ユリアと鎌女の戦い
私の目の前に立つのはかつてユーフェ様を苦戦させた女だ。双剣を手にして私は構える。シルバーサイズと名乗った女は悠然とその鎌を持って佇んでいた。
「あなたも変わり者ですね。血を呼び出す為の餌を好きになるなんて」
「あなたにはユーフェ様の偉大さが分からないからいいのです」
「では、死んでください。我らが神の為に」
「ユーフェ様の為に私は死ねません。お覚悟を」
私にはいつだって優しかったユーフェ様は今も私を想ってくれている。こんな事態を招いてもなお、私を好きだと想ってくれている。それが心の中に伝わってくる。だから、私は銀髪の悪魔の道具ではなく、ユーフェ様の眷属として、婚約者として誇りを持てる。
剣と鎌ではリーチが違う。けれど、私には手数がある。剣と鎌の激突は私の方が優勢になった。
「あなたはなぜそこまで銀髪の悪魔に味方をするのですか」
「世の中には知らなくてもいいことがあるのよ!」
シルバーサイズは私の攻撃速度を上回る攻撃を繰り出す。その攻撃を受け止める度に私の体に衝撃が走っていく。叩きつけられる衝撃を貰い、斬りつけられ傷を負い、石突きで突かれ吹き飛ばされる。このままではいずれ体力がなくなり、負ける。私はそう思って牽制に魔法を放つ。私が唯一無詠唱で放てるのは水属性のみ。水精霊の加護が付いているのだから。
「お願い! アクアボール」
『お久しぶりねユリア。任せておきなさい』
「大精霊!?」
無数に現れる水魔法を弾くために鎌を振るおうとするがそこに私が邪魔に入るようにして剣を道筋に置く。ただそれだけで戦況は覆った。鎌の脅威とはなんと言ってもその刃にある。胴体すら真っ二つにできるその切れ味は対人にはもってこいの武器である。
どれだけ優勢でも一撃で崩される可能性がある以上私に油断はない。ただひたすら剣の乱舞を叩き込むのみ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「くっ、いい加減にしなさい!」
「きゃ!」
大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。あの瞬間的なパワーは異常だった。肺から一気に空気を吐き出す。咳き込みながらどうにかたったが鎌はすぐ目の前にあった。
「残念ね。あの世で後悔しなさい」
ああ、死ぬのか。そう思って目を閉じようとしたがシルバーサイズの後ろで光る物が見えた瞬間私は剣で鎌をどうにか捉えることができた。たったの一瞬。されど、その一瞬は致命的なダメージをシルバーサイズに与えることができる時間だ。何故なら……
「ぼくもいるの忘れてるよね?」
「なっ!」
「レティ!」
短剣が首元に刺さる。それは身体強化により、短剣が根元まで突き刺さり、シルバーサイズは声を上げることなく、その場に屍を晒すことになった。
「助かりましたレティ」
「人間のぼくにはこれが精一杯だからね。あ、そうだ。ユリア姉今のうちにこれを渡しておくよ」
「何ですかそれは?」
レティに手渡されたのは一枚のコインだった。一見すると普通の鉄のコインに見える。模様も何もないただのコインだ。私が不思議そうにしているとレティはただのコインだよと言って笑った。
「一つはユーフェ兄渡してあげて。ぼくはここで少し休んでいくから」
「……そうですか。では、行ってきますね」
「うん。ユーフェ兄をよろしく。やっぱり婚約者が助けにいかないと盛り上がらないからね?」
レティはウインクしてから私に先に行くように促した。シルバーサイズとの戦いの途中で移動したせいでユーフェ様からだいぶ距離が開いていた。私はすぐさまユーフェ様の元へ走り去った。
そして、その先で見た物はユーフェの腹に銀髪の悪魔の腕が突き刺さる姿だった。
「ユーフェ様!」




