線を退いていたかは知らないが、彼は今もアウェーカーのようだ。


「勿論、見込みのありそうな人達にしか投資なんてしないわ。そういう意味ではアタシ、貴方達に結構期待してるのよ」


 アキマリナは艶っぽい笑みと共に、僕等へと流し目を送る。

 彼の撫で擦るが如き視線に、劉は身を固めて冷や汗を垂らしていた。


「私の我侭で、アキさんにまた危険な事をさせてしまって……」

「もぉ、ウエインちゃんたら。貴女の手助けは、アタシが好きでするのよ。自分から望んで前線に出るの。自己責任で勝手にやるだけ。だからそんなの気にしないでイイわって、何度も言ってるじゃない」


 負い目からか表情を曇らせるウエインと、それを宥めるアキマリナ。

 先刻からの遣り取りを見てても思うけれど、彼女達の間には部外者が窺い知れぬ何があるようだ。

 彼女の彼へ向ける信頼の情は、それこそ兄や姉に向けるものと近い気がする。またアキマリナのウエインへ接する態度も、妹へ注ぐ愛情のような感じだ。

 やはりかつての同僚の妹、兄の同僚という事で、双方思う所があるのだろうか。

 それはさておき。

 2人が交流を暖めている間に劉は金縛りから解放され、置かれたバックへと再度視線を投げる。


「俺達が来る前から4つ準備されてたって事は、最初から4人メンバーで行くつもりだったのか?」

「そうみたいだね。ウエインが僕達だけに声を掛けてきた事から考えても、チームメンバー数は決めてあったと考えるのが妥当だろう」

「ま、下手に多くなられると、投資だけで赤字になっちまうからな」


 劉の言う事は尤もだ。

 最終的にとは言え店の売り上げ向上を狙う以上、如何に先行投資と言えどもココまでが限度なのだろう。

 あまり羽振りを良くし過ぎても、それに見合うだけの利益が還元される保障はない。

 それらを加味した結果がこれという訳だ。


 数の事はいい。

 僕が気になるのは、各員の実力度合いの方だ。

 元々から4人行動を想定している以上、メンバーの規定数内で目標とする総合戦闘力は、ある程度決められていた筈。

 集まった者達の力が目標分に達していなければ、そもそもの準備計画が破錠してしまうのだから。

 これらを管理しているだろうアキマリナからは何も言ってこないところを見ると、その辺りはクリア出来ていると考えるのが妥当だけど。

 どうにも気になって仕方ない。一度確認してみない事には、すっきり出来ないな。


「アキマリナ、さん。ちょっと聞きたいんだけど」


 呼び掛けると、彼はすぐさま反応してきた。

 悩ましげな表情と流し目を以って。


赤巴せきはちゃんたらぁ、そんな他人行儀な呼び方しなくったっていいのにぃ。アタシの事はアキちゃんで結構よ〜」

「いや、それは流石に……年上の人に対して、ちょっと失礼かと思って」


 本当は僕が嫌なんだよ。

 彼が女性的な心の持ち主である事に別段異論はない。それは個性でもあるだろうし、自分自身の問題だ。僕がとやかく言う筋合いはないさ。

 それとは別に問題なのは、人を「ちゃん」付けで呼ぶ事だ。

 僕は元来、そういう呼び方は好きじゃない。なんでと問われても困るけれど。兎に角、嫌いなんだよ。

 別に「ちゃん」付けで呼ばれるのはいい。でも自分が誰かに付けるのは嫌だ。


「気にしなくてもいいのにぃ」

「それなら私みたいに、アキさんって呼んだら?」

「アキさんか。そうだな、そうするよ」


 ウエインの助け舟のお陰で、余計な精神的苦痛を味わわなくて済むか。

 これは感謝しないといけないな。

 他者には理解出来ないような細事からしれないけど、僕にとっては重要な問題なんだ。


「それで、用件は何かしら?」

「ああ。遺跡へ一緒に行く面子は、本当に僕達でいいのかと思って。4人だけで進む以上、それなりの実力者でないと困るだろうからさ」

「あら、そういう話。それなら心配はいらないわ」


 僕の疑問にアキさんは微笑を浮かべ、右の人差し指を下唇へ触れさせる。


「ウエインちゃんは新人さんだから置いておくとしても。アタシから見て貴方達は充分使えるレベルよ」

「その根拠は?」

「雰囲気っていうのかしらね。やり手のアウェーカーが持つそれに、近い物を感じるの」


 変わらぬにこやかさを残したまま、彼は左手で僕と劉を順々に指し示した。


「アタシは長くアウェーカーとして生きてきて、その過程で色んな連中に会ってきたわ。それらの経験から他人の強さの程度っていうのは、それなりに見分けられる自信があってよ」


 ウィンクを投げ寄越す彼の瞳に、偽りの色はない。

 本心をそのまま言葉に乗せて送り出しているのだろう。自説が正しい事を、全身から放射させる自信によって証明している。

 目には見えなくとも、肌に感じる気配の波。それが雄弁に事実を語る以上、疑念の昇る余地はない。


「劉ちゃんもそこそこ鉄火場は踏んでるようね。何気ない仕草にも動きの良さが出てるわ。それにただ立ってるだけでも、応変に対応可能な姿勢を自然に作っている。素人じゃこうはいかないものね」

