No.73
No.73
「ウキ? ウキキ!」
植物で作られた道を歩き。その行き着く先には植物で作られたアーチ状の門があった。それを潜り抜けると。ピンクサル達とユニ子が心配した顔で待ち構えていた。
ピンクサル達はこちらに近寄り「なんともない?」と言った感じに聞いてくるが、自分は何も言えず。ただ歪んだ笑顔を返すことしか出来なかった。
不信に思ったのだろう。ピンクサル達は更に「大丈夫?」と聞いてくるが。彼らの頭を撫で「何でもない」とだけ言った。
ユニ子はユニ子で申し訳なさそうな顔をしていたので。そちらにも「大したことはない」と言っておいた。
その後、荷物を整理して幾つかの野菜を貰ってから家に帰ることにした。
ピンクサル達はまだ居たそうだったが。自分は帰ると言うと、ピンクサル達はユニ子に別れの挨拶をして、一緒に帰ることになった。
家に着き。荷物を片付け。ベットに横になる。
ピンクサル達は自分の様子が変なことに戸惑っていたが。
「大丈夫だから……。今日はもう好きにしていいぞ」
「ウキ……」
そう言ったが。やはりチラチラとこちらを見ては、心配そうな顔をしていた。
そんな自分はベットに横になりながら、あの場所での出来事をずっと考えていた。
幼き頃よりじいさんに命の重さ。食の大切さと称し。鳥や魚、猪や鹿などを解体させられ。それを食事として食べさせられたことがある。
初めの内は魚ですら血の臭いに生臭さを感じ、吐きもした。
そして出された食事は先程まで生きていて、自分で殺したモノだと思うと、食べることすら出来なかった。
そんな幼き時の自分にじいさんは。
『それ以外の食べ物は用意していない。だから食べなければ、お前は食材となったそいつの命を無駄にしたことになる』
と、怒るわけでも叱るわけでもなく。淡々と事実を語るだけだった。
そんな自分は泣きながら吐きながら、食事を取った記憶がある。
今の自分の感情はあの時と似ている気がする。
命を奪う覚悟も足らずに奪えば、その結末に嫌悪する。
然りとて他者が代わりに行えば。それをさせてしまったと、また嫌悪する。
「…………思い上がっていたかな」
自分は命を奪えるだけの慣れがあると。
だから例え異世界でも、それなりに生きていけるだけの知識と経験があると。
「ハァ……」
ため息しか出てこない。
この手の問題に答えはない。自分の中でどう折り合いをつけるかしかないのだ。
「よっと……」
今は幾ら考えても答えは出ないと諦め。ベットから立ち上がり。あの緑色の奴等が落としたドロップアイテムらしき物を、気晴らしに調べることにした。
「このビー玉みたいなのから調べるか」
【緑の晶石(小)】
植物の力の星気が結晶化したもの。
「これが晶石か……」
それとやっぱりこっち関係の物になると、あの子供っぽい説明はなしか。もうひとつの方は。
経木の様な物で包まれていたものを解くと、中には生のブロック肉が入っていた。
「いやに重いと思ったけど、何故に生肉が? ゲームなんかじゃ正しいんだろうけど。現実だと違和感しかないな」
不思議に思いながらも生肉を調べてみる。
【食べられる生肉(500g)】
食用にも適した生肉。さっぱりとした淡白な味がする。
「まてまてまてまて! 何の肉だ!? 食べられる生肉ってことは、食べられない生肉もあるってことか!? くそっ、そうじゃないッ! 駄目だなんかいつもの調子が出てこない!」
いつものあのふざけた説明文じゃないのに、このツッコミどころが有りすぎる文章は何なんだ!?
「ウキキ?」
自分が騒いでいると、いつもの調子に戻ったのかと、ピンクサルが様子を見に来る。
あーお前が来ると。
「ウキ!?」
「これなに!?」と、生肉を見て騒ぎ始めるピンクサル。その声を聞き、家の中に居たピンクサル達が続々と集まってくる。
「「「「ウキ!」」」」
「ははは、やっぱりこうなったよ」
これはなんだ? 食べ物か? 説明しろと矢継ぎ言ってくるピンクサル達。
(何かあっと言う間にいつものペースになったな)
自分が悩んでいたことなど、バカらしくなるほどの騒ぎを起こすピンクサル達を見て。先程まで心の中で渦巻いていた嫌悪感は、何処かへと消えていたのだった。
「「「「ウキ、ウィキー!」」」」
「あーうるさいぞお前ら。教えてやるから少し黙れー」
そう言ってピンクサル達を静かにさせ。生肉が何であるかを説明するのだった。
その説明している時の顔は、門から出てきた時の様にどんよりと、思い詰めた顔ではなく。いつもの笑顔となっていたことに気づき、ピンクサル達は喜びの声をまた上げたのだった。
「「「「ウキ、ウキ」」」」
「え″っ!? 食ってみたい!? いやこれ何の肉か分かったもんじゃ「ウィキー!」……わかったよ調理してきてやる……」
「「「「ウゥキィイイ!」」」」
その後、何の肉か分からない物を調理したところ。鳥のささみのような味だった。
「あっ、これ以外と旨いな」
「「「「ウキー♪」」」」
きっと自分は次にあの緑色の奴と出会ったら、今度は躊躇無く仕留めることが出来るだろう。と、そう思えてしまった。
「まあだからと言って、積極的に行こうとは思わないけどな」