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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
最終章・死神光臨
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銀髪の悪魔は嗤う

「お、いたいた。こんな所にいたのかよ。おい、そこの男、その女を差し出せ。そうしたら命だけは助けてやる」


 男は下卑た視線をユリアに向けて舌なめずりした。場は凍り付いた。男はそれに気付かず、剣を抜いて脅そうとしてくる。


「ほら、さっさと寄越せ。俺が大事に扱ってるからな。もちろん、飽きたら他に廻してやるがな」


 不愉快だ。不愉快である。人を何だと思っているのか。人の体を道具と勘違いしているのではないか。何よりもユリアは俺の物だ。人の物ように勝手に語るのは許さない。俺は男の首を容赦なく、吹き飛ばした。

 男は物言わぬ骸となり、血を滴らせて床に崩れ落ちた。俺はただただイラつく思いを抑え、自分の中に押し込めた。軽はずみに行動してしまったが後悔はしていない。こういう人種は死んでも治らない。例え、見逃したとしても悔い改めることをしない。

 俺は思った以上に独善的な考えをしていることに苦笑してしまった。そう、自分もまた愚か者の一人。そうやって言ってしまえば誰もが愚か者に陥るのは分かりきってはいるがそう思わずにはいられない。そこまで考えて思考を現実へと戻した。


「ユリア、行こう。それと、ごめんな」


「……ユーフェ様は思い悩みすぎなのです。悪かったから殺した。ただそれだけでいいではないですか。ここはそういう世界です」


 そう、ここはそういう世界だ。そして、一方的に罪を被せることで軍を、民を煽ることができる世界でもある。大多数の意見に流されやすいのだ。強者に弱者は従うしかない。だから、行えることでもある。


「くく、ユリアには叶わないな。街を出てこの国から出るか。内乱に巻き込まれるのはごめんだからな」


「はい。では、外へ行きましょう」


 荷物らしい荷物もなく、槍を手にしてから俺達は部屋を出た。流石に死体を放置したままではすぐにばれるので宙に浮かべてから細切れにしてから燃やした。人体をミキサーに掛けるという何とも惨いことをしてしまったが死んだら地獄行き確定かもしれない。今更後悔しても遅い気がするが。

 階段を降り、外に出た俺達を迎えたのは現国派兵士の槍先だった。


「貴様、大人しくしろ。その女を渡せば命だけは助けてやる」


 一人の兵士が代表してそう言う。どうやら現国派とやらもきな臭くなってきた。このタイミングでの内乱もそうだが月夜の暗剣が直接出てこないのも気になる。ユリアを攫うなら確かに手数で押せばどうにかなるのだが兵士が街一つ破壊できる魔術を使える俺に向けてくる意味が分からない。

 まぁ月夜の暗剣が関わっていること前提で考えればの話だが一考の余地はある。なかなか厄介な状況だ。


「さぁ元帥がお待ちだ。早く返事をしろ」


 いよいよ万事休すか。そう思っているとどこからか声が聞こえてきた。


「答えはいいえ、だよ。少し眠っててね」


「な、これ、は……」


「ふふん、レティさん参上!」


「お、やっと来たか。随分遅かったな」


「まぁね。軍に占拠されたって聞いたから眠り薬作ってたんだ。今は街全体静かだから行こうよ。時間はあまりないからね」


「おう。助かるよレティ」


 こうしてレティの機転により、俺達は無事、街を出ることに成功した。


「しかし、タイミングが良かったな。情報もあるんだろ?」


「まぁね。それよりユーフェ兄は月夜の暗剣ってのと戦ってるの?」


「ああ、ユリアが狙われてるんだ。理由は知らないがどうせ神様復活とかそんな所だろう」


「当たりだよユーフェ兄。何でも異世界の神の復活を目指してるんだって。ぼくもたまたま見つけたから片してきたよ。どうにも怪しい話をしてからね」


「よく倒せたな。それで怪しい話ってのは?」


「まぁ首を掻き切るだけだからね。その神様ってのは銀髪の悪魔って言われているんだ。何で神様が悪魔なのかは分からないけど、ユリア姉の血が必要何だってさ。月夜の暗剣はユリア姉の血を回収するための部隊で上にはシルバロスと呼ばれる狂信者がいるみたいだね」


 シルバロスに月夜の暗剣、銀髪の悪魔か。面倒なことこの上ないが狙われている以上無視はできない。少なくとも銀髪の悪魔なんて物が蘇ったら俺の平穏が崩される。元々平和に生きるつもりだったのにいつの間にかこうなっているというのはおかしい。十一歳児に何を期待してるのか知らないが全く酷い世界だ。


「それはともかくこれからどうするか。狙われてるから国に帰る訳にもいかんしな」


「確かにそうですね。どうしましょうか」


「いっそ、他の大陸に言ってみる?」


「では、我々の塒へ御案内してあげましょう」


 俺達は一瞬で臨戦態勢に入ったがその時には遅かった。光に飲まれてそのままどこかへと転移してしまった。目を開けるとそこは如何にも厳かな神殿があった。


「さて、奥で神がお待ちです。来ていただきましょうか」


 鎌女は優雅に微笑み、俺達に背を向けて神殿へと入っていく。その姿一つとっても隙がなく、攻撃のしようもない。俺達は仕方なく、中へと入ることにした。

 中は悪魔と呼ばれる神なだけあり、悪趣味な物しかおいていない。スカルフェイスや血の瓶等様々だ。完全にオカルトと化しているのでどうにも悪魔らしさが溢れ出している。鎌女が視界に入り、ようやく追い付いた。


