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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
リーバス王国横断編
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悪意ある者に鉄槌を

 槍を一振りするだけで建物が崩壊していく。中にいる人も建物に押しつぶされていくのが手に取るように分かる。羅刹覚醒で最大まで強化された五感は人の悲鳴から人が潰れる音までも俺の耳へと運んでくれる。俺はただ淡々と作業をするように裏組織がいる建物を壊していく。そう、まるで機械人形のように。

 俺を狙うようにと言う怒号と助けてくれと言う悲鳴と街の住人の悲鳴が鳴り響く。だが、まだやめない。俺は悪意ある者達を潰すと決めたのだ。やるからには徹底的にやらなければならない。


「死ねぇ! 仲間の仇!」


 涙を流しながら俺へと剣を振るう男をあしらい、腹へ蹴りを入れる。腹を押さえながら俺へと呪詛を垂れる男の言葉を俺は耳にした。


「くそ、てめぇさえいなければ俺達は安寧に暮らせたんだ。余計なことしやがって、この野郎!」


「……自分達が行ってきたことの報いを受けただけだろう?」


「俺達は足を洗ったんだ。それなのに何で潰されなきゃならねぇ!」


「……運が悪かったな。ラクスとやらが俺の所に来なければお前達は死なずに済んだだろうな。俺の腹の怒りはまだ収まってない。大切な物を狙われたんだ。怒って当然だろ?」


「ちくしょう! 俺達は何のために……」


 男の言葉はそこで途絶えた。槍を引き抜いて俺は次の場所へと向かう。例え、足を洗おうと俺が怒りをぶつける対象に代わりはない。悪意ある者達は弱者の言葉すら聞くことなく、その命を奪い、あるいは犯し、奴隷へと落とした。そんな物は後付けの理由に過ぎない。今はただ俺は腹が立っている。要は八つ当たりだ。

 それから俺は一つ一つ魔術で、槍で建物を倒壊させていく。数時間の内に粗方の建物は壊れ、俺が帰ろうとした時、怒りの形相で刃を向けてくる者達に囲まれてしまった。


「てめぇ、これだけやって生きて帰れると思うなよ!」


「俺達の楽園を壊しやがって」


「死んで償え!」


 男達は次々に喚き散らし、俺へと罵声を浴びせてくる。ただそれが俺には雑音にしか聞こえなかった。だから、俺は全員意識を落とすことに決めた。


「……うるさい。黙れ」


 羅刹覚醒の効果が切れ、右腕が使い物にならなくなり、神槍を地面へと落としてしまいそうになる。それを左手で手に取り、中辺りを持つ。男達はそれを合図に一斉に躍り掛かってきた。

 石突きで腹を殴り、蹴り、吹き飛ばす。槍を棒のように扱い、剣を防ぎ、投擲される短剣を弾いていく。次々と意識を落としていく中でただ一人冷静な奴がいた。


「…………………」


「っ! 速い!」


 俺は右肩を斬られ蹈鞴を踏む。それを合図に俺を取り囲もうとするが槍を円上に振り抜いて牽制する。寡黙な男は俺の命を虎視眈々と狙っている。他の奴らは俺が傷ついた様子に笑みを浮かべている。寡黙な男はただそれだけの差が生死を分けるのだと理解してるようだ。


「ええ、ようやくだ。さっさと死んでくれ」


「奴隷に堕とすのもいいかもな?」


「たしか女がいたはずだろ? そっちはどうなってんだ?」


「さぁ? 今頃マワしてんじゃねぇか?」


「馬鹿、人質に傷を付ける奴があるか。さっさと止めてこい」


 口々に好き勝手言ってくれる。もはや、手加減の必要もない。俺は槍を構え直して、男の首を貫こうとして、男の首が跳んでいくのが見えた。それをやった人物を見やると綺麗な銀髪をポニーテールに纏めたユリアだった。

 俺の方へ笑みを浮かべて近付いてくるとそのまま抱き締められた。


「ユーフェ様、申し訳ありません。私がもっと早く来ていればこのように傷が付くことも無かったはずですのに」


「いや、いいんだよ。これは俺の八つ当たりだ。都合よく人の役に立てるから利用しただけだしな」


「ふっざけんな! いちゃこらしやがって女を捕らえて目の前で犯してやる!」


 理不尽な物言いをしながら剣を振りかざしてくる男達に魔術を行使することを決めて俺は風の魔術を発動する。目の前から五人の男が瓦礫の方へと吹き飛んだ。詠唱すらしない俺にビビり、腰を引いていく。


「それは禁句だ。次言った奴は死ね」


「………………ふっ」


 唯一俺に傷を付けた男は小さく笑ってからどこかへと消えて行った。退き際を弁えている奴は長生きする。そこからは手を使う必要のない蹂躙劇となった。

 土の魔術で、石を作り、男達に放り投げていく。顔に当たった物は気絶、当たり所が悪い奴は死んでいく。やがて、その場で目を開ける者はいなくなった。

 俺はユリアを抱き上げてその場を立ち去った。後には機能を失った街だけが残された。



 街の外に出てから俺はユリアを庇うようにしてぶっ倒れた。


「ユーフェ様!?」


「ああしんどい。手加減というのもなかなかに大変なもんだな」


 実際、手加減をしても骨は折れまくり、手加減の様相を成してなかった。一応殆どを気絶させたが起きても痛みに声を上げることになるだろう。想像するだけで嫌になるが俺の身に降りかかってくる訳ではないが幸いだ。

 胸の上で何やら言っていたユリアの頭を撫でてから俺は起きあがった。


「まぁ何だ。裏組織は潰れて、この国も困るだろうし、めでたしめでたしだな」


「ユーフェ兄、流石にやりすぎだよ? このままじゃあ他国にも目を付けられるよ」


「うっ、否定出来ないのが悔しい」


「ユーフェ様気を付けてくださいね」


「まぁ一つくらいなら何とかなるだろ」


 そういえば、まだ自分が成人していないことを思い出す。無茶のしすぎも今後の行動に影響を受けるなら考え直さねばならないだろう。そろそろこの国からもとんずらしなければ国の兵士に追われる羽目に鳴りそうだ。

 

「とにかくこれからは無茶しちゃだめだよ。しばらくは戦うの禁止」


「そうです。ユーフェ様が手を出されるまでもありません。私が全て片付けましょう」


「いや、ユリアにやらせたら本末転倒なんだがな」


「少しくらいは頼ってくださいと言ったはずですよ?」


「あー分かった分かった。ユリアに任せるよ。その代わり危なくなったらちゃんと守られてくれよ?」


「はい。私のナイト様」


 ユリアに恥ずかしげもなく、そんなことを言われ、俺はつい苦笑するしかなかった。





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