話の10:すわ!仲間集め(IX)
一時はどうなるかと思ったけど、何とか丸く収まって良かったわ。
折角見つけた仲間が、いきなりバラバラになっちゃったら泣くに泣けないもん。
まぁ、騒動の発端は私が作ったようなものだし、風皇君と霧江君を嗾けたのも私なんだけど。
でもそれは、モヤモヤした気持ちを引き摺ったままじゃ、冒険だって上手く行かないと思ったからで。
互いに思いの丈を吐き出し合えば、きっと一緒に動けるようになる。そんな風に考えてたからだし。
私だって、無責任に投げっ放すつもりは無かったわ。ちゃんと最後の最後には2人を止めようと思ってた。
そして実際に止めてみせた。
そりゃ、霧江君が次世代品種だったなんて思いもしなかったし。その所為で仲違い寸前な空気が生まれるとも想像してなかったけど。
兄様は次世代品種の事を『少し特別な力を持って生まれたばかりに、不幸な境遇へ追い込まれた可哀相な人達』って言ってたから、私はそんな悪い印象持ってなかった。
でも彼等の話だと、次世代品種を快く思わないのは一般的な事みたい。
う〜ん、私ってやっぱり世間知らずなのかな?
ちゃんと勉強はしてたし、学校だって行ってたのに。
周りに居たのは浮世離れした御嬢様ばっかりの学校だったから、世俗的な事とはすこーし縁遠かったけどさ。
でもだからって、ここまで考え方に違いがあるなんてなぁ。
外の世界はやっぱり複雑。この調子で、私は上手くやってけるのかな……
嗚呼、駄目ダメ。
沈まない。下向かない。顧みない。後悔しない。
自分で決めた事じゃないの。
私は兄様の跡を継ぐって誓ったんだ。
その為に訓練だってしてきたし、あの人に剣闘勇士としての戦い方や、アウェーカーの生き方を教えて貰ったんじゃない。
下準備は抜かりなくしてきたつもりよ。後は今出来る事、やるべき事に集中して突っ走るだけ。
そうよ。私には目的がある。色々思い悩むのは兎に角後回し。
「ねぇ、風皇君に霧江君」
「おっと。ウエインお嬢さん、どうかしたかい?」
「何かな」
呼ぶと同時に2人がこちらへ顔を向ける。
心なしか、喧嘩前より互いの壁が薄れてるような。
何はともあれ2人の仲は元通りみたいね。しかも少しだけ改善されてるみたい。
雨降って地固まった結果かしら。もしそうなら、私が撒いちゃった騒動の種も無駄にはならなかったって事かな。
「話が纏まった所で相談なんだけど」
「OK、素敵なお嬢さんのお願い事なら、この風皇劉が何でも聞いちゃうぜ」
風皇君は私と話す時は、必要以上にニッコニコしてるな。ブスーっとされるよりはいいけど。
でもこれはこれで、ちょっと話し難い気が。
「そういうの程、信じられないと思うけどね」
一方の霧江君はクールっていうのか、素っ気無いっていうのか。
さっき少しだけ笑ったけど、今はもう無表情状態。表情の変化が乏しいから、何考えてるのか判り辛い。
別にそれは悪いと言わないけど。
なんていうか、真逆な2人だなぁ、なんて。
「あ、えっとね。実は2人に会って貰いたい人が居るんだ」
「それはもしや御両親?早くも育ての親に俺を紹介したいって言うのなら、それに応えるのも吝かではないんだが。如何せん、俺は骨の髄までウェーカーだ。まだ地に足をつけ、一つ所に根を張るつもりは……」
「わざわざ僕等を引き合わせたいなんて。いったい何者?」
うわぁ、何かスイッチが入っちゃったみたいな風皇君の妄想独り言を、霧江君は完っ全に無視しちゃってる。
ツッコンであげないんだ。シカトされてる風皇君が痛々しくて憐れでさえある。
ま、まぁ、ある意味自業自得だからいいか。
「さっき話したよね。私に兄様の遺品を渡してくれた、兄様の仲間の一人が居るって。その人なんだけどね」
「もしかして、その人物も僕等の仲間に?」
鋭い。
流石は霧江君。眼鏡キャラは伊達じゃないね。
「うん、そうなの。私が『これだ』って思う人達を見付けたら、連れて来るように言われてて。それで早速2人を紹介しようと思ったんだ」
「遺跡探索の経験者か。願っても無い強力な味方だな」
霧江君が少しだけ考えるような表情で呟いてる。
独り言のつもりなのかな。思いっきり聞こえてるけど。
「僕は構わないよ。是非、会わせて欲しい。劉もいいだろう?」
「へ? なにが?」
「いいってさ。それじゃ行こう」
暴走中の妄想から帰還したばかりの風皇君には、まともな選択権はありませんか。
容赦ないのね。
ま、まぁ、ある意味自業自得だからいいか。
「あの人が居るのはアウェーカー御用達の装販店よ。付いて来て。案内は要らないかもしれないけど」
仲間の了解を得て、私達は歩き出す。
目指す場所はこのエリアの隣接区。其処にあるアウェーカー入用の品々を扱う店よ。
これでまた一歩、兄様に近付ける。