表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/376

No.85





 No.85




 オルテガさんが掲げた腕輪。

 良く見れば元は灰色をしていたのだろうか。だが今では色が抜け、無色に近い感じになっている。

 カツヲの時はどうだっただろうか? 確かあの時は青が満ちていて、サファイアのような色をしていたような気がする。


 「この晶石は殆ど力がない。とてもじゃないが、ここから帰ることも。門まで行って力の補充をすることすら叶わねい」


 項垂れるオルテガさん。

 その姿は二メートルを越す巨体が、余りにも小さく見える。

 だからだろうか、ついついこんな事を聞いてしまった。


 「補充と言いましたが、何か手はあるんですか?」

 「ああ晶石は同じ晶石であるなら、例え質が違っても力の移しは出来るんだ。もちろん同じ質の方が漏れなく行き渡るんだかな」

 「それってこれでも大丈夫なんですか?」


 そう言ってバックパックにしまって在った。緑色の晶石を取り出した。


 「小玉の緑の晶石……!? だ、大丈夫だ。色違いだが、一つでもあれば帰るだけならなんとかなる!」


 ガバッと立ち上がり詰め寄るオルテガさん。

 顔が近いです。あとトウカさん(後ろ)から何やら威圧感(プレッシャー)を感じていますが、何かしましたか自分?


 「ではこちらの方は差し上げます」

 「ありがたいが……俺はさっき……」

 「それについては理由さえ分かれば自分は気にしません。トウカさんはどうですか? まだオルテガさんを許せませんか?」


 振り向いて聞いてみる。あの威圧感(プレッシャー)が何なのか分からないから、確認の為に振り向いた訳ではない。

 そして振り向けば、当の本人は澄ました顔をしていて。


 「……私は別に構いません。先程あなたに言われた通りするだけです」


 と、素っ気なく言われたが。その後ブツブツと「……あなた……あなた」と、怖いぐらいに同じ言葉を呟いていた。

 何だろうこの人。美人さんなんだけど怖いです。


 「……だ、そうです。どうされますか?」

 「俺は受け取っていいのだろうか?」

 「過ちは確かにありました。それはオルテガさんの愛国心()から起きてしまったもの。そして一応なりとも、オルテガさんはその過ちに対して罰も受けられました。なので後はこれを受けとる受け取らないは、オルテガさんの気持ちだけになってしまいます。自分も今のところ晶石(これ)の使いを知らないので。もしかしたらその辺に捨てて帰ってしまうかも知るません。その後誰かが晶石(これ)を拾ってどうこうしても、自分は関与しませんが」


 最後のは少し臭すぎるな。まあ実際晶石(これ)の使い方を知らないのは確かだしな。


 「ぐっ……ありがとう、ありがとう少年…………!」


 あーあ、涙ぐんできちゃったよ。泣かせるつもりはなかったんだが。術士や加護者に対して罪を犯すと言うことは、それだけ重いものになるんだろうな。


 「さて、これでオルテガさんは責務が果たせないままでありますが。帰ることは出来ると言うことですね」

 「そうだな……トウカについては今後誠意を尽くしたとしても、良い返事は貰えないだろ。諦めるよ」


 後ろで「どちらにしても行く気など有りません」等と、言っているのが聞こえる。

 もう少し声を抑えて! じゃないとまたオルテガさんの()を刺激しちゃうでしょう!


 「その辺についてはお気の毒としか言いようがありませんが。さてオルテガさん」

 「なんだ?」

 「ここから先は自分の独り言なので、気にしないでください」

 「?」


 首を捻るオルテガさん。

 まあそうだろうね。

 我ながらがこれは甘いし、自分の首を閉めかねない行為だと言うことも分かってるんだけどね。オルテガさん(この人)の一生懸命さって分かるんだよね。自分の周りにこう言うのが居たからさ。


 「トウカさんが駄目なら、自分を勧誘しようとか考えているオルテガさんに忠告です」

 「えっ!? いやそんなことは思っていないぞ!」


 バレバレですがな。まあ気にせず行こうか。


 「この先優良国の方が勧誘に来られても、自分は何処の国にも使えるつもりはありません」


 ホッとすると同時に残念がるオルテガさん。


 「ですが、個人の交友までしないつもりは有りません。現に海人族(マーブル)の方と、この聖地で採れる物や自分の作った物を物々交換などしています」

 「そ、それは……!?」

 「海人族(マーブル)の方はいつ来るとか、どんな物が欲しいとかの事前の約定は決めてません。たまに来た時に向こうの方が持ってきた物と、その時在る物とで交換している程度です。ああそう言えばここには、外交とかされてる方がいらっしゃるんでしたか。その人はこう言う場合どうするんですかね?」

 「少年……本当に、本当にありがとう」

 「まだお礼を言われるようなことはしていませんが。それでどうされますか? ああっといけない。これは独り言でしたね」


 その後二人で笑い合い。決め事を話し合った。


 「木材が十本分。岩塩が箱で十箱。野菜が箱で二十箱。果物の箱が二十箱。猿酒が樽で二十樽。米と麦が十石。そして晶石が小玉のサイズで五十個。これを一月でこちらは用意する。変更がある場合はその時に聞き、翌月変えると」

 「こっちの方は交換出来うる物の目録を作り、そちらが指示したものを次回の時に持ってくる。こう言っては何だが、明らかにこちらが有利すぎないか」

 「確かに言葉にすればそうですが。こちらの方で集めるのが大変なのは晶石だけです。後大変なのは運搬だけですかね。それよりこちらこそ、これだけの量で足りるのですか? 大変ではありますがもう少し用意はできますが?」

 「いやこれでもこちらが過多過ぎる。用意して貰っている上にこちらはただ持ち帰るだけなのだ。これ以外はただの甘えになってしまう」


 オルテガさんはそう言って深く、深く頭を下げ。


 「本来なら自分の命だけでなく。国にすら何かしらの被害が起こっていても過言ではなかったところを、この様な過剰な恩情に誠に感謝します。少年、いや、トウイチロウと言ったな。トウイチロウと言葉を交わたから分かるからが。こう言う言われ方はどうしたって嫌がるだろうが、あえて言わせてくれ」


 心から感謝するように。


 「導師トウイチロウ。貴方が示してくれたこの道。このオルテガ。生涯を掛けて守り、恩に報いるつもりだ。ありがとうぅ……」


 そしてその地面には、幾つもの大粒の雫が止めどなく落ちていた。





















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