アースドレイクの群れ
俺がいるファンタジーな世界にもドラゴンというものは存在したりする。大抵は山奥に居て滅多に人前には姿を現さないので見たことがある人はほとんどいない。そんなドラゴンにも人前によく出る種族がいた。
ドレイク種と呼ばれる飛ばないドラゴンのことだ。土竜の眷属として知られているこのドラゴンだが人前に姿を現すのには理由がある。それは人の肉を好むことだ。土竜自体は人肉は好まないがその眷属は好んで食べるという何ともおかしな関係になっている。そんなわけでドレイク種、総じてアースドレイクと呼ばれるドラゴンは人を襲い、補食するのだ。そして、何よりも特徴とすべきなのだが人肉は人肉でも女性の人肉を好む所にある。
そんな文をクレハス王国にいた時、雑貨屋で本をちら見して読んでいたのを思い出す。何故なら、目の前にそのアースドレイクが現れてしまったから。しかも群れで。
「ズゥジャアアアアア!!!」
「来ます!」
ユリアの声と共に意識が現実へ回帰する。こいつらの狙いはユリアだ。槍を持つ手に力が入るのが分かる。いい加減怒りに狂うのも抑えられるようにはなってきたが未だギリギリといった所か。俺はユリアより前に出て、死神の黒衣に言った。
「さて、お前の役割は分かっているな」
『イエス、マイロード』
何だか口調が変わった気がするが気にしている暇はない。死神の黒衣が独りでに動き、ユリアの体を覆う。ユリアはそれにびっくりしていたが俺はそれを見てからアースドレイクに向かって魔術をぶっ放した。
最初に放つのは水。ただの水球をばらまき、様子見とする。結果はすぐに見て取れた。何も事も無かったように俺に向けてその鋭い牙を伸ばしてくる。噛みつき攻撃とは原始的すぎる攻撃につい蹴り上げたくなったがそこは抑えて、口の中へ槍を突き込んだ。口内は柔らかいと予想していたが予想以上の硬さに俺は身を強ばらせた。
「堅い! ユリア! アクアブレスだ!」
「は、はい! アクアブレス!」
精霊により代行されたアクアブレスがアースドレイクが口を閉じきる前にぶつかり、弾き飛ばす。俺は追撃に雷撃の魔術を打ち込んだ。
「ズァジャアアア!!!」
「吠えるな! モグラもどき!」
雷撃は思った以上にダメージになったようでくらくらとよろめいている。槍は体表を貫けず、魔術だけで戦うことになった。俺はそのまま連続して雷撃の魔術を行使する。水を被ったお蔭でどんどんダメージを負っていくアースドレイクは動く暇もなく、地面に倒れ伏した。
残ったアースドレイクは慌てて地中へと戻っていった。
「ふぅ……槍が効かないのも厄介だな。一応神槍なんだがなぁ。そこんところは普通の性能と同じなのか。折れないだけマシか」
「あの、ユーフェ様、この黒衣は何なのですか?」
「それか? 神器というものだ。神が使う物だよ。今は俺が所有者だが」
「神器、ですか。次々と有り得ない物ばかり見てきましたから今更驚きませんがいつの間にそんな物を手に入れたのですか?」
「ユリアが寝ている間に防具屋で見つけたんだ」
「それは良かったですね。ですが、私に貸して頂いて良かったのですか?」
「そりゃあお前さんを守る為に手に入れたんだから使わないと意味がないだろう?」
俺がそう言うと呆れたような顔をしてから嬉しそうに笑った。
それからはしばらく歩く度にアースドレイクに襲われた。相変わらず折れないだけで普通の性能と変わらない槍では無理だと判断し、魔術で片を付ける。時折、ユリアがウォーターカッターで打ち落とし、カバーをしてくれる。そんな風に戦いを続けている内に夜が来てしまった。
夜は魔物が眠る時間でもあり、最も活発な時間と言われている。それは夜行性の魔物が多いからだ。そして、厄介なことに夜行性の魔物は大抵、人が作った道へと出てくるのだ。それ故、夜に街を出る人はほとんどいない。ほとんどいないというのは後ろぐらいことをしている連中が夜に外を出ることがあるということだ。隠密に長けた人が街を出る役を担うので魔物に襲われることは少ない。
ともかく、夜に街道を歩くのは危険ということだ。そんな問題も魔術があれば解決、と思っていたのだが。
「ユーフェ様、凄い音ですね」
「いや、ユリアの適応力の方が凄いから」
只今絶賛襲われ中であります。先程からどかんどかんと音を立てているのはアースドレイク。まさかあれだけ倒されてまだ諦めてなかったことも意外だがどれだけ餓えているのやら。
土の魔術で地面に空間を作り、空間属性の魔術で結界を張って朝まで過ごそうと思っていたのだが案の定こうなってしまった。今まではこれで何とか凌げていたのだがアースドレイクには有効ではなかったようだ。確かに地中を潜る相手には聞かないかと今更ながら俺は反省だった。
「あー失敗したな。今までが成功してたから油断してたよ」
「今頃レティも苦労してるかもしれませんね」
「うん。まぁレティなら何とかやってるだろうけどな。それよりもこれじゃあ寝るに寝れないな」
音は遮断できてはいるのだがいかんせん振動はどうにもならない。こうなれば最終手段、飛行をするしかない。俺は大人しく外に出て、空を飛んで街に行くことにした。




