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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
王都編
34/62

人を殺すこととは

殺人描写あり、注意してください。

まぁ吐いてしまうほどリアルに書ける技量もないのですが一応です。


 ダンジョンから出た俺は身体強化に飽かせて地を跳び、そこからは風の魔術を発動して空を飛んだ。魔力障壁で風を防ぎつつ、快適な空旅行。最初からこうすれば良かったのだと思ったがデートだったので良かったと思う。

 街へと着くギリギリで地面へと降りてから門へと歩き、門番へと挨拶をして、そのまま中へと入る。流石に王都の中でお姫様だっこする程、自重してない訳ではないので地面へと下ろす。ボロボロの服も可哀想なのでローブを羽織らせておく。ユリアは少し残念そうな顔をしていたがまたしてやるよと言ってやったら喜んでくれた。人の喜ぶ様は見ていて気持ちがいい、それが好きな人であるならば尚更だ。

 ギルドへと向かい、マクスウェルさんを呼び出す。しばらくするとわざわざ宙に浮いてやってきた。


「やぁ、お疲れ様」


「何で宙に浮いてきたんですか」


「いや、偶には魔力を使わないと腕が鈍っちゃいそうでね」


「魔力は使えば使うほど伸びますから半分くらいなら毎日使ってもいいんじゃないですか?」


「うーん、そうだね。それがいいね。魔力操作も鍛えたいからね」


「それより新しいダンジョンだがフェンリルが出たぞ」


「へぇ、倒したのかい?」


「そりゃあもちろん、うちの婚約者がばっちしやってくれたよ」


「ユーフェリウスくんもなかなかだけど、ユリアくんも強そうだからねぇ」


「まぁダンジョンコアはそのまま置いてきたけど、それでいいよな? どうせ魔石集めにちょうどいいダンジョンとして使うんだからさ」


「ああ、うん。それでいいよ。改めてお疲れ様。報酬は後日出すからまた来てねユリアくん」


「はい、分かりました」


「それじゃあ俺達はこれで」


「うん、じゃあね。ああ、そうだ。最近、人攫いが流行っててね、君達も気を付けてね。何なら返り討ちにしてもいいけどさ」


 マクスウェルさんはそのまま二階へと上がって行った。俺はその言葉に嫌な予感を感じながらギルドから出た。


「さっきのは忠告でしょうか?」


「たぶん、な。あまりやりたくはないんだけどな」


「私がやりましょうか?」


「それこそ、まさかだ。男としての沽券に関わる。できれば見ていてくれ」


「分かりました」


「あ、いたいた。ユーフェ兄、ユリア姉」


 振り返るとレティが街娘の姿をしてこちらへと走ってくるのが見えた。最近、一緒に行動する事がなくなってきたが何をやっているのだろうか。面倒事に巻き込まれてなければ何をやってもいいとは思っているが心配な物は心配だ。


「どうしたんだ。しかもぼくっ娘スタイル」


「それいうの辞めてよね。ぼくもこれで生きてきて、今更変えられないんだから」


「悪い悪い。それで今日はどうしたんだ?」


「悪い噂を届けに来たんだ。人攫いの案件さ」


「流行ってるらしいな」


「どうにも隣国が関わってるみたい。スキルシステムの実験の為だろうね」


「ふーん、厄介だな。戦争は起こさないで欲しいものだけど」


「ユーフェ様は他国に行くつもりでしたか?」


「一通り回ってみたいとは思ってるよ。いいところ見つければ俺とユリアの結婚式に使いたいし」


「け、結婚……♪」


「ユーフェ兄とユリアの結婚か。いいところが見つかるといいね」


「まぁおいおいな。それでまだ何かあるのか?」


「うん。ぼくたちが狙われてるってことだけ伝えようと思ってさ。サラやカレンは大丈夫だけど二人はよく外に出るからね。それじゃ、ぼくは少し買い食いに言ってくるよ」


 そう言ってレティは姿を消した。晩ご飯前に買い食いとはいい度胸だ。ユリアの作る飯を残したら罰を与えねば。そんなことを思いながら俺は気配感知に引っ掛かった気配に気を巡らせながらユリアに先に歩くように促す。早速お出ましのようだ。

 そのまま裏路地へと入ると男達も後を着いてくる。こうピンポイントで狙われると困ったものだ。自由に歩けやしない。できれば、穏便に暮らしたいと思っていたのだがいつの間にか殺伐とした世の中へと放り込まれている。これはサラを救ってしまった弊害かもしれない。後悔はしてないので別にいいのだが。

