14話)結局男は全員……追いかけてくれる女子に惹かれるように作られてるんだよ
…………気が付くと目の前には、僕以外の全員が立っていた。
「こんなけ爆睡するなんか、ええ度胸しとぉなぁ?」
僕が目を覚ましたのに気づき、弥生さんが口を開く。顔は笑っているが、目が全く笑っていない。
というか…僕は寝てなんていない。気絶である。
僕は助けを求め、林檎に視線を送る。
〈林檎は反応が無い。既に死んでいるようだ〉
んんん。だめか。
勿論承知だと思うが、阿呆はどうにも出来ないに決まっているので、助けを求めるだけ時間の無駄だろう。
まず、この公演中に、自分が僕にもたれ掛かって寝ていたことを覚えてない様子だ。
救いようがない人間に、救いを求めるのは。期待肥大だと思う。
兎にも角にも、全力で謝り倒す。
「ほな、罰ゲームとして時雨ちゃんとののろけ話でもまたゆっくり聞かせてもらおかな」
「えぇ!それ私も巻き込まれてませんか!?こよみんじゃなくて、私とこよみんの罰ゲームになってませんか!?」
おおっと。そうか。時雨ってこんな奴だったっけ。
「まぁ付き合ってるんやしなぁ。ていうか時雨ちゃん。よだれの後くっきりついてもーとるで。せめて取ってから言い訳せん
と。」
「えっ。ホントだ!!私寝てたんですか!!全然気付かなかった!」
弥生さんの突っ込みにエヘヘと笑いながら口をこする時雨。
うん。やっぱり昔からこんな奴だった。
「まぁ罰ゲームはまた今度や。付き合ってからまだ日ぃ短いやろ?やからしゃーなしや。林間学校の後期待しとるでぇー」
「いやいやいや!こよみんは狼さんじゃないですから!大丈夫ですよ!」
「なんやなんや?林間学校で襲われるおもてるか?中々大胆なやっちゃなぁ。まぁ自分が寝てることに気付かんやっちゃからなぁ。」
「その話はもう止めましょうよぉ!助けてよぉーこよみんー」
僕達はあの後、お昼ご飯を食べるために、近くのファミレスに来ていた。
そして弥生さんの標的は専ら僕から時雨へと、変わっていたのである。いやぁ素晴らしい。
「よぉ食ったなぁ。さぁどーしよか。うち用事あるさかいそんなおれへんけど、記念に皆でプリクラでもとろか!」
ご飯を食べ終え、弥生さんが口を開く。
「いっいえ!申し訳ないですけど!僕はこれで失礼しますね!林間学校で思い出したんですけど。色々備品買わないと行けないんで~」
〈暦は逃げ出した。奇跡的に逃げることに成功した。〉
正直、僕は今プリクラ恐怖症である。
閉所恐怖症でもなければ、林檎恐怖症でもない。
ただプリクラはとりあえず、1年くらいは入りたくない気分だ。
まぁ、備品なんて直ぐ片付くと言えばそうなのだが。嘘では無いから……
ピローン
メールを受信する。誰からだろう……もう『今日はお疲れ様!』メールじゃ無いだろうしなぁ。
まだ別れてから、一分も経ってないくらいだ。
[今どこー?こよみん実行委員に為っちゃったんだよねー?手伝うよー!皆にももう言ってあるからー]
あれ。こんな奴だったっけ。ちょっと嬉しかった。だから、こう言う時は電話だろ!という心の声を閉まってメールで僕の居場所を伝える。
と言っても、皆が居たところから道を一つ曲がっただけなのだが……
「おぉ!こよみーん!お待たせー」
時雨は見つけると、嬉しそうに手を振りながら走ってくる。
「嬉しいけど、そんな大変でも無さそうだから来なくても良かったのに」
本音である。プリクラサボりがバレるわけにはいかないのだ!僕の高校生活と林檎の尊前のために。
だが、そんな僕の考えが最低最悪かと思えるほど、心の底から反省するほど。彼女は屈託のない笑顔をして見せた。
「いやいや!私はこよみんの彼女さんだからね!少しでも大変だったら手伝うのが仕事だよ?」
「ありがと………………………………………………………………………あれ?じゃあ何でさっきは罰ゲーム嫌がったの?僕凄い大変だったけど」
「えっ。そっそっそれは~~あれだよぉ~」
僕の質問にあからさま戸惑う時雨。
騙されるところだった。
悩殺スマイルに全てを流されるところだった。
まぁこう言う所も含めての時雨だからなぁ。
仕方ないなぁ。僕も人生史上最高の悩殺スマイルを解放して……
「でも。嬉しいよ、さぁ行こうか」
フフフ。喰らうがいい。我が至極のハニカミスマイルを……
「こよみん!大丈夫?私が居ない間に頭うっちゃったのかな?凄ーい気持ち悪い顔してるよ?」
彼女の混じりけの無い言葉は僕の心を、これでもかと抉っていったのだった………
「こよみーん?大丈夫?」
〈暦は反応が無い。既に死んでいるようだ〉