3 始まりの地
始まりの地で3年がたち、アルマは死の天使に名前を付けようと考えた。死の天使はアズラーイールというから略してアイル、とアルマは名付けた。アイルの特技はなめらかなテノールの声だった。その声は人を魅了するには十分だった。アイルは始まりの地で始まったことを語ろうともしなかったし、始まらなかったことも語ろうとはしなかった。ただ、始まりの地で天地創造は終わり、神が存在した証拠は消えたのだ。神は存在しない! なにもかも我々が死を弔う朝は朝陽の前になく、ただ神に仕える教皇にアルマは人差し指で一つ指を指した。その指は神に仕える清い過去を願うには時間が足りなかった。人々は生きているために、そして人々は死んでいくために、人生というただひとつの物語を紡ぐ。その物語は希望で奏でられた朝をまだ時間で句切るには早かったのかもしれない。
アルマはその日も朝を迎えた。世界が始まってから何度目の朝かもわからない。ただ一つ言えるのは、朝が始まったその日に夜が訪れることもなかった。
アルマは町をさまよった。そしてアイルも一緒に街並みを歩んだ。町は革命の跡に満ちていた。1974年の革命だった。ほとんど無血で終わった革命だった。そして軍事政権は崩壊した。街を歩き、老婆とすれ違い、若者が笑い、そして死を待つのだろう。海上帝国の帝国議会は神学者を召喚した。過去、現在、未来。そして今も尚、いつまでも夢は始まりの地にいらっしゃる。固まった泥に刻まれた聖なる夢を洩って、まだ世界は始まったばかりなのだろう。
始まりの地には何もなくあったのは希望だけだった。