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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
幼少期編
7/62

村の視察とユリアの許嫁

 あれからサラミナの態度がいつも通りに戻った。俺の寝ている間に何かあったのかもしれない。ユリアに聞こうかとも思ったがどうせ俺のことを褒めそやしただけに違いない。あまり褒められるとその通りに動かないといけないから後がしんどいのだがユリアはその辺を弁えているので大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。ユリアは賢いなのだ。

 俺はいつもの通り魔術の練習をしている。魔術は想像以上に楽しい物だった。適性が三つしかないとはいえ、自在に思い付くままに現象を成せるというのが面白くてたまらないのだ。穴を掘ることもできるし、水蒸気で視界を曇らせたり、風属性を使って雷作ってみたりと応用が利くのだ。

 日本では有り得ないことができるというのは存外に子供心が沸くというものだ。これなら一人で簡易砦も作れるなと無茶なことを思いついたり、水属性は使えるが火属性がないので湯ができないなと残念に思ったりと一喜一憂していたりする。それすらも俺にとっては新鮮な体験だった。簡易砦の話をした時、ユリアに戦争に行かれるのですかと泣かれた時は俺は心底反省したものだ。俺はまだ五歳児なんだがなと呆れながらも泣くユリアをほっとけず、結局半日ほどユリアの頭を撫でながら膝枕する事で何とかなったのだった。ある意味役得だったかもしれない。

 そんな思いに浸りながら魔術のことについて考える。魔術はイメージで補完できるとは言ったがやはり適性だけは覆らない。これは如何ともしがたいが諦めるしかないと思っている。基本四属性と呼ばれる火、水、風、土が揃っているだけで応用がかなり違うのでイメージで補完できるならと火属性が使えないか試してみたのだがついぞ火の粉一つ出ることなく終わってしまった。これは適性が絶対であると示しているということだ。


「まぁ別段困ることはないんだがな。さて、次はどんな物にしようか」


「ユーフェ」


「父様」


 振り返ると父であるカナルディアが何やら真剣にこちらを見ている。何やら悩んでいる様子で俺を見ていて何か話を切り出そうとしてるのが分かった。そう言った悩み事は顔に出さない人なので何事かと考えていたがそれ程深刻なことでもなかった。


「ユーフェ、頼みがあるんだが」


「何でしょう?」


「いやなに、一緒に領の視察に行かないかと思ってな」


「……何を悩んでいるのかは分かりませんがいいですよ?」


「ああ、あまりにも楽しそうに魔術を練習していたからな。誘うのに気が引けただけだ」


「そうでしたか。それなら遠慮なく言ってくださいよ」


 俺の言葉にそうかと言って父様は笑って俺の頭を撫でる。どうやら俺のやることを邪魔しないか心配していたようだ。親なのだからもっと強制的にやらせるとか考えても罰は当たらないと思うのだがそこが父様のいいところだ。俺に自由をくれる。その点は両親に感謝している。放任主義万歳だ。

 俺はそのまま行くというのでユリアを連れてそのまま着いてくことにした。このオイスター領は人口百も満たない村だ。それ程高く税は取り立てていないので比較的暮らしやすくはなっているが如何せん場所が田舎なので周りに森が広がっている以外特に何もない所だ。だが、このオイスター領には精霊が住むと言われている湖がある。それのお蔭で冒険者や貴族の子息が訪れることがある。それも数ヶ月に何度かのそんな程度の村なのだが。

 父様は今年の畑の状況を聞いたり、病気が流行っていたりしないかを聞いたりしている。畑の状況は納税に関わるし、病気に至っては人の畑の労働力の低下に繋がるので早めに対処したいのが父様の考えなのだろう。後は変わったことがなかったかとか息子はどうだとか世間話?のようなことを話してから次に向かう。

 そんな感じでいたので俺はただ畑をぼんやりと眺めていた。ユリアも畑は見慣れているのか特別、俺に話しかけてくることはない。そんな様子をどう思ったのか、暇そうに見えたのだろう父様は遊んできてもいいぞ言ってくれた。俺はその言葉に乗り、折角の機会なので領内を探索することにした。冒険は男のロマンだからな。


