別れ、そして旅へ
寮にたどり着くと部屋のドアに張り紙があった。それには一言、スキル科は廃止になるので寮を退出してくださいとあった。学園長の名前で書かれたそれを一瞥してそりゃそうかと俺は思いながら扉を開けた。
このスキル科を建てたサラシェイスが死亡したのだから当然スキル科の有用性を説くものがいない限り存続させるなど不可能だ。学園長としては渡りに船であろう王女の死をきっかけに廃止を決めたのだろう。俺としては宿暮らしでも問題ない程度には金を貯めてあるので直ぐにでも出て行くことはできる。だが、学園に通うという予定が丸ごとそっくりなくなってしまったのでこれから何をするのか話し合わせなければならないだろう。
思考加速のスキルで一瞬の間に思考を巡らせた俺は中にいた少女達に挨拶を交わす。
「ただいま」
「お帰り、ユーフェ兄」
「お帰りなさい」
「お帰りにぃさま!」
俺は血を浴びた服を脱ぎ捨て、脱衣所へと向かう。この寮には入浴室があるのでそれを利用する。本来ならば魔道具を使い、水を入れ、湯を沸かしてようやく入れるのだが俺は魔術を使えるのでそれらを一瞬の工程にする事が可能だ。頭上から雨のように軽く水を浴び、血を洗い流してから風呂に体を埋める。この瞬間だけは本当に最高だ。
ふと、視線を上げると宙に浮かぶ精霊の姿が目に入った。
『久しぶりね、ユーフェリウス』
「ああ、久しぶり。ユリアと契約してるのに近くにいないとは自由だな」
『別に私が必ずやる必要はないでしょ? 大事な時は強く呼ぶように言ってあるから大丈夫よ』
「なら、いいけどさ。お前のせいでユリアが死んだら果てまで追い掛けて殺すからな?」
『う、分かってるわよ。私だって契約者が死ぬのは本意ではないわ。精霊にとっては契約者が寿命か病気以外で死ぬことは不名誉なことなんだから』
「つか、お前さんいつもどこにいってるんだ?」
『内緒、と言いたい所だけど精霊達にあってるだけよ。特別なことはなにもしてないけどね』
「何か意味があるのか?」
『大精霊ってこれでも特別なのよ? 自力で格を上げるしか無いのを私は上げることができるんだから』
「そんなこともやってるのか」
『それが仕事だからね』
エレインはそれだけ言うと姿を消した。俺は一息吐いてから目を瞑ってしばらく風呂を楽しんだ。
風呂を浴びてすっきりしたのでユリアにも風呂を進めてからベッドへと横たわる。レティは相変わらず飽きずに短剣の手入れをしている。余程気に入っているらしい。カレンとサラがお互いに魔力を練って身体強化しながらベッドの上で押し合いをしている。何が楽しいのかは分からないが楽しそうだ。これが俺の帰るべき場所であり、日常だ。もちろん、その中でもユリアの隣が俺が収まるべき場所であるが。
「さて、皆聞いてくれ」
「何ですかユーフェリウス」
「スキル科がなくなるらしい。王女が死んだのでちょうどいいと思って潰したらしいな。結構ケチらしいなここの学園長は。寮も早く出ろと紙に書かれてたし」
「もう来たんだ。いつかは来ると思ってたけど、早いね」
「にぃさまどうするの?」
「いや、国を出ようかと思ってるんだがどこか候補はないかと思ってな」
「結婚式の候補地の話?」
「悪いがそれはついでだ。成人までは見聞を広めようと思う」
「それなら聖王国がいいと思います。大きな図書館があると聞いたことがありますから」
「なるほど。ユリアはどう思う?」
風呂からちょうどあがってきたユリアが隣に座るのを確認してから俺は聞いた。
「知識が欲しいのであれば聖王国はいいかもしれませんね。ただあまりいい話も聞きません。裏では汚い事もやっているとか」
「ぼくの方にちらっと入ってるよ。残念ながら真偽は不確定だけどね」
大人しいカレンを膝の上に乗せて頭を撫でながら俺は少し思案する。大きく国としては四つある。一つはここクレハス王国、もう一つが隣国のリーバス王国、そして三つ目が聖王国ファングリア。四つ目は今回はユリウス神聖国だ。
聖王国ファングリアは人間主義で通っている国だ。特に宗教があるわけではなく、ただ人間が何事にも頂点であるという考えを持ち、多種族の奴隷化に積極的なのだ。他大陸から渡ってくる獣人や魔人、有翼人などが知らずにファングリアに入って奴隷にされるという話はよく聞く話だ。気に入らない国であるのは確かだが知識が手にはいるのは大きい。俺としては即決してもいいのだが。ユリウス神聖国については宗教国家とだけ言っておこう。
「ユーフェリウス、私やカレンの事で迷っているのですよね?」
「あ、ああ。聖王国に行くには必ずリーバスを通る。流石にリーバスには連れていけないからな」
「それでしたら私のことは気にせず行ってきてください。精霊と契約をしてみたいと思っていたのでユーフェリウスの両親と共にオイスター領に行きたいと思っていました」
「……まぁ父様と母様の所なら安全か」
「カレンもお留守番してるよ。大きくなったらサラ姉様と一緒に旅に出るの!」
