表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
リーバス王国横断編
46/62

悪意は常に誰かの横に

 俺は目の前でにやにやと笑うラクスを見ていた。俺に首輪を嵌め、その瞳には色欲が浮かんでいる。無性に腹が立ったが聞くことも聞かずに殺すのはまだ早いと俺は思いとどまった。


「なんなんだこれは」


「ふふ、それはね、隷属の首輪だよ。首輪に登録した主の言うことを何でも聞かせられるんだよ」


「……スキルか」


「ご明察。これを開発するために苦労したんだよ? 付与魔法で本来魔物に使うはずの使い魔化の魔法を首輪に使ってみたらあら不思議、人間を隷属させることができる首輪の出来上がり。こんなに楽しいことはないよね」

 

「人を下に見るのがそんなに楽しいか?」


「うん。だって僕はこの世で選ばれし者だからね。こんな所で死ぬような玉じゃない。もっと上へそう、国をとらなきゃ面白くない」


 それは狂気と呼べるほどには狂っている思考であった。自分が正しい、自分が上に立つに相応しいと思い込み、現実において夢を見ている状態。これほど怖い物はないだろう。何をしても許させると思っている奴なのだから何をするか分かったもんじゃない。

 ラクスは一歩踏みだし、ユリアの方へと進んだ。その動きにユリアは肩を震わせる。ラクスはそれすらも楽しそうに笑みを浮かべていた。俺が動こうとするが『動くな』と言われ、動けなくなる。何かキーワードみたいなものがあるのだろうか。


「さぁおいで。君は僕が王になった暁には僕の妻として迎えよう。その方が君も嬉しいだろう? なんたって王様の妻になれるんだからね。前からぼくの隣に相応しい人を探してたんだ。これでようやく鍵が揃った」


「い、いや……やめて、こないで」


 ユリアは完全にパニックに陥っている。本来持っている力を使えていない。このままではユリアが危ない。だがこの隷属の首輪とやらが邪魔だ。どうにかするしかない。魔力で動いているようだからどうにかすれば壊れるかもしれない。

 ラクスは武器を持っていない。叩き潰すのは簡単だが体が動かないのではどうしようもない。更に一歩踏み出す。その手には隷属の首輪がある。


「ん? いいのかなそんなことを言って君の大事な人がこんな風になっちゃうよ? 『締めろ』」


 何やらラクスが呟くが何も起こらなかった。ラクスは呆然としていたが慌ててキーワードを言い続けるが何も起こらない。ラクスはうろたえて扉のある方へと下がっていった。


「ど、どうして動かない! 故障かなのか? くそ、あの役たたず目が!」


「くっくっくっ」


 俺はついおかしくて声が漏れてしまった。こんなお粗末な物に行動を縛られていた事が堪らなくおかしく感じるからだ。ただ圧倒的な魔力でねじ伏せればいいだけだったのだ。この世の理と同じだ。弱肉強食。それは魔力でも適用されるらしい。魔力を流し込むだけで首輪はその支配権を俺に明け渡したのだ。


「何を笑っている! 何がおかしい!」


「あっはっはっはっは! いやぁ滑稽だなぁと思ってな。あれだけ自慢気に語ってたくせにこの首輪が動かないとはな。お前はこの世界に祝福されてない証だな」


「なん、だと……この僕が祝福されていないだと! そんなことは有り得ない。俺は選ばれし者だ!」


「喚き立てるだけしか能がない奴に何ができる。そろそろ死体になれ」


 魔術で超振動の短剣を作り出し、首輪を掻き切る。スキルで姿を消したラクスだったが俺の魔力が及ぶ範囲にいる限り逃げられることはない。俺は手に取った神槍をラクスがいる方へと身体強化を使って投げつけた。

 街中に響くような絶叫が響き渡り、やがて静かになった。俺の手には槍があった。


「ユーフェ様ぁ」


「もう大丈夫だユリア」


 槍を自分の手に戻す機能がこの神槍にはある。投槍としての役割も果たせる万能な槍だ。

 しかし、よくもやってくれたものだ。誰だって大切な者が傷付けられれば怒りはする。例えそれが者であれ、物であれ、だ。

 ユリアを慰めながらレティへと視線を向ける。


「はぁ……どうするのユーフェ兄?」


「やられたらやり返す。それが基本だろ」


「それは裏組織の掟なんだけどね」


「とりあえず拠点を探してきてくれ。壊滅させてからこの街を出る。やらかしたことには責任ちゃんととってもらわないと気が済まない」


 倍以上にして返してやる。俺はそう決意をして、槍を握り締めた。瓦礫の山に埋めてやる。



 この世界には常に悪意が潜んでいる。人攫い、暗殺、商売の邪魔、魔物を使った殺し。数えきればきりがないそれらは決して無くならない。そう、無くならないのだ。今のままでは無くならない。だからこそ、俺は徹底的に潰すことに決めた。

 こちらに被害がないからといってひよっていてはいずれこちらに被害が及ぶことになる。そうなってからでは遅い。もう何度もこの世界の悪意に触れたはずの俺がここまでいいようにされたのもムカつくが何よりもユリアに手を出そうとした。それはいけない。

 もはやそこは殺す殺さないの世界ではない。やるかやられるかの世界だ。やらなければ舐められ、やれば恐れられる。それが大抵の裏世界の掟だ。ならば、俺は何にでもなろう。鬼、悪魔、魔物、相手に対してあらゆる悪になりきってやる。それで後悔を覚えさせられるならば何だってやるつもりだ。

 この世で悪が栄えた試しはないという。ならば、俺がそれを一部実現してやろう。今からこの街に悪という悪を排除する。ついでに国が崩壊するなら一石二鳥だ。というかして欲しいな。


「さて、行くか」


 神槍を手にした俺はレティから聞いた裏組織の場所を頭に浮かべながら宿を出る。

 悪意は常に誰かの横にある。もはやこの世界の常識であり、当たり前として通っている。悪意に晒されれば誰もが絶望する。だが、俺の前でまで通用するとは思うな。俺に触れたのが運の尽き、あの世にて後悔しろ。


「羅刹覚醒」


 一歩、踏み出し、槍を凪いだ。それだけで破壊の音が街に鳴り響く。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