「まぁそういうのは大事だと思うけどね。どうせ一代限りの名誉子爵だし、俺はのんびりと過ごしたいものだよな」


「いきなりどうしたのですかユーフェ様」


「いや、何でもないよ。それより森に言ってみるか」


「おーい、ユリア!」


 そう言って村のハズレへ向かおうとした時、ユリアを呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れぬその声に俺は振り返るとユリアと同い年の男が走ってこっちに向かってくる所だった。何故かは知らないが顔を赤くしてユリアを見ている。こいつは何なんだ?


「どうしたんですかサリオ」


「あ、ああ、ユリアを見かけたから声を掛けたんだ」


 ユリアにサリオと呼ばれた少年は益々顔を赤くしてユリアを見ている。そういえばと俺はユリアの方を見る。ずっと一緒にいるものだから慣れたがユリアは美人なのを忘れていた。思わず惚れてしまうのも仕方ないというものだ。銀色の髪は肩辺りまで伸び、その綺麗な顔は誰もが振り返る程度には美人なのだ。すっかり忘れていたと言った風に俺はサリオを見ていると今気付いたのかのようにこちらを見て訝しげにこちらを見ている。俺からするとあんたの方が怪しいんだがと言いたかった。そんな目で見るなら目潰しをするぞと物騒なことを考え始める。

 そんな俺の気持ちなどお構いなしなのかサリオは少し険のある声を出して睨んできた。


「お前は誰だ?」


「ユーフェリウス・オイスターだ。ユリアの主人だ」


 ここは敢えて挑発しておこう。俺の物に色目を使うのだからそれ相応の覚悟があるのだろう。喧嘩なら真正面から受けて立つ。まぁ魔術をぶっぱして終わりの簡単なお仕事なのだが。世の中、強いもの勝ちだ。


「……領主の息子が何故こんな所にいるんだ?」


「さぁ? ご想像にお任せするよ。行こうかユリア」


「分かりましたユーフェ様」


「お、おい。ユリア、何でそんな奴といるんだよ。そんな奴より俺と遊ぼうぜ」


 何というか子供だな。そんな感想を思わせられた。俺も子供な訳だが必死に好きな人の気を引こうとする様は見ていて面白い。もはや届かない程高みにいるとは思ってもみないだろうな。ユリアは俺がいなければ王の目に留まり、玉の輿を狙える程の美貌を持っているのだから。


「今はそんな暇はありません。ユーフェ様のお世話を私がしなければならないので」


「許嫁の言葉を聞けないってのか?」


「親が決めたことです。私には関係ありません」


「くっ、覚えてろよ」


 いや、撤退早すぎだろ。そう思わずにはいられなかった。しかし、許嫁ときたか。俺はそんな話を聞いた覚えはないんだが。俺の非でユリアが離れていくのならば諦めがつくがユリアの方に原因があるならば俺はそれを知って解決したいと思う。それとなくユリアを見てみると気まずそうにしている。さっき言ってた通り、親が子供の話をして勝手に取り付けた話なのかもしれない。だからどうしたという話なのだが。


「ユーフェ様……申し訳ありません。もっと早く伝えるべきでした」


「いや、いいんだ。俺にはもったいないとは思っているからな。だが、俺が原因ならともかく原因がお前にあるなら俺は諦めるつもりはない」


「ユーフェ様……」


「心配するな。お前が望まない限り俺はお前の側を離れない。それだけは絶対だ」


「はい、ありがとうございます」


 サリオ某がどうしようが既にユリアの心は俺の方に傾いている。いや、俺は人の心の掴み方など知らない。それは前世でぼっちであったことからも分かる通り、話すことが苦手なのだ。うん、話すことが苦手でないというのは嘘だ。だからこそ、分かることもあるがあのサリオはどうにも執着しすぎているきらいがある。あれではいずれユリアに害を成す恐れがある。そうなる前に……


