No.65
ちょこっと連投 2/3
No.65 【幕間】そのに
洞窟をくり貫き、居住可能な場所へと作り替えたような印象がとれる場所に、数人の姿があった。
「ーーー以上で聖地にて偶然出会いました者より、山葡萄を持ち帰ることが出来ました」
謁見の間。
そう呼んでも差し支えない場所で、魚人カツヲは統一郎と出会った時の姿では無く。
剣闘士の様な胸当てや手甲等の防具を着けて膝を着き、礼の形をしている。
そして謁見の間の上座に座る一匹、いや一人の女性に報告していた。
女性の姿ははっきりとは見えない。その前に薄いカーテンの様なものでシルエットのみが分かるぐらいであった。
女性はカツヲの報告を聞き、自らに仕える女房へと言葉を伝える。
その女房はカツヲより更に人間に近い姿の女性だった。
女房が一度頷き。カツヲへと向き直り、女性の言葉を伝える。
「御姫様よりの御言葉を伝えます。『南方守護大将海舟鰹定助。此度の試練よくぞ成し遂げました。其方の人望、才覚、そして気運、何れを聞いても見事なものです』
カツヲは片膝を着き礼をした状態で女房より語られる御誉めの言葉を聞き涙ぐむ。
試練を与えられし時よりあった数々の苦難が報われる思いであった。
「ーーーである』と。? はい、はい」
カーテン向こう側から女房が語り終わった後。更に聞こえてくる声があるが、カツヲの居るところまでは声が届かない。
本来であれば報告が終わり。御誉めの言葉を戴ければ、これで謁見は終了となる筈だ。
カツヲは何か手違いがあったかと考える。
この様に御姫様と謁見は武骨な自分は余り無いため。何か手違いがあったかと思ったが、そうでは無かった。
「南方守護大将海舟鰹定助に御姫様から更なる御言葉を伝えます。『此度聖地に住まう隠者に助力を得たと聞きました。その方にした礼はどのようなものか?』と、お聞きしております」
カツヲは女房より告げられた言葉に、普段からヌメッとしている体から冷や汗が出てきた。
(しまった!? 試練を優先する余り、トウイチロウ殿への礼は、言葉だけにしてきたとは言えぬ)
一向に返答の答えが帰ってこないカツヲに、女房は訝しみ。答えを返すよう要求する。
カツヲはギョロギョロと目が忙しなく動き。黙っているのも最早限界と思い。素直に礼をしてこなかったと告げた。
すると御姫様の方から、ここに居ても分かるくらいの落胆させる気配が十二分に伝わってきた。
(これは御誉めの言葉を帳消しにしかねないほどの失態だ)
青白い顔が更に青くなっていく。
カツヲの目からは先程とは違った涙さえ出かかっていた。
しかしそんなカツヲの心情とは裏腹に女房が御姫様の言葉を告げる。
「『南方守護大将海舟鰹定助。自らが課した試練を優先したことに対しては致し方ないこと。然れど我ら海人族の矜持を忘れるとは何事ですか』」
女房より語られる淡々とした言葉がカツヲの胸を突き刺す。
あの場に今一度居合わせられたら。自らを殴ってでも礼をして来いと、叱りつけてやりたい気分であった。
「『ーーー故に南方守護大将海舟鰹定助に今一度機会を与えます。助力を得た隠者に礼の品を渡してくるのです。そして礼の品に関しては貴方が決めるのです』とのお言葉です」
「はッ」
カツヲは直ぐ様頭を深々と下げ。承ったと意思を告げる。そして退室の挨拶をして謁見の間より退室をしていく。
カツヲが退室して静かになった謁見の間に女房以外の声が響く。
「やっぱりカツヲが一番早かったわね」
その声は年頃の少女の声だった。
「御姫様」
女房は御姫様と呼んだ少女を嗜める。
「良いじゃない。今ここには私と鰆、貴女しか居ないわ」
「何処であろうと関係有りませぬ。貴女様は最早平民では御座いませぬ。御言葉を正すよう御願い致します」
今まで平民の少女として暮らしていた自分に、貴族が使う言葉にしろと言う方が無理である。
そのため普段誰かと会話をする時は必ず、女房であるサワラを通して会話するよう言われている。
平民として暮らしていた自分が何故王族として祭り上げられたのは理由としては簡単だ。
