2 死の天使
鏡の奥から戻ったアルマはベッドに横たわった。横たわり、天井を見た。白く、何かに吸い込まれるような、そんな白だった。そろそろソラから陽が昇りそうなころだった。青白い光がまだ朝の音を知らしめるには時間が足りないのだろう。アルマは鏡に向かって朝を映した。朝はまだ世界が始まりを告げた人間の希望を以って死者を弔うのだろう。
アルマの両親はすでに死んでいる。アルマは高校を卒業して大学に進学せずに家で暮らしていた。そして死の天使と契約を結んだあの朝を、アルマはいまでも覚えている。死の天使から「あなたが願うならあなたの希望を与えよう。ただしそれには一つだけ条件がある。今ある名前を捨てることなのだ」と、死の天使から説明があった。あの朝にアルマは手首を切って危うく死にそうだった。死の寸前に冥府を訪れた死者の国にソクラテスから始まってプラトン、アリストテレスと哲学のフィロソフィアがいた。アルマは少しでも近づきたかった。そこに死の天使が現れた。正式名をアズラーイールという。イスラム教神学に出てくる天使でアルマがその姿を見たのはそれが初めてだった。死の天使はアルマを気に入り、もう一度だけ生きることのできる契約を結ぶことにした。そしてその条件は今まであった彼の名前を捨ててアルマという名を名乗ることだった。
アルマは了承を出した。
死の天使は「私はアルマの願いを1つ叶えてあげます。そしてそれが終わった瞬間、あなたは時計の針が落ちたファウストの如く、私に仕えるのだ」とアルマに告げた。
メフィストフェレスの止まった時が終わりをそろそろ告げそうだった。まだ夢はローマ帝国の始まりの皇帝アウグストゥスが民衆に共和制を返した紀元前27年で止まっていた。そこでは火の戦車がタタールの砂漠を信仰していた。
始まりの地にアルマはいた。アルマという女性名を名乗らせた理由は死の天使は説明をするつもりはないようだった。