No.86
No.86
「すみませんトウカさん。ここを待ち合わせの場所として指定してしまったことを」
泣いたオルテガさんはその後、準備を整えから翌月にまた来ると言って帰られた。
一応帰り際に、自分の事は出来るだけ内緒にしてくださいとは言ったが。報告とかしなければいけないんだろうから、多分無理だろうね。
そして待ち合わせの場所として、この空白地帯を待ち合わせとした。
ここなら遅れたとしても休めるだろうからと提案をして、トウカさんにも確認を取った。
「……別に気にしていません。どちらにしても今日、ここを出ていくつもりでしたから……」
「もしかして今回の事でですか?」
「気にする必要はありません。いずれああ言う方が来るのは分かっていましたから」
「そうですか……今後はどちらに行かれるお積もりですか?」
トウカさんはその言葉に考えるような仕草をする。
「………………」
何でしょうか……? こちらをじっと見つめてくるんですが?
「ここより奥は、ああ言った人達が来ることはないのでしょうか?」
「奥ですか? どの辺が奥と言われると分かりませんが。自分の居るところは海人族方が来ただけですからね。それほど人が来られる場所ではないんじゃないでしょうか? ああ、ただ騒がしいピンクサルがたくさん居ますが」
自分が苦笑しながら答えるとトウカさんは一言、「そうですか……」と答えた。
や、やりにくいな……。女性との付き合いがないのも要因されているがするが。この人、感情表現が殆どされないから余計に分からないよ。
少し冷たいかもしれないが、ここは早々に退散するか。
「おぉ~い、おきろ~。自分は帰るけどどうする?」
寝ているトラさんを揺すって起こす。
「にゃ、にゃん?」
「いやご飯違うよ。帰るんだけどどうする? また一緒に来る?」
トラさんは寝ぼけた顔を前足で洗いこちらを見て。
「にゃーん!」
「そうか。じゃ行こうか。…………ん? あれ? なんか変なような?」
何かが可笑しいと感じ、なんだろうと考えようとした矢先に。
「【万燈提灯・狂い花】
後ろで炎が渦を巻きながら、トウカさんの家だったものを焼き付くしていた人がいた。
「えっ!? ええーー!! 幾ら居られなく為ったからってそこまでしますか!?」
炎の勢いで靡く半分朱色に染まった髪を押さえながら、まるでこちらが可笑しな質問でもしたかのように首を傾げて。
「必要がなくなるんで燃やしただけですが。可笑しかったでしょうか?」
「………………そうですね、必要ないですもんね」
まるで自分の方が可笑しな質問をしている気分になる。
「うにゃーん♪」
「はい、では行きましょうか……」
自分が持ってきたバックパックを取って、渡してくれるトウカさん。
「貴女の手荷物は無しですか?」と突っ込みたくなる。
火の中に在ったんじゃないんですかと、声にして言いたかったが躊躇われた。
だって彼女の横顔は余りにも未練がなかったのだ。
きっと今までも作ってきたものも、こうやって灰に変えていったのだろう。
その生き方は余りにも不憫に感じてしまった。
「時に行かれるのは構わないんですが」
「…………?」
「どちらに行かれるお積もりですか?」
スタスタ先を歩いていくトウカさんに、何処へ向かうのか訪ねると。キョロキョロと見回したあと、顔を赤くしてこちらに戻ってきた。
お茶目なところもあるんだな……。
「………………案内してください」
「ええっと、一緒の場所に行くってことですか?」
頷くトウカさん。
確かにここより奥ってことなら一緒に行くのが良いんだろうけど。
トウカさんをチラリと見る。何だろうと小首を傾げている。
この人が隣人に為るかも、か。自分の秘密どうすっかな。
そんな事を考え、バックパックを背負い。トラさんは空中を駆け上がり頭の上へ。
そして、たしたしと叩き。
「にゃーん?」
「ん? 家に帰るんだよ……!? あれ!? 自分会話してる!? 普通に会話してるよ!?」
「……お会いした時から普通に会話はしていますが?」
「えっ? あ! いやトウカさんじゃなくてね。トラさんと問題なく会話してるんだよ! いつからだ? いつから自分、普通に会話できるようになったんだ!?」
混乱している自分に頭の上方は。
「にゃーん?」
何て事を言っているがそんな事はない筈だ………………無い、筈だよね?