「そりゃどーも」


 アキさんの評価に対し、劉は口の端を吊り上げて適当に手を振り返す。

 ウエインの前ではあんなに嬉しそうに笑ってるのに、彼が相手だと愛想笑いすらしない。

 大した豹変ぶりに差別意識だと、感心さえしてしまうね。


赤巴せきはちゃんも半端じゃないわよね。ウエインちゃんとそんなに年は変わらないのに、反応速度や身のこなしは並々ならぬものだわ。何気ない所作から、それが判ってよ」

「そういえば霧江きりえ君、風皇ふおう君との喧嘩中も凄く動けてたよね。同年代だろうに私と全然違うからビックリしちゃった」

「ま、確かにやるよな。ガキのくせに大した奴だぜ、まったく」


 人から賞賛されるのは悪い気分じゃないよ。自分が認められる実感が得られる事は、それなりに嬉しい事だ。

 しかし彼等の言葉を受けても、僕は決して上機嫌にはなれない。

 その理由は一つ。彼等全員が、ある誤解をしているからさ。それは僕にとって無視出来からざる問題だ。

 速やかに解消しておかねば、精神衛生上よろしくない。


「皆が僕をどう見てるかが充分判ったよ。でも生憎だけどね、僕はこれでも24だ。ウエインとは同い年じゃない」


 そう、僕の実年齢は24歳。

 容姿の所為で若く見られがち、というか、若くしか見られないけど。とっくの昔に成人してるんだよ。


「あらぁ、そうだったの? どうりでねぇ」


 アキさんは口許に手を添えると、両目を数度瞬かせた後ゆっくり頷く。


「お、お前さん、俺の1つ下かよ……見えねぇ」


 らうは糸目を開いて、僕の全身を半信半疑の態で見詰めてきた。


「私もてっきり同じぐらいか年下かと思ってた。でも、全然年上だったんだね」


 ウエインは感心するような息を吐き、誤魔化すような笑みを浮かべる。

 三者三様、驚き方は様々だ。僕が見かけ通りの年齢でなかったのが、少なからず衝撃を与えているらしい。

 まぁ僕自身、自分の姿が年相応でないのは認めるけど。だからといって10代に間違えられたまま、訂正しないでおくつもりはない。

 子供扱いされるのは僕のプライドが許さないからだ。勿論、女に間違えられるのも不愉快極まる。

 そんな曲解をされるのは我慢ならない。直ちに認識を改めて貰わねば。


「しっかし赤巴、お前さんは性別のみならず年齢まで偽っていたとは」

「何時偽った、何時。両方ともそっちが勝手に勘違いしただけだろ」


 劉の言い掛かりに軽くツッコんでおき、改めて3人を見る。

 各々に驚愕覚めやらぬという感じだ。けれども、これ以上僕に出来る事はない。

 後は個人で情報の修正と理解・納得をしてもらうのみ。放っておけば時間が解決してくれるだろう。


「何にせよ、僕の聞きたかった事と言いたかった事はこれで全部だ。他には別段用事もないけど」

「それならぁ、ここら辺で各自に最終準備へ取り掛かりましょう。自分に必要な武器や道具を探して頂戴ね」

