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ホラー短編

あそぼー/自販機の裏

作者: ノマズ

あそぼー


 今はもうないのですが、私は小学生の頃、夏になるとよく、その遊園地に遊びに行きました。父の会社の知り合いが、その遊園地の関係者で、夏休みの前になると、父がチケットをたくさんもらって来たものでした。


 六年生の夏だったと思います。

 私たちは、男女三人ずつの六人で、その遊園地に遊びに行きました。


 もう名前も忘れてしまったのですが、都心から離れた所にある、山間の町にある遊園地でした。敷地は広く、ジェットコースターや観覧車、お化け屋敷、プールなど、定番のアトラクションはおおよそそろっていて、休日や大型連休になると、たくさんの人が訪れていました。


 アーチ形のゲートをくぐると、大きな船の模型がありました。その前で写真を撮る人もいれば、船上のデッキ部分はアスレチックになっていて、そこで遊ぶこともできました。


 私たちは、毎年二、三回来ていたので、船のアスレチックは素通りして、最初にジェットコースターに乗ることにしました。


 私は当時から絶叫マシンというものが嫌いでしたが、当時好きだった初恋の女の子、Tちゃんもいたので、平気なふりをして乗らなければなりませんでした。


 ジェットコースターの次はお化け屋敷でした。友達は、私がTちゃんのことを好きなのを知っていたので、私とTちゃんが、二人で行動できるように、あれこれ小学生ながら、気を使ってくれて、私とTちゃんの二人で、お化け屋敷に入ることになりました。


 お化け屋敷も、小学生の頃は大の苦手で、入りたくなかったのですが、Tちゃんと二人きりということで、私は嬉しいのと、「男らしいところを見せなければ」という気持ちとで、あまり恐怖を感じませんでした。


 Tちゃんは元気な女の子でしたが、お化け屋敷に入るときになると、やっぱり女の子で、私の右側に寄り添って、袖のあたりを、つまむように掴むのでした。


 そのお化け屋敷は、「本当に出る」という噂がありました。

 お化け屋敷ではありがちな噂ですが、当時、まだインターネットが普及する以前のことで、しかも子供だった私たちには、その噂が、ありがちなものであるとは思えませんでした。


 暗い通路の中、室外機のブーンという音がコンクリの壁の奥から聞こえていました。通路には、蹲っている人影や、天井から伸び落ちてくる長い髪などの、恐ろしい仕掛けがあり、Tちゃんはその仕掛けの動くたびに、ヒッと小さい悲鳴を上げて、私にすがってくるのでした。


 お化け屋敷を出る時には、Tちゃんはもう半分泣いていて、私に抱き着くようにしていました。出口で待っていた友達は、出てきた私たちを見てひとしきり冷やかし、そういうことに不慣れだった私は、どうしていいかわからず、困ってしまいました。


 結局友達はお化け屋敷には入らず、そのあとは、コーヒーカップやラクダの餌付けなどをして、夕方が近づくと、観覧車に乗って帰ることにしました。


 観覧車は、これも友達が気を利かせて、半分からかいながら、私とTちゃんだけを乗せました。友達の四人は、私たちを乗せると、次の観覧車に乗ったのでした。


 観覧車で二人だけになって、私は恥ずかしさや、初めて芽生えた恋心をもたあまして、最初はまともに、Tちゃんのこと見ることもできませんでした。しかし、そのうち最初の緊張もなくなってくると、Tちゃんの様子が、いつもと違うのに気が付きました。


「どうしたの?」


 私は、Tちゃんに声をかけました。

 Tちゃんは、両手で体を抱くようにして、震えていました。


「声、聞こえない?」


「声?」


 私には、何も聞こえませんでした。

 Tちゃんは顔を上げて、真っ青な顔でもう一度私に聞いてきました。


「あそぼー、あそぼーって、聞こえてこない?」


 私はそれを聞いた瞬間、背筋が寒くなりました。

 私には声は聞こえなかったのですが、色々と噂のある遊園地です。


「大丈夫、大丈夫」


 と、私はTちゃんを励ましながら、結局そのまま一周して、観覧車を下りました。

 あとから乗ったはずの友達でしたが、また「気を利かせ」て、先に帰ってしまったようでした。Tちゃんのことを思うと、帰りも二人きりだと、心細いだろうなと、先に帰った友達を恨めしく思いました。