 ある程度裏路地を進んだ所で俺は立ち止まった。複数の気配は未だに隠れたままで出ては来ない。こうなったら最終手段、油断してるように見せ掛ける事だ。


「ユリア」


「はい」


「悪いが芝居に付き合ってくれ」


「はい。えっ」


 俺はユリアを壁際に押し込めて頬に手をやる。すべすべの肌はまるで赤子のように柔らかい。頬は赤く染まり、瞳はしっかりと俺を見つめている。俺もしっかりと見つめ返し、唇を塞ごうとした所に短剣が投げ込まれた。短剣は魔力障壁にぶつかり、カランと音を立てて落ちていった。


「さて、そろそろ出てきてはどうかな? 人の恋路を邪魔すると痛い目に合うって習わなかったのかね?」


「ユーフェリウス・オイスターだな」


「大人しく捕まって貰おう」


 男達は十人の集団でかなりの実力を持っていた。これはちょっとした少数精鋭の小隊だ。俺はユリアから目を離し、男達に殺意の視線を浴びせる。それだけで男達は警戒心を露わにし、剣を抜いた。

 人を殺すことに疑問を抱かないこの世界はどうなっているのだろうか、なんて事を考えたことがある。この世界の命のやりとりは軽すぎる。死んでしまえばそれまでであり、それだけだ。日本のように手厚く埋葬するなんて考えは王族でも無い限り考えない。俺はそれを豊かさの違い故だと思っている。日本は豊か過ぎるからそういうことができるのだ。この世界はそれほどの豊かさがない。ここは日本でないのだ。

 俺は無言で魔術剣を生成し、構える。


「殺ろうか。リーバスの実験部隊達」


「! 生きて返す訳には行かなくなったな。死体でもいいと許可がある。殺すつもりでかかれ」


 リーダー格の男が指示を出して、一人を俺にけしかけてきた。ロングソードを振るってくる男は俺の魔術剣を警戒してか、積極的に攻撃はしてこない。俺の持っている属性はスティール、つまりは鋼だ。この属性は物質化していることに意味がある。鋼は刀にも使われる程丈夫なものだ。それに魔力を合わせれば簡単には壊せない強度となる。


「死ね!」


 男は遂に俺を殺すための一撃を放ってきた。俺の喉元を切り裂く為の攻撃を俺は体術を使い、避けてから袈裟懸けに一気に剣を振り抜いた。素人に毛が生えた程度の剣筋だったが身体強化により速度が違う。胸から斜めに斬られた男はそのまま地面に倒れ伏した。


「ちっ、やはり強い。報告では弱いのではなかったのか」


 俺は男の呟きを耳に入れながらも手に持っていた剣を振り下ろした。地面に倒れた男の首と胴が離れる。男達はそれに動揺し、一瞬の隙ができる。持っていた魔術剣を投げ捨て、槍を手に取る。魔術剣は脳天に突き刺さり、そのまま消滅した。


「お、お前は悪魔か! 死んだ人間の頭と胴を切り離すなど人のやる事じゃない」


「……油断はしない主義なんだ。死んだ振りなんてされて後ろから刺されたら堪らないだろう?」


 図星を刺されたリーダー格の男は顔を真っ赤にして一斉に掛かれと命令を出した。

 人を殺すことに戸惑いを感じてはならない。何故ならば、己の命が掛かっているから。何よりも自分を大切に想ってくれる人がいるのだから。俺は容赦なく、敵を殺す。それがこの世界の生き方だ。

 槍を長く持ち、突きを放つ。相手の範囲外からの一撃。まずは一人、胸を貫き、殺す。怯まずやってくる男達は流石に殺し合いになれているだけはある。そのまま俺に向かって走ってくるのを目で捉えながらスキルを総動員して迎え撃つ。


「死ねぇ!」


 俺の前で上段から剣を振り下ろす男が声を張り上げる。俺はそれをただ冷静に素早く突きを二度放ち、胸と喉を突く。続いてやってくる男に牽制代わりに回し蹴りで男を蹴り飛ばした。男達は蹈鞴を踏み、勢いを無くす。そこで俺は魔術を発動、風の刃をばらまき、小さな切り傷を作る。それに一瞬怯んだが構わずやってくる男が二人ほどいた。