「この先で我が神がお待ちですよ。存分に楽しんで行ってください。お呼びがあれば私も参加いたしますが」


 ふふと笑って鎌女は目の前から消えた。空間属性は持ってはいたが流石に転移まではできない。シルバロスとか言う組織の技術力は高いということなのだろう。


「何というかこうも早く大元に辿り着くとはな」


「でも、ここで仕留めれば終わりだよね?」


「そう簡単に行くでしょうか? ユーフェ様でも勝てない可能性もありますよね?」


「まぁ考えても仕方ないだろ。とりあえずなるようにしかならないんだから」


 扉の奥からは何も感じない。神であるのならば何か感じても良さそうなものだがどういうことなのか。

 不気味に思いながらも扉を開き、中へと踏み込む。長く続く道の先に玉座があり、そこには全身を青白くしている悪魔の姿があった。

 悪魔は笑いながら立ち上がった。


「くっくっ、来たか。我が血を持ちし者よ。それと周りの者達よ。ようこそ、我が神殿へ」


「お前が銀髪の悪魔なのか? 今にも死にそうだが」


「如何にもそうだ。我もようやくここまでこぎ着けたのだが血がないことにはこの体も完全には動かせなくてな。体が青いのもそのせいだ。全く忌々しい」


「神なのか悪魔なのかはっきりして欲しいものですがあなたは一体何を目的にしてるのですか?」


 ユリアがそう聞くと銀髪の悪魔はニヤリと笑った。


「それはお前が一番よく分かってる筈だ。我とあってからお前にも無意識のうちにやってきたことを思い出したのだろう? なぁユリアよ」


「どういうことなんだユリア?」


 銀髪の悪魔の笑いを耳にしながら振り返るとユリアは涙を流していた。何が何だか分からず、俺は狼狽えるしかなかった。


「説明してやろうかユーフェリウスよ」


「だ、ダメ!」


「目的はそなただよユーフェリウス。私がこの世界に呼び寄せたのだ。我が血を探すために魂に細工をしてな。その結果ようやく我は血を見つけることができた。後はそなたを眷属として使うだけだ。あっははは。よくぞやったぞユリアよ。そなたは役目を果たしたのだ。喜べ!」


「あ、ああ……うああああああああああ!」


「くっくっ、ようやく我の元に戻って来る気になったな。さぁ来い。元々我らは一つ。今こそ復讐の時!」


 ユリアの絶叫が響き渡る。それと同時にユリアから血が溢れ出る。それは銀髪の悪魔の所へと流れ込んでいくのを俺はただ見ているしかなかった。

 俺が望んでいたのではなく、魂に細工をされてユリアを望んだというのか。本当にこの世界は酷いものだ。もしかしたらその細工のせいで俺は人を殺しても平気だったのかもしれない。今まで考えていたことが崩れ落ちていく。俺は何のためにユリアを求めて、何のために強くなったのか。ユリアが倒れ、銀髪の悪魔から力が溢れ出るのが分かる。ただただ俺は呆然としていた。

 俺が俺だと言えるものがなくなってしまってはどうしようもない。俺はそのまま自殺しようかと思い、槍を手にしたがレティに止められてしまった。


「ユーフェ兄、諦めちゃダメだよ」


「俺は……何のために」


「ユーフェ兄! しっかりして! ユリア姉はいつもユーフェ兄のこと想ってたよ! ただひたすら一緒にいることを願ってたんだ。それを叶えてあげなくてどうするだ!」


 パチン。頬を叩かれて俺はユリアを見る。涙を流していたユリアが横たわっている。出会いも、こうして横たわっているのも銀髪の悪魔のせいだ。だが、出会いは俺のだけの物だ。あいつは関係ない。死なせたくない。俺は守りたいから強くなった。なのに、どうしてこう後悔することばかり、起こるのか。自分で自分を殴りたくなった。


 銀髪の悪魔は嗤う。その力を身に納めるために精神を集中しているのか一歩も動かない。だが、嗤う。その嗤いだけが無性に腹が立った。

 だから、一発殴ってやろう。ユリアを守るための力を今手に入れよう。呪縛から解放されるためにもそれが一番いい。俺は神になる。後悔はしたくないから。


「レティ、ありがとう」


「どういたしまして。ユーフェ兄、絶対死んだらダメだよ」


「分かっている。今から俺はユリアを取り戻す。まだ、間に合うから」


 俺は目を瞑って精神を集中させた。俺が持っている力は魔術、スキルだ。こんな物はいらない。俺が欲しいのはユリアを守るための力だ。それ以外は本当にいらない。だから、俺は捨てることにした。ただ願った。ユリアを守るための力を手に入れることを。


 いつの間にか俺の意識は闇の中へと消えていった。銀髪の悪魔はひたすら嗤っていた。










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