「そうか。なら、気にしないで行けそうだな。レティは大丈夫か?」
「うん。風の精霊とは契約してみたいと思ってたからちょうどいいや」
「決まりましたね。もちろん、私も着いて行きますからねユーフェ様」
ユリアがにこりと笑って話を締めた。
こうして俺達は別々の目的の為に一旦別れることになった。いつかまた再会した時にはたくさん話せることを願いながら俺達は寝ることにした。
寮を引き払い、俺達は朝から寮を出る。もはやこの場所に用はないとばかりに後にした。その後は貴族紋を使い、入城し、両親と会いにいく。案内された部屋に入ると部屋で寛いでいた両親とその対面に王様がいた。
「おう、邪魔してるぞ小僧」
「いえ、それより王様は忙しいのではないのですか?」
「何、少しくらいサボっても罰は当たらんさ」
幾分か軽くなった王様はサラを一目見てから笑った。これは娘に会いに来たのだなと俺は確信した。そうでなくともこの一ヶ月会えていなかったのだ。会いたくもなるという物だ。
俺はサラの背を押した。亡くなった娘と王様という不思議な光景を横目に俺は両親と会話することにした。
「父様、母様。今日は報告があって来ました」
「なんだ。こないだみたいなのは嫌だからな」
「そうね。当分は忙しいのは嫌ね」
「それはありませんよ。そう何度もやると貴族が黙っちゃいませんからね。今日はこの国から出ようと思いまして報告に来たのです」
「まぁお前のことだから大丈夫だろうがいいのか? ユリアは両親に会ってないのだろう」
俺は今思い出したとばかりにユリアを見る。気にする必要はないと言わんばかりに首を横に振ったので俺はそれに甘える事にした。特に急ぐ必要もないのだがこういうのは早い方がいい気がするのだ。
「今回はユリアに甘えることにします。二度と会えない訳でもないのですから大丈夫ですよ」
「それならいいが。ちゃんとユリアを守るんだぞユーフェ」
「もちろんですよ。この世で一番に守るべき人ですから」
「はぁ……お前は本当に俺の息子かと疑うことがあるがそういうところは似てるな」
「ええ、あなたも確か私を守るって大声で叫んで笑われたんでしたっけ?」
「そ、それは昔の話だ。忘れろ」
「ふふ、ユーフェちゃんもちゃんと男になったのね。母さんは嬉しいわ。しっかりやるのよ?」
「はい。うまくやっていきますよ」
俺は母様の言葉に頷いた。それからカレンとサラを置いていくことや母様がレティとの別れを惜しんだりしている内に時間が過ぎていった。
「さて、そろそろ行こうか。ここでお別れだカレン」
「にぃさま……」
カレンは色々と心境が変わってしまい、子供のような大人のような曖昧な状態になってしまっている。子供が精一杯大人になろうと背伸びしているのはいいが何事もやり過ぎはよくない。これは俺がちゃんと解決してやらなければならなかったことだが父様と母様ならうまくやってくれる事だろう。常識をちゃんと詰め込んでくれれば良い子に育つはずだ。
俺は背中に背負っていた槍を手にしてカレンに手渡す。
「カレン、この槍をあげるよ。女の子はどうしても非力な部分があるからカレンがその気なら槍を使うといい」
「うん! ありがとうにぃさま!」
こうして笑ってくれると俺も気持ちがいい。魔術で物質化した鉄の穂先は魔力が通しやすく、また俺の膨大な魔力を浴びた槍の柄はそう簡単には折れない。これならば、カレンが成人するまで使えることだろう。もしかしたらもっと持つかもしれない。俺はこの槍がカレンの命を守ってくれる事を願う。いつの日かその勇士を目にする機会を夢見て。
「サラもしばらくさよならだ。うまくやれよ。お前は自由だ」
「はい。ユーフェリウスもお元気で。また会いましょう」
サラの挨拶を最後に俺は部屋を出る。王様は泣き崩れていたので放置だ。サラが何か言ったのだろうか。
部屋から出て、さっきまで空気だったレティが俺の隣に急に現れた。
「レティ、空気だったな」
「誰がこんな風に育てたのかなぁ」
「悪い悪い。いつも助かってるよ」
「本当、調子いいんだから」
「ユーフェ様、まずは王都から出るのですか?」
「ああ、しばらくは野宿だな。のんびりと行こう」
「えぇ、歩いていくの?」
「身体強化すればいいだろ。文句あるなら置いてくぞ」
俺はレティの頭にポンポンと手を乗せてからユリアの手を繋いで歩き始める。
別れがあって、出会いもある。そんないろんな物を期待しながらの旅の始まり。俺は手をしっかりと繋いだユリアと後ろから着いてくるレティと共に旅に出る。旅先が良きものであることを願いながら。
展開が強引過ぎましたかね? まぁ改善する気もないのですが。
一応完結まで書けたのですがタイトル詐欺過ぎて泣けてくる。それでもよければ今後もご期待ください。あまりいい感じには書けないですが。
今後は短編書いてもいいかも。というか、ネタないから書けない。
以上、独り言でした。




