No.94
No.94
『おっほん。それで魔術と魔法の違いですわね。力を練り、現象を起こすと言う意味ではどちらも同じですわ。この二つの違いは、その起こすまでの過程が違うことが一番の違い…………そうだった筈ですよね?』
疑問を浮かべながら下の奴に聞く。
『オフッ、トレビア~ン❤ えっ? なに? 魔法と魔術の違い? あー俺っちは火の姉さんほど詳しくないけど、大体そんなもんだぞ。あとは、広域範囲に速く展開できるだけの力量がある場合でも魔法って呼ぶ場合があるみたいだな。ところで姉さん、もうちょっと体重をかけるように座ってくれると、俺っち嬉しいなぁと思うんだ。って言うか、もっとぐぅいっと乗ってください! ぐぅいっと!』
あ、ドリルのお方が、もう虫けらを見るような目で金髪男を見ている。それと腰をさらに浮かせ、離れようとしている。あれだと重石にもならないし、空気椅子になってるんじゃないか?。
おっ、それを奴は追うように腰を上げ、尻に未着させようとしている。こいつはとんだエロリストだ。
『まあ、要するにですわ。魔術の場合は一から順々に構築して行き百にするところを。魔法は一、百と言う風に過程を飛ばし持ってく術ですわね。その分失敗する確率も高いのですけど。貴方の場合は見る限り平気そうですわよ』
なんと言うか諦めの顔と言うか、無我の境地に至った顔をしながら語ってくれてるよ。人は時にあそこまで無表情になれるもんなんだね。
「じゃあ今まで通り、ピンクサル達に教えて貰ったイメージのやり方で問題ないと言うことか」
『そうですわね、術の鍛練としても良いと思いますわよ。それと魔法としての構築の仕方は間違っていませんが。今の貴方のやり方では、一、五十、百と言う面白い構成の仕方をしてますからね。確実に発動させると言う意味合いでは良くても、魔法と言う観点から見ると無意味な構築になりますわ』
ようは、無詠唱魔法だと思えば良いだろうか。その方がイメージしやすいし。でも呪文は唱えたいからこのまま行こう。
うーんしかしそうなってくるとやっぱり『魔力』値の最大数を上げるのが、威力などの向上に繋がるかな。
『せっかく魔法を扱える素養を持ってたのですから。鍛練してそれを伸ばしていくことは良いことですわよ』
「そっか、地道なレベル上げだけが近道ってことか……」
『なんですの? そのレベル上げって? 鍛練ではなくて?』
怪訝そうに聞いてくる。
もしかしてまたか……?
「あの~つかぬことをお聞きしますが、この世界にレベルの概念は……」
『レベル? どう言ったものですの? 時代が変わって言葉が違っている場合がありますわ』
そりゃそうか。あー良かった。そうだよなファンタジー世界だものレベル上げて強くなるって言うことぐらいーーー
『なんですのそれ!? そのインチキのような力は!?』
ーーーもちろん在りませんでした。
『ズルいですわ! モンスターを倒すだけで身体の力が上がり。しかも他の力の素養も身に付くなんて!!』
『おお! それいいな! 女の子にエッチなこととかできる力とか有るか?』
『黙りなさいこのエロ猿が!』
『ぎゃふっーん❤』
あ、上げていた腰を一気に落とし潰されたよ。
『まったくなんですのその力は。そう言えば貴方は渡界者でしたわね。貴方の世界ではそんな力が存在しますの?』
何となく羨ましいと言った雰囲気で聞いてくる。
「創作物とかの世界では在るが、実際の現実にはそんなのないぞ。こっちに来た時に得られた力で、二つ目に聞きたいのはこの力の事なんだが」
『そんなの言われてもわかりませんわよ。あ、いえ、待ってください。確かあの子が妙なことを言っていた記憶が…………ええっと、あれはいつの事でしたっか』
額を指で叩きなから、記憶を掘り起こすように深く考えているところに。
『あ、姉さん今の良かった……。も、もう一度お願いします』
『うるさいですわ! 思い出せそうで思いだせないじゃありませんの! 貴方にはこれで十分ですわ! 『草花よ。この変態を縛っておきなさい』! 』
ドリルのお方が魔術、の方を唱えると。隙間無く埋めてあった筈の石畳から草が生え、金髪男をみるみる内に簀巻きにした。
あれ? でも確かこの間触れようとしたら触れられなかったのに何でだ?
『ふう、これでこの男に触れなくても良くなりましたわ』
「色々疑問なんだが。前回自分はその男に触れられなかったんだが、なんで簀巻きに出来るんだ?」
ドリルのお方は立ち上がり。別段汚れなど付いていないのに。別の何かを払い落とすように自分の体のあちこちを叩く。
因みに金髪男は簀巻きにされながらも『要望したのはこれじゃないんだが、これはこれで』とか言っているので、これまで同様これ以上描写はしないでおこう。
それにこんな奴をいつまでも描写していたら、自分まで同類と思われてしまう。
『私達は一種の霊体ですわ。物理的に触れることはできませんが、こうして術を応用すれば触れることは可能ですの。もっともこの男にはこうして縛り上げても、一時しのぎにしかなりませんから。先程のように身を呈して止めている方が効果は高いのですけど』
そう言うとまた身震いをして、より一層何かを払い落とすのに力を入れていた。
『この男と関わると話が進みませんわね。それであの子が言った言葉はーー』
また考え出すところに、横からやる気の無さそうな男の声がした。
『あーそれってあれだろ。渡界者の力は願望より生まれることがあるってやつ』
声のした方を見ると。独特な民族装束を身に付けた、褐色の肌に薄緑の髪。アジア系の顔をした。何か眠そうな目をした男がそこに居た。