「はい、判りました」

「うーっす」


 アキさんの声に各員は頷き、それぞれに異なる商品コーナーへと向かい始める。

 劉は先刻から引き続いて銃器・弾薬の陳列された場所へ。

 ウエインは既に武器を有している為か、個人携行用の護身防具類を見に行った。

 以前から此処で働いていたというアキさんは、既に自分の武具を用意してあったのだろう。ウエインと共に行き、彼女に必要な装具を見立てるようだ。

 僕はと言えば、特にこれという武器類を探す事無く、医薬品のスペースを求めて皆とも別の方向へ店内を進む。

 全てを熱し破壊する特異能力サイキックが僕の持つ最大の武器であるから、基本的に得物は必要ない。

 ただこの力は使う毎に生命力を消費するというのがネック。遺跡の探索はかなりの長丁場になる事が容易に想像されるし、頻繁に使っていては僕の身が保たないだろう。

 だが使う能量をセーブしていけば、長時間に渡る活動も不可能じゃない。更にそれを補うべく、僕はある種の薬物を求めている。

 先鋭的な技術によって作り出された蛋白質を主成分とするナノマシン。それによって構成された薬剤だ。

 これを摂取すると体内でナノマシンが活性起動し、各細胞へ作用して失われた活力を取り戻させる。或いは損壊した細胞に成り代わって体機能を補修し、既存細胞の分裂速度を増進させる。

 早い話が、疲れてヘバっている細胞に無理矢理渇を入れて、強制的に働かせる為のカンフル剤だ。

 疲弊した細胞へエネルギーを譲渡して活動を助けはするけど、それも完全にフォロー出来ている訳じゃない。何せこの薬物は未完成の代物だからね。副作用の辺りなんかも改善されてない。

 研究所か病院か、開発元から幾種類かの試作品が横流されて裏の市場へ出回っているのさ。無論、法的には使用が認められておらず、一部は劇薬扱いにもなっている。

 それでも僕にとっては重宝する薬だ。

 これ程の品揃えを持つ店ならば、きっと置いてあると思うけど。


「……アスピリード03」


 訪れた医薬品関係のブース。連なる陳列棚の1つに、僕は目的の薬剤を発見した。

 市販の風邪薬と大差ないカプセル型の薬が、小瓶の中に何十個も詰まっている。

 両脇を異なる既製品に挟まれて鎮座するそれを手に取り、張られているラベルをもう一度見た。

 異常な程しっかりと付着しているシール状のラベルには『アスピリード03』と薬名が書かれているだけで、構成素材や服用時の注意事項は何も記されていない。

 それはこの手の不正品には珍しい事じゃないし、寧ろ当然の話。アウェーカー御用達の店では、お客様重視の親切なアドバイスなど存在しない。

 利用客は自らの目で商品を見極め、個人の責任で使用する。それで不具合が生じ負傷したとしても、店側は一切の責任を取らないし謝罪さえない。悪いのはそれを扱った店でなく、それを選んだ客という事だ。

