No.5
No.5
「よし、なんとか完成した」
川から戻り、まず始めにしたのが靴作りだった。
と言っても本格的な物ではない。即席パンツと同じように自分の足のサイズより大きめな葉を選び。それを幾枚にも重ね、蔓草で縫うように固定しただけの物だ。まあ靴と言うより草履の方が近いかも知れないが。これで川原に行くのに足を幾分痛めなくても良いだろう。
それと川原から手頃な石を数個持ってきて。それをやはりお馴染みの蔓草で縛り固定する。
こちらも即席のボーラ(狩猟用具)と、持って来ていた棒を組み合わせ石斧を作ってみた。
ただ石斧はまだ未完成なので、あとで改めて時間をかけて作りたい。
しかしこの蔓草は便利だな。ゴム程ではないけど弾力性と柔軟性はあるし。同じところから生えてるの筈なのに、太さのサイズは大中小と揃ってある。
「恐るべし、異世界の植物」
木々の間から漏れる光加減を確認する。
日はまだ明るいが、色々と探したり作ったりしたお陰で大分時間を食ってしまった。
今晩の寝床はあの大きな木に人が楽に入れる程の洞が在ったので、寝るのはそこで良いとしても。食べられる物をいい加減探しておかないと。暗くなってからの行動は、危険な動物と遭遇するかもしれない。
何て思っていた事も十数分前にはありました。
ええ、食べ物と動物、二つに出合いました。
食べ物は、まああのピンクサルが持っていたのとは違うけど。今見ているものは、あれはどう見ても食べれるものだと思う。
何故かって。だってあれ、どう見てもバナナ、リンゴ、スイカ、梨、エトセトラエトセトラ。
それはもう季節感ぶっちぎりで無視した、果物の数々が生っていた。
それと動物だけど、多分危険ではないだろう。あのピンクサルが数多くいて、思い思いに果物を食していた。
「何でも有りなんだな、異世界」
あのサルたちを刺激しないよう、サルたちから離れたピンク色をした果物をもいでみる。
「……桃だな、これはどう見ても」
スーパー等に売っている物より大分固さがあるが、匂い、色、持った時の触感は桃以外の何物でもなかった。
「見た目はどうあれ、食べられるかが問題だよな」
持っている桃(仮)の皮を剥くと瑞々しい果肉が現れ、桃のあの甘い匂いが更に高まった。
「……ゴックリ」
生唾を飲み込み、かぶりつきたい衝動を押さえ。ほんの少しだけかじるように口をつける。
ほんの少しかじっただけなのに口の中いっぱいに広がる豊潤な香り。たった一滴で喉の乾きを潤すほどの水分量。
そして何より桃の甘味。砂糖を口にしているかのように甘い、だがくどい甘味ではないのだ。
「……はぁ~うまい」
思わずため息すら出る。
そして気が付けば、ひとかじりするだけだったのに、丸々ひとつ食べきっていた。
「やべぇ、毒味だったのに丸々食っちまったよ」