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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
リーバス王国横断編
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闇堕ちし者の末路

 死神の黒衣を手にした俺はそのまま羽織り、純銀と相当量の金を置いて店を出た。ここの店主はこの死神の黒衣のせいで苦労しているようであったし、主人となった今、部下の始末をするのか主人の役目。慰謝料の代わりとして置いてきた訳だ。そのまま宿屋へと戻ろうしたが途中できょろきょろと辺りを見渡しているユリアと出くわした。


「何してるんだユリア?」


「あ、ユーフェ様。ここにいたんですか? 宿から居なくなってびっくりしたんですからね」


「そりゃ悪かったよ。それじゃあこの街ともおさらばするか」


「いいんですか? まだ何もしていませんが」


「食料は不足してないし、買う物もないだろ?」


「確かにそうですね。それでは行きましょうかユーフェ様」


「そうだな。早く次の街でのんびりしたいもんだ」


 特段、急ぐ旅路でもない。レティとの合流を今は主目的として置いているのでここでゆっくりしていってもいいのだが月夜の暗剣に襲われたここに留まるという悪手は打ちたくない。という訳での移動だ。ユリアもそれは心得ていることだろうから返事もスムーズにいったのだろう。

 門を出て、そのまま二つ目の街へと足を進めた。


 蜘蛛というのはすばしっこくどうにもやりにくい。俺はしっかりと地に足をつけて突きを放つが避けられる。本気を出せばこの程度ならば瞬殺なのだろうが神槍が齎すパワーは思ったよりも大きく、下手をすれば森ごと穴を開けかねないので力を抜いた状態でやるしかないのだ。もちろん、強い奴ならば俺の攻撃も緩和して受け止めてくれるのだが。

 このままでは蜘蛛に囲まれるのも時間の問題なので魔術で一気に片付けようとした時、後ろから魔力の探知したのですぐさま回避の行動を取った。果たしてそれは正解だったようで水の刃が蜘蛛の虚を突いて体を真っ二つにした。


「ナイス、ユリア」


「ユーフェ様、油断は禁物ですよ」


 相変わらず俺の慢心を防いでくれる天使だ。その天使に報いるためにも俺も少々力を振り絞ろう。先程から体を掠める攻撃は全て死神の黒衣が防いでくれている。いい加減鬱陶しいのもあったので風の魔術を起動、真空波を作り出して全て細切れにしてやった。

 計、三体の蜘蛛型の魔物クイックスパイダーを討伐し終えて俺は構えを解いた。


「槍の力に振り回されるか。全力ならちゃんと扱えるんだがどうにも加減ができない」


「もっと力を抜いて使った方がいいのではないですか? ユーフェ様はいつも力み過ぎな気がします」


「そうは言っても暴れん坊だからなこいつは」


 ポンポンと叩くのは武神となった爺さんから受け継いだ神槍。魔力を馬鹿食いする燃費の悪いこの槍は未だ拗ねているかのようで扱いが難しい。恐らくはこの槍もまた神器であり、これに認められなければ力を存分に振るわせてはもらえないことは明白だった。何を示せばいいのかも分からず、俺は死神の黒衣から神器の意味を聞いてから悩み通しであった。

 神器には皆意志があり、この神槍も例外ではないらしいのだが何も応えてはくれない。死神の黒衣のように意志疎通できる神器は珍しいとされているとかで話すこともできずほとほと困り果てているのだ。恐らくだがこれは一生賭けても解決しないと俺は何故かそう思っている。


「ともかく、魔術が使えれば何とかなるしな」


「ユーフェ様はこの間それで死にそうになったではないですか」


「そ、それはあれだよ。たまたまだ」


「たまたまで死なれては私は死んでも死にきれないのですがそこの所はどうなのですかユーフェ様」


「う、悪かったよ。そう怒らないでくれ」


「まったく。ユーフェ様は私を心配させる天才ですね。どれだけ心配させれば気が済むんですか?」


 その後もあれこれと過去まで遡って俺が如何に危ないことをしてるかを説き伏せられた。これはいわゆる尻に敷かれるという奴なのではないのだろうか。いや、それはそれで嬉しいものがあるというか、愛を感じる行為なので文句はない。むしろ、もっと罵ってくださいと少し危ない趣味に走りそうなレベルだ。……前言撤回。流石にそこまでは俺もいかない。

 手持ち無沙汰だったのでユリアの手を握った。ユリアの顔が赤くなって俺は少し笑ってしまった。


 その後、順調に魔物が出ることもなく歩けている。雨が降る様子もなく、晴れが続いているので雨の心配もいらない。そうやって先へと歩いているうちに馬車と人の集まりが見えてきた。何やら恐れている様子で留まっているので何事やらと思ってみていたがやがてこちらに気付いた一人がこちらへと歩いてくるのが見えた。


「おい、お前達もこの先に行くのか?」


「そうだが何か問題で起きてるのか?」


「それが闇落ちが出ているんだ」


「闇落ちですか?」


「なんだ知らないのか嬢ちゃん。闇落ちってのは人間が魔物に喰われ損なった果てに化け物に変わった者の事を言うんだよ」


 俺達はその姿を見ることになった。それは腐った死体であった。おどろおどろしく黒いその姿は人でありながら人でない状態であるのだ。言葉も発さぬ化け物に皆怖じ気づき、誰もが気味悪がって近づかない。未だ人を襲う素振りがないから逃げ惑っていないようだが何故そうまでして近くで見たがるのか。

 俺は何も言うことなく、魔術を発動して、上から岩を落とした。ぐちゃりと音を立てて闇落ちは息絶えた。

 急に岩が降ってきてパニックになった人々があちこちへと逃げ出す中、俺とユリアは先へと進むために歩き始めた。


「殺してしまってよかったのですか?」


 それは僅かでも救える可能性が合ったのではないかという問いなのか。少し考えて、俺は無理だと結論付けた。あれは新種のウイルスだ。一度感染してしまえば止めようがない。いわゆるバイオハザードだ。対策が立てれないうちは殺すしかない。どうにも聞いていた話では二次感染はないようなので燃やす必要はないと思い放置したが。


「俺には救えなかった。例え、あったとしてもあの姿で生きていたいとは思わないだろ」


「そうですか。ユーフェ様がそうお決めになったのであればいいのですよ」


 悲しいのですね。そんな一言がやけに心に染みて、俺は涙を流した。人を殺して擦り切れたと思っていた心で涙がこうも出てくるとは不思議で仕方ない。ただこの涙が流れるうちは俺は人間であれる気がする。例え、神になったとしても。


「本当、いい女房になるよ」


 ぽつりと呟いた。声は槍を振るう音で掻き消された。魔物は空気を読まず、襲いかかってくる。俺はただ八つ当たり気味に突きを放ちながら、人でなくなった者の冥福を祈った。








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