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3.剣を取り、手をかける

 ――“最後の日”まで、あと8日。22日目の朝が来た。


「……もう半数以下にまで減ってしまったわ」


 一縷の望みをかけて、クエスト攻略に出たのが60人。魔物に襲われ死亡してしまったのが70人。他のプレイヤーに殺されたのが40人。それを咎められ殺されたのが10人。そして、自ら命を絶ったのが50人。


 残るプレイヤーは220人近く。その殆どが、フィールドへと出ずに町にある自分の家に籠もっていて。――そんな中で、ターリアだけはいろいろな人の家を回って励ましていた。回復薬など、外に出ていかなければ手に入らないアイテムを定期的に援助していた。


 今では、彼女より強いプレイヤーもゼロと言っていいだろう。プレイヤーキラーに狙われる心配も殆どない。それでも――


「このままじゃ……皆いなくなってしまう。どうしたらいいの……!」


 緩やかに、緩やかに終わりの時は近づいていた。眼の前で、知らないところで、脱落していく仲間たちへと、ターリアは思いを馳せ涙を流す。


「……やっぱり、ダメなのか」


 ――三週間近く、耐え続けてきた。きっと他の誰かがなんとかしてくれると、そんな希望を抱いていた。こうなると、もう道は残されていない。


 ……自分がやるしか(・・・・・・)なかった(・・・・)


「ターリア、君には……これから僕のすることを見ていて欲しくはない」

「……ハーメルン?」


 僕の言葉を聞いて、留まってくれて、何よりも嬉しかった。こんなに静かになった世界で、一人で生き続けるのはとても淋しいことだから。


 メニュー画面を開き、自身の状態を確認するステータス画面を開く。装備品、所持金、所持アイテム、戦闘職(ジョブ)の変更もここで出来る。 


「これからの僕の行いを許してほしい。そして、信じて欲しい。君をこのゲームから救うには、他のプレイヤーたち全員を救うには、これしか方法は残っていない」


 自身の“ハーメルン”としての象徴であった笛を外した。

 ――そして、吟遊詩人の職まで手放した。


「必ず君を助けてみせる。涙を流さなくても済むような、そんな未来を約束する」


 僕は笛ではなく、剣をとった。とらなければならなかった。

 最愛の存在とも言えるターリアに、その切っ先を(・・・・・・)向けるために(・・・・・・)


「やめてよ……ハーメルン……。いったい何を――」


 最高の剣士であり、最高のパートナーだったターリア。

 それでも、剣士の職へと戻っ(・・・・・・・・)たボクより弱い(・・・・・・・)


「どうして……!」

「忘れないで欲しい、必ず君を助けるから。……約束する。無事みんなが戻ったら――この先、未来永劫、絶対に泣かせないことを約束する」


 戸惑ってはいても、剣は抜かない。この状況で、こうやって刃を向けていても、敵意を見せることはない。……信じられていることが、とても嬉しい。


「……ありがとう。そして、ごめん。ゆっくりと眠っていて欲しい、いばら姫(ターリア)――いや、僕の眠り姫スリーピング・ビューティー


 そう言って僕は――最愛の彼女を手にかけた。






 もう後戻りはできない。決して失敗するわけにはいかない。

 信じなければならない。疑ってはならない。


「すまない。僕は臆病だから」


 リストから、一人、二人と名前が消えていく。


「慎重に、慎重に、慎重に事を進めなければ気が済まないんだ」


 戦闘職の者はみんな、攻略へと向かい死んでしまった。残るは非戦闘職の者のみ。吟遊詩人のときの自分のように、ただ為す術なく理不尽な暴力を受け入れるしかない者のみ。


「絶対に、絶対に失敗するわけにはいかない」


 最初にいた550人のプレイヤーは最後の一週間には200人近くまで減っていた。自分の住処があった村には十五人。その人たちを一時間もかからないうちに、僕は全員殺した(・・・・・)


 刃が極力見えぬよう殺した。先端恐怖症などの心的外傷を植え付けないよう、気を払った。顔は狙わない、頭は狙わない。一番良いのは背中から致命傷となる一撃、相手が気付かぬうちに殺すことだった。


 ごめんなさいと、心の中で謝りながら切った。

 堪え切れず、すまないと口に出したこともあった。


 そうして、一日が終わり――誰もいない町の中で一人、笛を吹いた。


「せめてもの手向けとして、笛の音を――」


 戦いの日々に飽いて、吟遊詩人(バード)へと職替えを行ったのはどれぐらい前だろう。ターリアと出会う前だったから、少なくとも一年以上は前だ。


 戦士職へと戻った今となっては、いくら楽器を奏でたところで効果はないけれど――それでもソロプレイヤーとして、嫌がおうにも力を付けなければならなかった時とは違う、自分が真に“ハーメルン”として生きてきた証だから。




 笛の音がするだろう。それはあの男が来た合図。

 笛の音がするだろう。それは、誰かが連れ去られた合図。


 西暦1284年6月26日。ドイツのハーメルン。

 街中の鼠が、湖へと誘い込まれ溺れ死んだ時のように。

 130人の子供が、丘の向こうまで連れ去られた時のように。


 誰も、誰もいなくなる。

 一つのゲーム世界で、その伝説は再現される。




 ――残されていた期限は、一週間だった。六度の夜を越えた。

 一日の終わりにログインリストを見て、減った人数を確認しては笛を吹いた。


「最後の一人……『千枚皮』のカーラ。君で終わりだ」

「お願い……殺さないで……」


 ――自分以外の全員がいなくなっていく。そう感じながら過ごすのは怖かっただろう。『千枚皮』で姿を隠しながら、最後の一日まで逃げ続けたのは素直に凄い精神力だと思う。


 だけれど、自分と彼女のたった二人。この世界に二人しかいなくなってしまったことで、隠れ続けていた生活ももう終わる。僕が終わらせる。


 この世界が、既に綻びかけていた(・・・・・・・)。プレイヤーの共通認識で成り立っていた世界。その認識を成り立たせるのが、“二人しかいなかった場合”どうなる?


 答えは単純明快、その人が認識している世界以外は、消えてしまうのだ。逆を返せば、その人が認識している範囲だけは、精巧に、綿密に、はっきりと存在する。僕はそのエリアを探せばいいだけだった。


 ……この世界は隅々まで回って、しっかり覚えていたはずなんだけども、所々に綻びがあって。自分の記憶力の限界を感じて、乾いた笑いが出たこともあった。


 これで僕と彼女が死んでしまえば、この世界を構成するための意識を持つ者はいなくなる。このゲームは本当に終わりを迎えるんだろう。


「僕だって、殺したいわけじゃない。……だけど、君だけを見逃すわけにはいかない。なるべく暴れないでいて欲しい」


 せめて短く済むようにと、背中から深く、深く剣を突き立てた。


「……ごめん。ごめんなさい。こんな方法しか取れなくて」


 誰一人見逃すことなく。最後の一人になるまで、僕は殺し尽くした(・・・・・・・・)


 自分以外の549人は既にゲームからリタイアしている。


 ターリアを含めた200人あまりは、僕が手をかけた人たちだ。

 僕はこのゲームの世界の中で、大量殺人者となっていた。


「……いかないと。あと数時間で終わってしまう」


 ――それまでに、この地獄を終わらせないと。


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