 その夜、僕はTちゃんのことが気になって、電話をかけました。

 女の子の家に電話をかけるのは、ほとんど初めてでした。

 家の人が出て、私はそこで、耳を疑いました。


 Tちゃんは今日、風邪を引いてずっと家で寝ていたというのです。

 そんなはずはないと言ったのですが、Tちゃんの母が嘘をつくはずがありません。私は電話を切り、考えました。


 今日ずっと一緒にいたあの子は、それじゃあ、何者だったんだろう。

 幽霊だったとしたら、私はずっと幽霊と一緒にお化け屋敷に入ったり、観覧車に乗ったりしていたのだろうか。


 その夜、暑い夜でしたが、私は毛布に潜り、布団をかぶって眠りました。

 しかし翌日、学校に行って、私は本当の恐怖を知りました。

 Tちゃん以外の四人が、皆、揃って学校を休んでいたのです。昨日、遊園地に行くと言って出て行ったあと、家に戻っていないというのでした。


 結局、私の友人四人はその日以来、十年以上経った今でも行方不明のままです。

 もしかするとあの日、四人は観覧車に乗って、そのまま、「あそぼー」と言っていた声の主に連れていかれたのかもしれません。





自販機の裏


 大学生の頃、私は遊園地の清掃のバイトをしていました。

 大学から帰ってくる途中の駅で降りて、バスで十五分ほどの所にある遊園地でした。時給も良かったので、平日も夕方から入って、九時の閉館の後、十時まで働いていました。


 清掃を始めて、まず驚いたのは、落し物の多さでした。

 片っぽだけの小さな靴、ハンカチ、帽子など、毎日私一人でも、十個以上、落し物を拾いました。財布など貴重品以外の落とし物は、ミラーハウスの使われていない部屋に一週間ほど置いておいて、問い合わせがなければ捨てるようにしていました。


 ある時、私は自動販売機と、土産屋の壁の後ろ側に、何か挟まっているのを見つけました。ボールのようなものでした。あたりはもう暗かったので、懐中電灯でそれを照らしてみました。


 やっぱり、黒いボールのようなものでしたが、照らしてみても、それ以上のことはわかりませんでした。子供がふざけてボールを入れちゃったのかなと、その時はそんな風に考えていました。


 ひと月が経ち、私は、自販機の後ろのボールのことを不意に思い出し、見てみると、ボールはまだ、自販機の後ろに挟まったままでありました。私は、先輩の清掃のスタッフを呼んでみました。自販機の裏側だから営業には何ら差支えのないことでしたが、裏に何かが挟まっているのを知っていると、気持ちの良いものではありません。


 先輩は懐中電灯でじっくりとそれを照らして、観察していましたが、あまりにも長く観察しているので、私は少し不思議に思いました。


「子供が、遊んでて入れちゃったんですかね?」


 私が質問すると、先輩は小刻みに首を振りました。

 それから、そっと私の肩を掴んで自販機から離しました。

 その様子を不思議に思っていると、懐中電灯を自販機に向けたまま、先輩が言いました。


「あれ、ボールじゃないよ」


 そして、次の言葉を聞いた時、私は、一瞬気を失いそうになりました。


「人間の、頭だ」


 その遊園地では昔、ジェットコースターで事故がありました。走行中、レールのパイプがずれ、そのずれたパイプが乗客の首に挟まったのです。首は切断され、即死だったそうです。


 ところが事故の後、何度も捜索をしたそうですが、最後まで、飛んで行った首だけが見つからなかったそうです。


 私は、ジェットコースターの事故のことを聞いて、いくつか思い出しました。掃除をしているとき、ジェットコースターのレールの下の地面が、雨でもないのに、黒っぽく湿っていることがありました。聞くと、まさにその場所で、事故が起こったのだそうです。


 私はそれから、遊園地のバイトを辞めました。

 その遊園地も、それから閉鎖されたと聞いています。

 しかし私は、今でも時々想像してしまします。閉鎖された遊園地のあの自販機の裏側に、まだ、あの黒っぽいボールのような頭が、挟まっているのを。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  「あそぼー」に「恋心をもたあまして」とありましたが、「恋心をもてあまして」ではないかなと思いました。 [一言]  葵枝燕と申します。  『あそぼー/自販機の裏』、拝読しました。  「…
[一言] 夏のホラー2017より参りました~ 話の作りが『本〇にあった怖い話』の読者投稿のような感じで、ついじっくりと読み耽ってしましたっ 「あそぼー」の声の主、一緒に居たTちゃんの正体、行方不明の…
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