「仕留める、か」


「ユーフェ様。また、何かやられるので?」


「……………」


「ユーフェ様がわざわざ手を汚されることもありません。ここは私がやりましょう」


「お前の綺麗な手が汚れる。やめろ」


「ですが!」


「もう少し待ってくれ。俺には覚悟が足りないんだ。なぁ知ってるか? 前世では二十になったら大人だったんだ。俺が死んだのは十七。まだ子供だったんだぜ?」


 前世に未練はない。あるとすれば残された母くらいだろう。あの世界に大切な物はそれ以外にない。だが、今いるこの世界、この場所にはユリアがいる。ほんの少し過保護になっても仕方がないというものだ。それだけ大切になってしまったのだから。


「本当は俺、一人で生きていく覚悟をしてたんだよ。誰一人俺を知らない世界だ。信用なんてできるわけがない。けど、ユリアを見つけてしまった。五歳の癖して物事を理解する才能がある。人って欲に弱いってのは本当だな。ユリアを俺の世界に引き込もうとしたんだ。そうすれば一人じゃなくなる」


「ユーフェ様……」


 一人だ。独りである。たった一人で俺は生きる覚悟を決めたんだ。普通なら混乱するはずなのにそんなことはなかった。そんな所にユリアが来た。可愛くて、気が利いて、優しい子だ。話しただけで分かった。大切にされてることも、またそれを理解してることも。そんなユリアが欲しいと思った。いや、理解者が欲しかったのだ。そんな風に優しさだけに包まれたかったのかもしれない。もっと言えば愛が欲しかった。


「自分の世界に引き込んであのざまだ。俺はあの時後悔がないようにしようと改めて決めた。だからさ、まだユリアが手を汚すのは早いんだ。俺が嫌なんだ。我が儘だと思うけどさ。ほら、主の我が儘を聞くのも従者の役目だろ? 頼むからもう少し待ってくれ」


 心優しい子には人殺しはまだ早い世界だ。まだもう少し俺が大人になれば心を覆って守ってあげられるかもしれない。だが、俺はまだその強さは持っていない。せめてその強さが手に入るまでは大人しく待っていて欲しい。


「まぁまだやるとは決めてない。俺の障害になるならいずれはって話だ。さぁこの話は終わりだ。今日は何だか疲れた。帰ろうか」


 後ろに振り返ろうとして俺はすぐにユリアに抱きしめられた。そのままずっと動かないまま時間だけが過ぎる。俺は戸惑いながらもそのままじっと待っていた。何か言われるのだと思って。


「ユーフェ様はずるい人です。きっと私はそんな優しいユーフェ様だからこそ好きになれたのですね。ですが、それでは孤立したままです。優しさは時に人を苦しめることもあるのですよ?」


「ユリア?」


 少し怒ったような口調でそういうユリアは俺の頭を撫でながら諭すような口調でそのまま話を続けた。


「私はユーフェ様を支えるために従者となると決めたのです。好きになったからこそ助けたいと思っています。守られる人がいつまでも守られてる側にいるとは思わないでください。私も何かできるはずです。遠慮せずに言ってください。そんなに私は頼りないですか?」


「いや、そんなことはない。そうか。頼ってもよかったのか。なら、俺はもう一人じゃなくなるんだな」


「これからは二人で考えていきましょう。ユーフェ様が望むなら増やしてもいいですよ?」


「考えておく。ありがとう、ユリア。改めてよろしく頼む」


「はい、ユーフェ様。これからもよろしくお願いしますね」


 満面の笑みを浮かべてくれるユリアに心から感謝をする。未だ包まれているこの温もりは俺を孤独からすくい上げ、暖めてくれる。その笑顔は俺を幸せにしてくれる。出来すぎた従者だなと俺は思った。同時にもっと大切にしたいとも。ただ、何かある時はユリアに頼ろうとそれだけは胸に刻んでおくことにする。それが大切な人のお願いなのだから。

 





何というかサリオさんの撤退早くしすぎたかも。かませ役まっしぐらなサリオさん不憫。

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