旅の再開
目を覚ますとユリアと目があった。綺麗なその瞳が俺の目を捉えて離さない。ただひたすらに綺麗だとしか言いようのない瞳に見据えられ、俺は言葉を発することができなかった。ユリアもまた何も言わなかった。
それからおそらく十分くらいたっただろうか。ようやくユリアが口を開いた。
「おはようございますユーフェ様」
「おはよう、ユリア」
若干顔が赤くなっているのは見逃して置くことにしよう。そう思いながら俺は起きあがった。
それからすぐにレティと挨拶を交わし、焚いていた火で焼いた肉を食べる。余程腹が空いていたのか、味気ない物だったが全て平らげてしまった。
「それで、俺は何日寝てた?」
「二日ですね。時より魘されていましたが大丈夫でしたか?」
「少し悲惨な夢を見てな。この槍の記憶だ」
俺は爺さんから受け継いだ神槍を手にとって二人の前に掲げるようにして見せた。この槍は相当な曰く付きであったらしい。
「この槍は元々妖槍、つまりは呪われた槍だったらしい。」
「へぇそんな物があるんだね」
「その妖槍が今の神槍に? 危なくないんですか?」
「今は全く別の物になっているから大丈夫だよ」
妖槍は元々血を啜りたいという願いから生まれ、そして爺さんの手に渡った。その時、爺さんは一時的に槍に乗っ取られた。ちょうど戦争があったせいで妖槍は更に強くなった。だが、偶々近くにいた神に助けられて意識を取り戻した。
ユリアとレティはその話を聞いて目を丸くさせた。あの爺さんが乗っ取られるなんて考えることすらできなかったのだろう。だが、事実この槍はそう伝えてくれた。
「その神は爺さんと同類の戦争の神だった。爺さんは神と会うことで神になる条件を満たした。そして、その神力をもって妖槍が神槍へと変わったんだ」
「あのお爺さんは神だったのですか!?」
「壮大な話だね」
「いや、レティ軽すぎるだろ。まぁそれはともかくそういうわけだから大丈夫だ。今の神槍は魔力を喰らって成長するようになっているからな」
神槍に軽く魔力を放出するとまるで意志があるかのように魔力を喰らう。まさにそれは神の槍と言うのに相応しい槍だった。
爺さんはそのあとも槍で敵を殺し続けてやがて神となった。武神とはつまり人殺しのなりの果てにあるもの。俺はなるなら死神かもなと勝手に思っているが何にせよいずれ俺も神になるらしい。神になれるなんて言われても実感が湧かない。その時、爺さんが後悔したという選択肢を前にどうなるのか、まだ分からない。だが、きっと俺は爺さんと同じ様に公開はしないと思う。
「まぁそれくらいかな。後は特に何でもない話ばかりだしな。さて、そろそろ旅の再開としよう」
「分かりました。行きましょうか」
「やっとだね。待ちくたびれたよ」
ボロボロの服をマジックボックスから取り出した服に着替え、それから歩き始めた。
「次の場所はどんな所なのですかレティ」
「んー、確か二つ三つ村を挟んだ所に街があったはずだよ。カジノがあることで有名らしいよ」
「何だか裏組織がいっぱいいそうな街だな」
「ユーフェ兄の言うとおりたくさんいるみたいだよ。ユーフェ兄のことだから厄介事に絡まれそうだよねー」
「確かにそうかもしれませんね。ユーフェ様、注意してくださいね?」
「え? いや、俺がトラブルメーカーみたいな言い方はおかしいだろ!?」
反論できないのが悔しい。確かに認めざるを得ない物もあるが俺が悪い訳ではない。むしろ、俺が解決してやってるんだから良い人だ。そんな言い訳じみたことを心の中で思いながら溜め息を吐いた。
「じゃあ、まぁ諦めてくれ。どうせ絡まれるのがオチだ」
「面倒事は避けたいと思ってるのにこれだからね」
「ユーフェ様、あまり気を落とさないでください。私が共に解決しますから」
「やっぱり起こること前提で言ってるよね」
爺さんとの一ヶ月は二人のノリとツッコミを強化させるようなものがあったのか?
そんな疑問を持ちつつ、俺達は先へと歩く。まだ聖王国までの道のりはまだ遠い。