 槍を持ち直し、二人の男と対峙する。首を狙い、一人が剣を振るい、もう一人が槍に向かって剣を振るう。いいコンビネーションだが遅い。槍に向かってくる剣を弾き、首を狙ってくる剣を避けてから石突きで男の顎に当てる。顎が砕けた感触と共に男の口から血が吐き出される。槍を剣のようにして払い、腕を斬りつけてから再び回し蹴り、二人纏めて蹴飛ばした。


「弱すぎる」


「抜かせ!」


 残り六人。槍で剣を弾きながら石突きで胴を狙い牽制する。隙あらば胸への一撃を狙うが流石に避けられる。学習能力が高い者は俺に嫌われるぞと内心愚痴を吐きながら一人をようやく仕留める。

 五人も相手をするのは大変なので魔術で土壁を作り、三人を壁の向こうへと追いやる。二人は目を見開き驚いている。無詠唱如きで驚いているならばまだまだだ。俺は無茶な注文を相手に押し付けながら槍を振るう。突き、斬り払い、貫く。一人を殺し、もう一人を風の刃の乱舞で塵へと変えてこの世から抹殺した。

 土壁が崩れ落ち、一人が乗り越えようとしているがそれをさせる俺ではない。魔力で強化した槍を脳天に突き刺し、脳髄をぶちまけながら絶命させる。最後の一撃とばかりに投げられた剣が肩を掠める。残り二人。


「想像以上だな。こんな実験体がいれば博士も大喜びするだろう」


「減らず口叩いてる暇があるならばさっさと掛かってこい」


「いいだろう。但し、お前では無いがな」


 俺は唇を釣り上げて笑う。その笑みにリーダー格の男は驚いたように目を見開く。俺の後ろでユリアが男の首をはね飛ばしてる姿が見えたからだろう。


「何故だ。ただの侍女に人が殺せる訳がない」


「ユーフェ様のお側にいる侍女がただの侍女だと思って貰うのは侵害ですね」


「いや、普通はあり得ないからなユリア」


「さて、そろそろ観念しては如何ですか?」


 ユリアは俺のツッコミを無視して俺のセリフを取る。リーダー格の男に後はない。あるのは死のみだ。俺は襲ってきたものを容赦しない。特にユリアを狙ったのであれば世界の果てまで追い詰めてでも殺してやる。

 俺の殺意を見て諦めたのか、男は剣を捨てて、膝をついた。


「はは、流石に諦め時は分かるさ」


「そうか。確認だがリーバスが黒幕で間違いんだな」


「ああ。リーバスだ。それ以上は言えない。口封じの魔印が押されているからな」


「そうか。楽に生かせてやる」


「…………………」


 男の最後は驚くほど穏やかな死に様だった。

 人を殺すということは命を奪うということだ。決して軽々しく行っていいものではないし、いくら当たり前に行われてる世界でもそれは変わらないことだ。

 だが、人によって価値観が変わるように俺の価値観もユリア次第で変わる。ユリアが狙われた時は容赦しない。いや、容赦できない。俺が後悔しないと決めた時からユリアの事だけは全力で事を成すと決めたから。


「終わったな」


「はい。ユーフェ様、大丈夫ですか?」


 そう言って静かに後ろから抱きしめくれた。この温もりだけが俺を元の場所を示してくれる道標だ。大切な者を守りきれたという証は俺にとって掛け替えのない物だ。生きている意味であり、殺し合いの中で生き残る為の道標だ。


「帰ろう。血を浴びすぎだ」


「そうですね。帰ったら膝枕してください」


「そこは俺がして貰う所だろ」


 俺のツッコミにそうかもしれませんと笑って答えるユリアはとても可愛い。可愛い者は正義だとかいう奴がいたがそれは本当のことだ。

 人を殺すことはこの世界では必要なことだ。守るために、生き残る為に、身を守る為に必要なことだ。

 だが、人を殺すことはいけないことだと思う。どんなに言い訳を並べ立てても人の命を奪うことに変わりはないのだから。

 俺は矛盾を抱えた答えに苦笑する。今はまだこのままでいい。いつの日か答えが出ることを願いながら、答えが出るはずもない問いを思い起こした。


 人を殺すことはいけないことか?

 人を殺すことは必要ないことか?

 人を殺すことは……


 問いは続いていく。生きている限り。


【ユニークスキル、羅刹覚醒を取得しました】



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