この国には盟主と呼ばれる星力を扱える扱える人がいる。
盟主は星力を扱い。この国を繁栄させ、導くと言う仕事がある。
まあ要するに何百人の内に一人持つと言われる星力を扱える力を、私がたまたま持っていて。尚且つその力が次世代の誰よりも高かったことで、王族として向かい入れられたのだ。
しかし表向きには王族として向かい入れられても所詮元は平民の小娘。古くから居る貴族階級の者達は良い顔をしなかった。
そんな連中にこの城に来てから何度自分の命が狙われたかなど、もう数えていない。
だから私は、私を裏切らず、私を最後まで守ってくれる者を選び選別していった。
(その一人がこのサワラ。元々は私を殺しに来た人だけど。まあ色々有って私の女房として、私の側に居てくれることになったのよね)
そして今回カツヲがクリアした試練もそのひとつだ。
家の権力などを使わず自身の才覚のみで難題をクリアして見せろと。貴族連中に通達をした。
殆どの者は私が権力に酔いしれ、無理難題を言い始めたと諦めた者が多いが。中にはカツヲのように真摯に聞き、試練に向かうものも少なくはなかった。
「カツヲ家は私も信じられる家のひとつだったから嬉しい限りね。それでサワラ、他の家はどうなの?」
「はい、カツヲ殿を除けば、御姫様が題した試練に意を組み取り組んでいるのは六家となります。アジ家、マグロ家、クジラ家、イワシ家、ブリ家、フグ家となります。なお他の家の者は権力を使い事を済ませた者。他家より盗み出すものなどが多い様です」
女房は最早注意しても戻らないと思ったのか、己の主に忠言ぜずに質問に答えた。
そんなサワラの言葉に眉を潜める少女。サワラは主の些細な機微に気づき聞く。
「何かありましたでしょうか御姫様?」
「六家も私の言葉を聞く者が居たと言うのも驚いたけど。その中にイワシ家が入ってあるのが気になっただけよ」
イワシ家は私を排除して、自分の家が押す子を次の盟主にしたがっている、筆頭の家の者達だ。
そんな家の者が私の言葉を素直聞いている。胡散臭いことこの上ない。
「………………申し訳ありません」
サワラは己の主に突然謝罪する。しかし少女はその謝罪の意味を知っていた。
「サワラ、貴女が謝る必要はないわ。貴女はあの家に騙されていただけ。その事で私は許したし。貴女はそれを償いたいからと、私は貴女を側に居ることを許しているのよ」
「はいわかっております……」
少女はサワラに言葉で「決して私を裏切るな」と言う。そんな言葉が必要がないことはもう十分に分かっている。本当はもっと別の言葉を言いたいのに、それでも言ってしまうのは最早癖なのだろう。
「さてと、暗い話はやめましょう。そんなことよりカツヲが持ってきた果物でも食べて気分を明るくした方が良いわ」
少女は手を打ち空気を変えるように明るくいった。
サワラはその言葉に頷き、カツヲの持ってきた葛を検分しますと調べ始め。外見に異常がなければ中身へそして果物の毒味へと移った。
「ねえサワラ。カツヲならそんなことしなくても大丈夫じゃない?」
「いけません! 例え御姫様が信が置けるカツヲ家だとしても、それ以外の者が何かを施していないとは言えません。万事抜かり事がないようするのは当たり前です」
「とかなんとか言ってその果物、独り占めする気じゃない」
「なっ!? 何を言っているのですか!? そんなこと有るわけがありません!」
少女が食べさせてから、サワラは果物が好きなったのを知ってからかっている。もちろんサワラ自身も本気で己の主が言っているのではないと感じ取れてはいるが、そこはそれと言うものである。言われる方としては心痛むものがある。
「冗談よ冗談! さあ毒味も終わったのでしょう。こっちに来て一緒に食べましょう」
この手のやり取りはいつもの事なのだがやはり慣れてはくれない。
やっぱり友人としてではなく主従の関係から解き放たれない。
それは出会いが出会いであったが故の事も承知している。
それでもこんな地位の場所に要ると、心許せる友人が欲しいと願わずに入られない少女であった。




