占拠された街
最終章です。投稿しようと思ってたけれど、めんどくさかったんですよね。待ってる方がいるかは分かりませんがもうしわけありませんでした。急展開且つおんぼろなストーリーですがまぁそこはここまで読んでいる奇特な方なら理解していると思いますので、続きをどうぞ。
翌朝、門が開くと同時に街に入った。朝から中へと入る変人はいないので訝しげに思われたが通ることはできた。その後は宿を取り、レティと合流することを考えていたのだが。
「しまった。連絡手段を考えてなかったな」
「うっかりさんですねユーフェ様。私も言われるまで気付きませんでしたが」
「んーまぁ何とかなるだろ。レティは情報だけは取るのがうまいからな」
戦闘は戦闘特化に当てはまる俺達には劣るがそれでもそれなりにできる子だ。この世界の女の子は何故こうも強いのか。俺としては強いというのはそれだけ危険が減るということなのだから歓迎すべきことではある。
それにレティはうまくいったなら風の精霊と契約できているはずである。風は使いようによっては盗聴するのにもってこいの魔法だ。レティにこれほど似合う属性もないだろうと俺は思っている。もちろん、俺もレティができることは魔術でできるのだがレティが詠唱無しでできるようになるというのは魅力的だ。ユリアも水属性に関しては無詠唱でいけるので重宝している。精霊は人を支える為にできた種族なのかもしれない。
「じゃあ俺達はここでのんびりと待つだけだな」
「その、ユーフェ様……」
「どうしたユリア?」
「デ、デートでもどうですか? ほら、最近は旅で何も、あれだから、あの……」
ユリアがテンパっているのは何度も見ても面白い。つい笑ってしまった。それを見たユリアがツンとした態度をとってしまう。そして、俺が耳元で可愛いねと言うだけでユリアはいつも墜ちてしまうのだった。
こんなやりとりができるのもこの世界に転生したからこそだ。人を殺すことになったことや色々と考えさせられることも多くはあるが充実していると思う。だからこそ、俺はそれらを守りたいと思うのだ。
数十分後、俺はユリアと手を繋ぎ街へと繰り出すことになった。街では注目を浴びることになるので魔術で隠蔽の効果を掛けていることにした。実際やってみるとできたのでどこまでこの魔術はご都合主義にできているのだろうかと不信になりかけている。スキルなんて目じゃない程万能なのだからそう思っても仕方のないことだと思う。
「ユーフェ様、あれ見てください。蝶のアクセサリーですよ」
「ほへー、この世界にも蝶はいたのか」
俺達が今いるのはこの街の商店街。雑貨屋で見つけたそれは前世で言うアゲハチョウのような形をしていた。この世界ではトラチョウと呼ばれている。理由は知らない。まぁ異世界なのでそういうこともあるだろう。
ともかくそのアクセサリーは珍しく水晶でできていた。透明で透き通ったそれは今時珍しく、かなり高レベルの技術が使われていることを思わせるものだった。
この世界の技術レベルは日本には遠く及ばず、まだまだ発展途上にある。もしかしたら俺達が知らないだけで一部では高度な技術が出回っているのかもしれないが一般的にはそう言われている。なので、このレベルの作品はとても貴重なのだ。稀に出てくる天才と呼ばれる人達が作る作品の品質だ。
「すごい綺麗ですね」
「ユリアの方が綺麗だけどな」
俺は無意識に呟いたのを慌てて顔を逸らすがどうやら蝶のアクセサリーに夢中で耳に入っていなかったようで俺は一つ溜め息を吐いた。これほどまでに毒されているとはユリアがいなくなれば俺はどうなってしまうことか。考えただけで恐ろしくなるというものだ。
そこからは軽くウィンドウショッピングをした。要するに冷やかしだが店員には認識されていないので何も言われない。俺達は思うがままに見て回り、あれこれと感想を言い合った。そして、昼頃にはご飯を食べるために定食屋へと足を向けた。
「少しはしゃぎ過ぎました。すみません」
「くくく、何を言ってるんだ。ユリアが楽しかったのなら謝る必要もない。俺は君のためなら何でもするからな」
「そんなことをこんな所で言わないでくださいよ!」
「あっはは。まだ若いのに仲がいいねぇ。定食お待ちどうさん。ゆっくりしていってね」
「どうも。さぁ食べようか」
ごくごくありふれたランチに手を付け始める。こういうのは想像力が大事なのであえて何も言わないでおこうと思う。まぁおいしかったとだけ言っておく。
そして俺達がちょうどご飯を食べ終わった頃にそれは起こったのだった。外が騒がしくなってきて何事かと思っているといきなり店の扉が開き、男が一人息を切らせて大声で叫ぶような声で言った。