 裏社会の店舗経営者にとって客とは、ネギを背負って歩いてくる鴨と同じような存在。金の運搬人にすぎないという訳だ。

 それはいいとして。

 僕が今までに覗いてきた店には、この薬剤がここまで大量に瓶詰めされた状態で置いてはなかったな。

 此処は本当に凄い店だ。こんな風に隠れてなければ、もっと繁盛して賑わってただろうに。

 まぁ、こういう良い店を自分達だけの貸し切り状態で使えるのは、それはそれで嬉しいものだけど。


「あらぁん、赤巴せきはちゃんは、お薬を買うのかしら?」


 突然背後から声を掛けられ、僕は思わず声を上げそうになった。

 寸での所でそれを飲み込み、一気に振り返る。


「はぁ〜い」


 其処にはアキさんが微笑みながら立っていた。

 しかし彼が近付いて来るのを全く感じなかったな。完全に気配を断っていたようだ。

 意図的か、それとも普段からそうしているのか。どちらにせよ、心臓にはよろしくない。


「脅かさないでくれ」

「ウフフ、ごめんなさいね」


 早鐘打つ鼓動を気付かれないよう、僕は努めて平常心を装う。

 微笑を交えてこちらを見ている相手の様子からは、果たして上手く誤魔化せているのか判らないが。


「貴方が持ってるその薬、あまり感心出来る物じゃないわよね」


 言いながら、アキさんは僕の持つ小瓶を指差す。

 それまで浮かべていた笑みを薄め、若干の厳しさを宿し。


「否定はしない。でも僕には必要な物だ」

「力を使うのに?」


 瞬間、僕の目は無意識のうちに細まる。

 能力の事を指摘されると、反射的に体が反応してしまうのは昔からだ。


「ウエインちゃんに聞いたのよ。貴方が次世代品種セカンドだってね」

「それでか」

「安心して頂戴。アタシもあの子同様に、貴方達へ偏見は持ってないから」


 その時だけ彼はニコリと微笑んだ。けれどすぐに笑みを潜め、先の穏やかならざる表情を作った。

 硬い表情の正体は彼の目にある。双眸に帯びる光は警告者のものだ。


「アタシはアウェーカー生活が長かったから、次世代品種セカンドには何人か会った事があるのよ。その時にね、彼等の能力系統について教えて貰った事があるわ」

「能力の系統……」

「ええ。貴方達の力は大きく2つに分けられるんですってね。力は弱いけど反動も小さいモノと、大きなリスクを負う代わり強力なモノ。……赤巴ちゃんの力は後者みたいね」

「こんな薬に頼るぐらいだし」


 僕が手にする瓶を軽く振ると、透明な容器の中でカプセルが一斉に動く。


「これは貴方の問題だから、アタシが口出しすべき事じゃないんでしょうけど。でもこうやって会ったのも縁、忠告ぐらいはさせて貰うわ」


 アキさんは真剣さを含んだ顔で、真っ直ぐに僕の目を見てくる。

 突き込まれる視線から、顔を逸らす事は出来ない。

 見た相手を繋ぎとめておくだけの迫力、とでも言えばいいのか。面貌に差す強い意思が、逆にこちらを釘付けにさせる。


「自分の体は大事にしてね。貴方まだ若いんだから、人生これからじゃない。こんな所で壊しちゃ勿体無いわよ」

「言いたい事は良く判るよ。でも……」

「ああ、別に気にしなくてもいいわ。貴方には貴方の都合があるでしょうから。これは単にアタシが老婆心から言ってるだけだもの」


 片手を前へ出して僕の意見を制すと、アキさんは微笑に戻る。


「生身の体はそれだけで財産よ。失くしてから嘆いても後の祭り。くれぐれも無理はしないようにね」


 最後にそれだけ言い残し、彼は背を向けて歩き始めた。

 その後姿が医薬品専門ブースから見えなくなるまで見送った後、僕は手にする小瓶を顔の前まで持ってくる。

 中に詰められたカプセルの群を見遣り、今し方言われたばかりの内容の思い返した。

 こんな薬を常用していれば、何時か僕の体は取り返しのつかない事になるだろう。そんな事は判っている。

 僕は別に自分の体がどうでもいい訳でも、ましてや死にたい訳でもない。出来る事なら人並みに年を重ねて、老衰で死にたいと思ってるよ。

 それでもだ。

 僕はこの薬を使う。そして持って生まれた能力を駆使し、遺跡を進む。其処に眠る遺産を見付け出し、持ち帰ってみせる。

 全ては金の為に。

 己が身を賭してでも、僕は金が欲しい。易々とは掴めぬ様な大金がだ。


「折角の力だ。儲ける為に使ってやるさ。これは僕の道だ。誰にも文句は言わせない」


 瓶に映る自分の顔へ、最初から変わらぬ決意を述べる。

 透き通った硝子越しに見る僕は、不敵な笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