1/6
海の見える町
吐き出した煙が、
朝の澄み切った空気の中へ消えていく。
初夏。
束の間の涼しさと、
波の音を肌で感じながら、
ゆっくりと目を閉じる。
(お前が何処に行っても、
俺はお前を見つけ出してみせる。)
優しい笑顔と強い言葉が、
浮かんでは消えた。
「多英ちゃん、ちょっとこれお願い!」
女将さんの声で、多英子は目を開いた。
夏の海は観光客で賑わう。
今日も忙しくなりそうだ。
「今行きます!」
多英子は、大きく返事をした後、煙草を消して女将の待つ食堂へと向かった。