No.74
No.74
「よっ、ほっ、ありゃよっと!」
魔法で作った光の玉をお手玉のように手で回す。
「ウキ、ウキ?…………ウキッー!」
ピンクサルにも同じように作った光の玉でジャグリングをするが、要領が分からないらしく。幾つも続かない内にポロポロと落ちて悔しがっている。
「はははは、無理に一遍にやろうとするからだ。ひとつづつ、出来るようになってから増やしていけば良いんだよ」
そう言って光の玉をひとつ上に放り投げ、それをキャッチして。また上に投げるを繰り返していく。
「ウキ……ウキッ! ウキキ♪」
自分が言ったようにひとつで試せば出来るようで、あとはそれを繰り返しやっていった。
それで今日は何をやっているかと言うと。
この間、菜園場で偶然門の向こう側に行ってしまった自分は。そこで敵対する生物、モンスターと遭遇してしまった。
普段いる場所が安全のため、武器らしい武器を持っていなかった自分は、命の危機に瀕した。
幸い謎の女性に助けてもらって一命を取り止めたが。
助けて貰った際。助けて貰ったとは言え、襲ってきたモンスターを、顔色ひとつ変えずに行った女性に嫌悪してしまった。
その理由も自分の中での命の扱いについてで、嫌悪していた部分が大きかったものだった。
しかし女性が倒したモンスターのドロップアイテムを鑑定してから。それが生きるために必要な行為だと、自分の中で納得出来るものが出来た。
それで今度モンスターに襲われても、自分で対処出来るよう。戦力アップの為に魔法の扱い方を少し覚えている、と言うのが前回と今回の大雑把な説明ってところかな。
「おっ。うまいうまい! その調子だ。慣れてきたらひとつづつ増やしていこうな」
「ウキ♪…………ウキキ?」
ピンクサルが「わかった」と言うように頷くが。どうやったら自分のように、多くの光の玉を扱えるように出来るだろうと聞いてくる。
「………………自分としてはあいつらの方が羨ましいんだが」
「ウキ?」
「そう?」と言った感じに首を捻り、自分が言った件の相手を見る。
「ウキ! ウィキィイイーー!」「ウィキー!? ウキ、ウキキ!」
そいつらは早々にジャグリングを諦め。光の玉を使った別の遊びに興じていた。
どんな遊びかと言うと。正月に羽子板をやった人は要るだろうか? 板と羽を使い打ち合う。バトミントンにも似たやつだが。
それをそいつらは、板の代わりに自らの尻尾を。羽の代わりに光の玉を使い打ち合っている。
「自分にはあんな異次元テニスみたいなことは出来ん……」
四方五メートル程の枠の中で高速で打ち合うピンクサル達。
たまに光の玉が分身したり、有り得ない軌道を取ったりと。摩訶不思議な現象を起こしている。
その上漫画でよく有る、打ち合ってる最中に長々としたセリフなんかもしていることから。ピンクサル達何処まで芸達者奴等なんだと思わずには要られなかった。
「ウキ?」
一緒にジャグリングをしているピンクサルは「あれぐらい簡単だよ?」みたいな顔でこちらを見てくる。
残念だが自分は一般人を自負している。あんなとんでも系は出来たとしたも、別な人にお願いしたい。
「それじゃあちょっと、自分がどれだけ出来るか試してみますか」
一旦作り出した光の玉を消す。消すと異次元テニスをしていたピンクサル達が怒り出したが、後でまた出すからと言ったら大人しくなった。
「ふぅー…………。『光よ、踊れ』!」
自身の生命力を魔力へと変え。更に力ある魔法へと形を変える。
魔力によって作り出したのは光の玉がひとつ。
それを自由自在、縦横無尽に空間を飛び回せる。
しかし速度は遅い。先程のピンクサル達の異次元テニスの方がずっと速い動きだ。
ある程度飛び回らせた後。対岸に有る岩に光の玉をぶつけてみる。
パン!
と、何となく水風船をぶつけた様な音がしただけだった。
「うーん。操作は何とかなるけど。速度と威力が足りなすぎるな」
今の自分の出来に納得出来ず悩んでいると。
「ウキキ?」
「ん? ああ何で呪文なんか要らないのに、また唱えてんのかって」
そう以前ピンクサル達に教えて貰ったやり方だと。魔法に言葉は必要ない。ただイメージと魔力があれば、その通りの現象が起きる、と言うような事を教わったのだが。
あの門の向こう側で会った女性は、魔法を使う時に言葉を発し魔法を使用していた。もしかしたら言葉を使うことで、何かしらのプラスの要因が有るのではとやっているのだが。今のところ言葉を使うことでのメリットは、イメージが固まりやすいと言うだけだった。
「まあ今は色々試してやってるって、ところかな」
「ウキ?」
自分の説明ではいまいち理解されなかった
「「「「ウキー? ウキキ!」」」」
「もう終わったー? 遊びたいんだけど!」と異次元テニスをしていたピンクサル達にせっつかれた。
ゆっくり試していけば良いかと、再び光の玉を作り出し。ピンクサル達の方へ放り投げると、また高速打撃戦が始まった。
「…………よくあいつらは人が作った魔法を、ああも簡単に扱うことが出来るよな」
もしかしたらその辺にも、今の自分に必要として要ることが有るのかもしれないと考えた。
「ウキキ」
「? ああそうだよな。お前も続きがやりたいよな」
共にジャグリングをしていたピンクサルに服を引っ張られ催促された。再び光の玉を作り、また二人で一からやり始めたのだった。