「げ、現国派がこの街の占拠と言い出したぞ」
その一言で人々は大いに困惑していた。現国派とは俺もよく分からないがおそらく政争の延長線上で戦争にでもなったのだろうと推察した。厄介事がやってきたなと俺は思ったが所詮他人事なので気にすることはないとお題を払ってから宿に戻ることにした。
いきなりやってきた男が言った通り、大通りは軍に占拠され、通れなくなっている。しかもここを戦争の拠点とするから物資を供給しろと声高に叫んでいる。周りを囲む民衆は誰もが不安の表情を浮かべるが武器で脅されている以上従うしかない。仕方なくと言った感じで商人達が何やら話しているが金の支払いのことで揉めているのか怒声が聞こえる。死人が出ないといいがと思いながら俺は宿へとたどり着いた。
軍と聞いてユリアも不安そうにしている。いくら戦う力を持っていたとしてもユリアは女の子だ。不安に思うのも仕方がない。雰囲気からも死人が出そうなこと位は分かる程度にユリアも経験はある。俺の隣で不安そうにしている姿を見ると何とも言えなくなる。
「人が、死ぬんですね」
「ああ、今回は確実に内乱だろうからな。今まで特別聞かなかったけど、人が死ぬのは嫌いか?」
「……どう、何でしょうか。私にはよく分かりません。ただ悲しいことだとは思います」
「そうだな。悲しいことだ。でも、もう起こってしまったものは止めようもない」
「分かっています。ユーフェ様にはこの戦争を止める術はないと言っているのですよね?」
「できないことはない。だけど、これはこの国の問題だ。一応俺は貴族だから手を出せないんだ」
俺が手を出せばクレバス王国が武力介入したと見なされ、他国も介入してくることになる。それはこの聖王国を舞台にした乱戦に切り替わってしまうのだ。もちろん、俺が本気を出せばそんなことが起こらない程迅速に解決することできる。現国派も反対派閥も介入者も皆殺しにすればいい。それだけの力は俺にはあるつもりだ。魔術然り、槍術然りである。
だが、毎回そうしていては俺はどの国からも恨みを買い、どこにも住処がなくなってしまう。だからこそ、実力行使は避けたい。実力行使をするならばいずれかの派閥に参戦してから後、一冒険者としてユリアを立てて行うことになるだろう。そんな風になれば当然、柵も増える。俺は自由に生きていたいから国を出てきた。もちろん成人になる頃には一旦帰って正式に許しを得るつもりだがそれでも戦争に介入してややこしい関係は勘弁願たい。
ユリアは俺が厄介事を嫌うことを分かっている。そして、俺がこの戦争に何も手を出さないと決めていることも既に分かっている。敢えて聞いてきたのだ。この少女がそこまでして戦争を止める必要はないというのに優しい子だ。俺はそんなユリアを少し嬉しく思った。
「ユリアが望むなら介入してもいいけどどうする?」
「……いえ、ユーフェ様が傷付く位ならいいです。これは私の本心です。ユーフェ様の都合より大切なものはありませんから」
「まぁユリアには悪いけど、これはなるべくしてなっていて、いつかは起こることだったんだ。国が一つ滅びるつもりでいてくれ。そのくらいの戦禍にはなるだろうからな」
ユリアはコクリと頷いて俺の胸の中に収まった。どんな事情があれ、大きくなればなるほど国の滅びは速まる。いつか起こるはずだったのが今起こっただけだ。ユリアに責任はないし、ましてやユリアのせいでもない。それなのにユリアは心を痛めている。それは元々持っていた優しさのせいだ。だから俺はユリアを慰めるために頭を撫で続けた。
それからしばらくして落ち着いてからユリアにキスをした。こういう時は愛で埋めて上げる方がいい。依存する可能性もあるがユリアに限ってそれはない。存分に俺はユリアの唇を貪り続けた。
「ん、ユーフェ様は私に優しすぎますよね。私は大丈夫ですのに」
「俺のわがままだからいいんだよ。ユリアにあげられない物の代わりは愛を上げることに決めたんだよ」
何と臭いセリフかと思ったが本心なのでドヤ顔で通したがユリアはそんな俺を見てクスリと笑った。
「ユーフェ様の言葉や行動一つ一つがとても暖かくて私はとても大好きですよ。いつもありがとうございます」
そんな顔をされたら俺はもう一度キスをするしかなかった。だって、それはどれだけ見ても見足りない素敵な笑顔だったから。とても、愛おしい。そんな風に想いを込めながら唇を重ね続けた。
そして、それは不意に破れることになった。扉が蹴破れる音によって。
「お、いたいた。こんな所にいたのかよ。おい、そこの男、その女を差し出せ。そうしたら命だけは助けてやる」
男はニヤリと下卑た目をユリアに向けながらそう言い放ったのだった。




