死神へ至る道
神へと至る道を歩いている。俺は意識を失って目覚めてからただ一本ある道をただひたすら歩いていた。それは何もない無の道。荒れ果てた荒野のような景色や廃墟と化した街などまるで生命の終わりを示すような外観を見ながら歩いていた。
しばらく歩いていると宙に文字が現れた。そこには死神の文字があった。
「俺は、死神になるのか。命を司るのか」
文字が俺の中へと吸い込まれるようにして消える。そして新たな文字が現れる。
〈征け。ただ己が望むままに〉
それは果たして誰に向けたメッセージだったのか。まるで俺に向けられた言葉であったように思えて俺は苦笑した。そうであるならば意志ある者が神としての試験を行っているかのように思えたから。
荒れ果てた物ばかりが写る景色はやがて屍が転がる景色へと変わる。辺りには骨ばかりが転がっている。これらは恐らく俺が殺してきた人達の物だろう。俺の魂に今、刻まれた命の数だけの力が俺に宿るのが分かる。また、宙に文字が現れる。
〈死は力。死神とは死を司る者なり。死者を己が眷属として生かせ。生者は一人のみとせよ。それが自分の力を制御する鍵となろう〉
文字が吸収され、そして骨が俺の中へと入っていく。そのたびに膨大な力が俺の中に溢れ出す。その身に溢れ出す力が俺の周りに纏わり付いていく。その全てが俺の力であり、そして神の力、神力だ。俺はただそれを感覚的に理解した。
神だけが使うことができる神力はとてつもない力を神に与えてくれる。それは人知を越えた力だ。天変地異すら起こせるその力は無闇矢鱈に使えば世界を滅ぼすことになるだろう。
俺は膨大な力に耐えきれなくなり、膝を付く。ふと、自分が纏っていた物を思い出す。死神の黒衣のことだ。
「来い。今、守るべきは俺だ」
『御意』
俺に覆い被さるように死神の黒衣が現れ、俺の神力を包み込んだ。死神の黒衣は神器。それは神が使い、神にも匹敵する力を持つ器のことを指す。死神の神力を浴びた死神の黒衣に元の力が宿るのが分かる。死神の黒衣は襤褸布のようになり、俺の肩に乗るように纏わり付いた。
道は後少しだ。俺は最後の道を歩いていく。長い長い道のりであった。時間はどれくらいたっただろうか。数えるのもおこがましい程膨大な時間だ。それくらいの時間を俺は一瞬で経験した気がした。
最後に待っていたのは大きな槍であった。それは三つ叉の形状をしており、禍々しい程の死の力を帯びている。それはデーモンスピアと呼べる物であった。それを手にした。瞬間、じいさんから貰った槍が遠ざかっていくのが分かった。じいさんは俺がいつか死ぬのを分かっていたのかもしれない。それを防いでくれたのはあの神槍だ。じいさんは死を覚悟して俺にあれを託してくれたのだ。俺はただ深く感謝した。屍の中にはじいさんがいた。
「行こうか。俺が得たのは守るための力だ。刈り取りにいこう。愚か者の命を」
出口はすぐそこだ。
※※※※
銀髪の悪魔は自分の力がようやく馴染んだのを理解した。そして、後は正解を征服するだけだ。そう意気込んで目の前の命を奪い去ろうと力を放出した。村一つ潰すには充分過ぎる力を目の前に放った。
「くくく、くははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハくは。ついに、ついに、復活だぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」
銀髪の悪魔は嗤う。自らの力を完全に制御し、自らの体が自分の元に戻り、自らの血が元にもどり、自らの魂が元の器に戻ったのを喜んで嗤う。
数分ほど経ち、力の放出をやめた。銀髪の悪魔は塵も残さず消えた者たちを思いながら歩き始めた。そして、驚愕した。
「な、何故生きている!?」
「勝手に殺すなよ。くそやろう」
銀髪の悪魔は狼狽え、混乱した。目の前に立っていたのは塵も残さず消したはずの男だったのだから。男は近くにいた少女に向けて手を向ける。すると、どういうことだろうか。みるみる内に息を吹き戻した。銀髪の悪魔から血を抜かれ、黒くなった髪が地面まで延びている。その少女は嬉しそうに笑っていた。
「ユーフェ様……」
「ユリア、お前は俺が唯一決めた俺の為の眷属だ。共に生きてくれるか?」
「はい!」
「そなたは死神になったのか? アッハハハハハハハ。笑わせてくれる。これほどの余興は向こうの世界にもなかったぞ」
「そろそろ決着を付けようか。お前はここで仕留めて、俺は平穏を貰い受ける」
「くふ、やってみるがよい。我の前で屍を晒してくれるわ!!!」
銀髪の悪魔が嗤い、死神となったユーフェリウスもまた笑う。隣に生者を従えて、神とその眷属と銀髪の悪魔との戦いが始まった。




