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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
リーバス王国横断編
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不穏の幕開け

 旅を続けて一週間とちょっとが経った。のんびりと歩きながらの旅は気楽であり、話をしながら歩いていたので暇はしなかった。時折、やってくる魔物は魔術で吹き飛ばし、魔石をマジックボックスに収納する。事故もなく、穏やかな旅路に俺が一息付いていた頃にそれは起こった。

 目の前で襲われる馬車があったのだ。幸い、囲まれているだけみたいで何も手を付けられていないみたいだったので俺達はすぐさま走り寄って盗賊達を撃退した。というより、俺が魔術で蹂躙した。

 そこで知り合ったのが商人のラクスだ。ラクスはポールアクスに向かう途中だったというので護衛のついでに一緒に行くことになった。

 そして、今日、ようやくポールアクスに着いたという訳だ。


「ここがポールアクスなのか?」


「はい。ここポールアクスはカジノが有名です。他にも裏組織の溜まり場という暗黙の了解みたいな場所でもありますよ。なので、気を付けてくださいね」


「ああ、ありがとう。注意することにするよ」


「では、私はこれで失礼しますね」


 ラクスはそう言って先に行った。街中は貴族が結構多いみたいで時より、ぶつかった平民が怒鳴られている。平民も貴族もあるかと俺は思うがこの世界ではそれが常識なので受け入れざるを得ない。まぁ最悪、武力で片が付くのがこの世界なので気負うことは何もない。

 ユリアとレティを促して、宿を取る。近くにあった宿に入って二人部屋を取って中に入った。


「ふぅ。ここは危ない街だな」


「貴族がたくさんいましたからね。ぶつからないようにしないといけませんね」


「じゃあ、ぼくは情報収集に行ってくるよ」


「ああ、気を付けろよ」


 レティはドアを開けて部屋を出た。久々に二人きりになった俺達は互いに目を合わせてからくすりと笑いあった。特段、意識せずともよいのに意識してしまう。俺はいつの間にかユリアの虜にされていて、今ならユリアに奴隷のように扱われても文句を言わない自信があるくらいだ。

 そんなユリアも俺の腕を絡め取ってもたれ掛かってくる。耳元で俺の名前を呼ぶユリアがとても可愛い。顔を真っ赤にしてこちらを見てくる。その瞳は潤んでいて物欲しそうにしている。俺は何も言わずにユリアの唇を奪った。

 もう少し先に進んでもいい気がするがまだ早い。俺とユリアの関係はその程度で終わるようなものではないと思っている。だから、まだなのだ。愛の形は色々あるべきであり、色んな表し方を味わうべきだ。例えば、名前を呼べるという些細なことから抱きしめるだけの簡単なものまでそんな程度の事で満足しながら生きていく。それが今はとても心地いい。

 少し強引に口の中を蹂躙しながらの長い長いキスが終わり、互いに息を荒くしながら唇を離した。


「もう、少し乱暴でしたよユーフェ様」


「しょうがないだろ。ユリアを味わうのにこれしかないんだから」


「あ、味わうなんて」


 まぁ散々言い訳っぽく言ってみたが俺の体ができていないからしないだけだ。近いうちにできる体になるとは思うがまぁ本当に焦らず行こうと思う。俺が物にしたいのはユリアの心であって体ではないのだから。もちろん、全てが欲しいが今はまだ望まない。少なくとも旅が終わるまでは現状維持だ。


「と、とにかく! もう少し優しくしてくださいね」


「悪いな。ユリアが可愛くて、つい」


「褒めても何も出ませんからね」


 そんな可愛いツンデレを披露しつつ、俺の頬へキスを一つくれた。これだから抱きしめたくなるのだ。俺はしばらく衝動的にユリアを抱き締めたまま、動くことは無かった。


 レティが帰ってくる頃には夜になっていた。俺は神槍を手にしてから魔力をドカ食いされていて、すぐに眠たくなるようになっていたので寝てしまっていた。神槍は持つだけでも魔力を吸うようで一日が終わる頃に半分は魔力が無くなってしまう。魔力がそれだけ無くなれば流石に疲れは出てくる。慣れればそのうち気にならなくなるかもしれないが。

 そんな俺はユリアに揺り動かされて起きた。


「う……ああ、寝てしまってたか」


「お疲れのようでしたからね」


「ユーフェ兄、ここは凄くやばいところみたいだよ」


 レティが話を始めるのを感じて俺はベッドの上で胡座をかいた。


「裏組織なんて言う物だからチンピラがみかじめ料でも取ってる位だと思ってたら大違いだったんだ。どうやらここは国が定めた金さえ払えば騎士から見逃してもらえる安全地帯みたいなんだ。それがどんな組織でも」


「国が認めてるのか。腐ってるなこの国」


 愚王子の時から思っていたが想像通り腐っている国だった。これほど酷い国は早々見つからないと俺は思う。汚職なんてのは当たり前、賄賂すら罷り通る国とは金さえあれば楽に渡り合えるある意味でいい国だがそんな国は長くは持たないだろう。そんな国は国民を大事にしないし、そうなれば民も疲弊していくばかりになる。


「ある意味、無法地帯になってるんだ。だから、ここで厄介事が起こるとめんどくさいことになるよ」


「そうみたいだな。いや、もう遅かったらしい」


 俺の諦めの言葉と共に部屋が開き、中へと男達が入ってきた。部屋を見渡してユリアを視界に納めてから俺の方へと向き直った。


「そこの女を渡せ。ボスがご所望だ。そしたら命だけは助けてやる」


「死ね」


 言葉と共に風の槍を展開、男の胸を穿った。男達はすぐさま臨戦態勢をとったがもう襲い。俺はそのまま風の槍を人数分展開させて、それぞれ急所を狙い定めて放った。


「クソ、撤退だ」


「行かせると思うか?」


 僅かに逸れて運良く左腕だけ残った男はレティの短剣により命を落とした。俺の大事な者を狙う奴は敵だ。敵対した者は容赦なく、殺す。何の躊躇もなく、ただひたすらに死に追いやる。それが俺で俺の生き方だ。


「ユーフェ様、もしかして私が狙いでしょうか」


「普通に考えたらな。いや、わざわざ捻った考えをしなくてもユリア狙いだろう」


「言った側からこれだよ。長くはいられないよユーフェ兄?」


「分かってるよ。早々に立ち去ろう」


 悪の組織との全滅対決なんていう映画や漫画もあったがあれは人数がいるからできる訳で俺達は三人しかいない。いくら俺が強いとはいえ、どこにいるとも知らない奴を相手にはできない。目の前にいれば木っ端微塵にしてやることができるのだが仕方がない。今回は街を早めに出て、やり過ごすことに決めた。

 その時。


 カシャリ。


「は?」


「いや~油断してくれましたね~」


 目の前にいたのは商人のラクスであった。その顔には卑しさが浮かび上がっている。そして、俺の首には首輪がはまっている。何度か外そうとするがどうにもできない。ラクスは卑しい笑みを浮かべながら手をすり合わせる。


「これであなたは僕の物だ」


 その濁った瞳にはユリアの姿が写っていた。

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