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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
リーバス王国横断編
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神槍の継承者2

 圧倒的。それはまさに武の極みだった。老人から繰り出されるとは思えないその一撃一撃は鋭く、正確に俺の胸へと繰り出される。かろうじてそれを胸を反らすことで避け、大きく後退する。力任せに槍を弾こうとするが力で押し負ける。槍が左腕を掠め、どうにか逸らすことには成功した。


「なんじゃ、まさかこの程度で根を上げるとは言わんよな?」


「言ってろ!」


 今度は俺からだ。老人に向かって走り出し、突くと見せかけ、石突きで顎を狙い、槍を跳ね上げる。だが、まるで知っていたかのように片手で払いのけられ、腹に一撃入れ込まれた。フェイントすら見てから避けられている。明らかに動きが読まれている動き方だ。


「ぐっ」


「ほれほれ。死ぬ気でやらんとワシには勝てんぞ」


 やけくそになり、槍を連続で突く。そのどれもが槍先であしらわれていく。徐々に焦燥感が溜まり、力が抜けた一突きをつかれて槍を巻き上げられ、弾き飛ばされてしまった。


「まだだ!」


 体術に持ち込もうとするが真横から来た槍の払いに対応しきれず俺はもろにくらってしまった。そこからは一瞬だった。何をされたか分からぬまま俺は地に伏した。

 文句の出ない敗北。首筋に当てられたら槍先から血が流れ出る。俺は老人の顔を見ると溜め息を吐いて降参と呟いた。


「ほっほっほ。若造にしてはなかなかやるのう」


「ユーフェ様!」


「それに女を二人も侍らせよって。若い癖に手が早い奴じゃ」


「爺の癖に欲は枯れてないのかよ」


「ふん、ワシは生涯現役と決めておる」


 そう言って老人は笑った。ユリアにあちこちぺたぺた触られながら俺は老人と向かい合う。


「それで俺はお眼鏡に叶ったのか?」


「ふむ、ひとまずは合格かのう。というより、この機会を逃せば次回はなさそうじゃ。お主で満足しておくことにしようと思っておる。ここに来てから随分長いからのう」


「そうか。で、具体的には何をするんだ?」


「ワシが技を教えてやる。と、言っても常人が扱える技ではない。お主はワシの技を覚える覚悟はあるかのう?」


 老人は俺を試すかのように問いかけてくる。

 俺は老人に負けた。圧倒的なその力と技。最後に俺の槍を巻き上げ、吹き飛ばしす技はそれなりに力がなければ無理な芸当だ。この目の前にいる老人は意図もたやすくやってのけた。例え、梃子の原理を使ったとはいえ、だ。

 習えばできると思うのはやめた方が良さそうだ。やるならばどれだけ自分の中で昇華できるかが決め手になるだろう。この老人の技を盗み、自分の物にしてやる。俺は腹をくくった。


「分かった。教えてくれ」


「うむうむ。それでこそじゃ。さて、自己紹介がまだであったな。ワシの名はオディヌ。槍だけが趣味のナイスガイじゃ」


 きらりんと擬音がなりそうな歯を見せて笑う様は好々爺然としていて俺は思わず苦笑するしかなかったのだった。


 一階に戻り、飯を食べることになった。一階へと上がると見知らぬ人がいて、机にご飯を並べている最中であった。気にはなったが食べ始めるまで話せそうな雰囲気ではなかったのでとにかく先に席に着くことにした。

 並べられたご飯はどれも美味しそうで俺の食欲をそそる物ばかりであった。ユリアやレティも早く食べたそうにしている。老人、爺さんをちらりと見ると頷いて食べてもいいと許可を得て食事に手を付けた。


「うおっ! うまい!」


「確かに。今まで食べたことのない味ですね」


「こんなの初めて食べた。王都でもこんなの食べられないよ」


「そりゃあそうじゃここにある食材でしかできぬ料理だからのう」


 俺は爺さんの話を聞くのも忘れ、次々に平らげた。気付いた頃には全て食べ終わっていた。爺さんは微笑ましそうに俺達を見ており、料理を作っていたらしい女性は相変わらず沈黙を保ったままだ。


「おうそうじゃった。小奴はリューヌじゃ。ワシような奴に従う変わり者じゃよ」


「…リューヌ。よろしく」


「あ、ああ、よろしく頼む」


「ほっほ。小奴は無口でのう。ワシの前でもあまり話さんのじゃ。許してやってくれ」


 それからたわいもない話をしながらその日は終わった。

 そして、修業の日々が始まった。体力トレーニングから始まり、槍の捌き方、槍を使った体術まで細かく習った。一日にそれだけ詰め込めば体の疲労も相当な物で帰ってはすぐに寝る生活がしばらく続いた。

 ユリアやレティも独自に何やら取り組んでいるようでこちらを構う暇はなさそうだった。俺が負けたのを見て何か思うことがあったのか一層激しく鍛錬をしている。少し心配になったがそういう時期もあるだろうと放置することにした。

 そうして一カ月が過ぎた頃。俺と爺さんは向かい合っていた。


「ふむ、いい面構えじゃ。では、始めるとするかのう」


 死闘が幕を開けた。








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