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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
幼少期編
3/62

初めての銀世界

 挨拶を交わし、俺はユリアに話しかける。半年の間に片言だが離せるようになった。ユリアも嬉しそうにおめでとうございますと言ってくれた。

 拙い口元で俺はユリアに外に生きたいのだと伝える。


「ゆいあ、そと」


「え? お外に行きたいのですか?」


「あい! そと、楽しみ」


 きゃきゃと喜んでやるとユリアは仕方ないなぁとでも言いたげに俺を持ち上げた。ユリアも今では五歳でもう少ししたら六歳になる。少しお姉さんの貫禄が出てきたユリアは俺を抱き上げて部屋の外へと出る。

 実は前々から考えていたのだがユリアがあまりにも知識を吸収するので計算を教えたりした。みるみるうちに四則計算を覚えたのでびっくりしている。数字もこの国の最高位貨幣価値である十万まで覚えているし、それ以上は書くことは無理だが計算はできるようになっている。一を教えて十を知るような天才に前からだが本当に俺の近くにいるのがもったいないと感じている。

 だが、今はまだ五歳。まだこの才を知られるには早い。だから、これもまた秘密にしている。まぁそれを知られるのはまだ先のはずだ。天賦の才とも呼べるものを持つユリアがどのように育っていくのかが楽しみで仕方がない。俺はユリアが学校へ行けるようにする事も考えていたがユリアの声で思考から現実へと戻った。


「はい、ユーフェリウス様。お外ですよ」


「そと、あい!」


「綺麗でしょう?」


「すごい、すごい」


 いつの間にか外にいた俺はそれを見て感動した。一面、銀世界。今の季節が冬であるとも分かった。あたり一面雪で覆われており、とても幻想的な雰囲気を感じ取ることができた。屋根から雪が落ちてきて、ビックリする。

 ユリアは俺を地面へと置いてから雪を持ってくる。それに触ると冷たく、すぐに溶けていく。分かっていたし、知っていたが感動が心の内を支配する。


(いいな。未知の世界でも雪は同じように冷たい)


「ユーフェリウス様、如何ですか? これが雪と言うものです」


「ゆき、ゆき」


「はい。お空から雪は降るのですよ」


 ユリアのそんな説明に原理まで知っているよと内心で返す。雪をかき集めて雪だるまを作ってみたがやはり枝や目玉の代わりになる物がないと見栄えが悪い。適当な小石を拾って頭の部分に埋め込む。ユリアの袖を引っ張ってアピールする。


「ゆいあ、みて!」


「わぁすごいですね。ユーフェリウス様流石です」


「ゆいあ、やる!」


「わたしもですか? では、大きい物を作ってみましょうか」


 そう言ってユリアは俺の目の前で大きな雪だるまを作ってくれた。俺の背丈ほどある雪だるまにおれは小石をユリアに渡し、目玉を付けて貰う。


「うーん、何か足りないですね」


「ゆいあ、えだ!」


「枝、ですか?」


「えだ、うで」


「枝を腕にですね。こうですか?」


「あい!」


 これで前世でも見た雪だるまの完成だ。思えば小さい頃は雪だるまをたくさん作ったなぁと思い出しているとそんな所へ父と母がやってきた。


「あら、それは何かしら?」


「ゆいだるま!」


「へえ、雪だるまか。ユーフェが作ったのか?」


「ゆいあ、いっしょ!」


「はは、そうかそうか」


「さぁユーフェリウス様、中へ入りましょう。外は寒いですから」


 ばつが悪そうに頭を竦めるユリア。だが、せっかくの外なのだ。俺はもう少しだけいたい。我が儘を言っているのは分かるがユリアに強請るように腕を掴む。


「ゆいあ、あそぶ!」


「ですが……」


「あそぶ、ダメ?」


「ははは、ユーフェには勝てないなユリア」


「ええ、もう少しだけ遊んであげなさい」


「やった、きゃきゃ!」


「もう少しだけですよ、ユーフェリウス様」


 それから俺は雪を触ったり、ユリアに持ち上げて貰って雪だるまに手を突っ込んだりして遊んだのだった。それはもう子供時代に戻ったかのように。いや、今の俺は子供そのものどころか赤ん坊なのだが。


 それから数日、外で遊ぶようになった。ユリアに強請り、外に連れて行って貰ったのだ。本来ならば怒られる所だがもうすでに両親の許可が出ているのでサラミナには怒られなかった。

 雪を触ったり、雪だるまを作ったり、雪を固めて投げたりして遊んだ。楽しそうに雪を触るユリアを見て俺もまた笑ったのだった。


「ユーフェリウス様、知っていますか。雪はお空が冷えて雨が雪に変わるそうですよ」


「あい?」


「ユーフェリウス様にはまだ早かったですね。いつかユーフェリウス様と学園へ入ってみたいですね。早く大きくなってくださいね」


「あい!」


「ふふ、ユーフェリウス様ならすぐに大きくなりそうですね」


 ユリアは俺の頭を軽く撫でる。その動作はとても優しいものだった。俺はユリアの身に委ねるようにして目を瞑った。

 そしてある日、俺は熱で倒れた。冷たい物を触っていたのもあるが菌がどこからか入ったのかもしれない。そんな訳で俺はベッドで寝たきりだ。元々寝たきりだったので大差はない。

 ないのだが、目の前でユリアが怒られているのが俺に罪悪感を感じさせる。俺が望んで外に出たのに怒られているのがユリアだからだ。体が動けば止めさせることもできたかもしれない。これほどこの体が疎ましいと思ったことは今までにない。


「ユリア、何故風邪を引くまで外に入るのですか。ユーフェリウス様はまだ赤ん坊なのですよ」


「すみません……」


「次からは気を付けなさい」


「はい」


 そう言っている内に睡魔に飲み込まれる。熱にかかるとしんどいのはどうやら異世界でも同じようだ。そんなどうでもいい共通性を見つけながら眠りについた。


 次の日の朝、眠りから覚めると申し訳なさそうな顔をしているユリアが目に入った。俺はゆっくりと起きあがり、おはようと声を出す。


「ユーフェリウス様、申し訳ございません。私がもっとしっかりしていれば風邪を引くこともなかったでしょう」


(ユリア、それはちがうよ。ユーフェリウスは望んで外に出たのだから)


「ヘークンさん……」


「ゆいあ、め!」


「え?」


(どうやらユーフェリウスは君が悲しそうなのがダメらしいよ)


 念話で補足しながらも会話をする。これで元気になってくれるのなら儲け物だ。我ながらうまいことを思いついたものだ。


「私を許してくれるのですか?」


「あい! ゆいあ、あそぶ、いっしょ!)


(一緒に遊びたいそうだよ。ユーフェリウスはユリアのことが好きみたいだね)


 ……本音を出してしまった、後悔はしていない。

 ユリアはこの歳にして美人の風格が浮き上がりつつある。将来はどこぞの貴族に召し上げられるかもしれない。まぁその時までは俺が守って上げようと思っている。主人として当然だし、何よりこんな片田舎で終わるような才能ではないからだ。

 ユリアには世界を見て欲しい。俺がその一助になれば、と思っている。赤ん坊の癖に思考が複雑なユーフェリウスくん1歳。いや、ただ、笑って欲しかっただけだ。俺の我が儘のせいで気落ちする必要はないのだから。

 まぁ俺のお嫁さんになってくれるのが一番の理想なのだが物事はうまくいかないことは理解しているので期待半分、諦め半分でいこうと思っている。


「ふふ、ユーフェリウス様ありがとうございます」


「あい!ゆいあ、あそぶ!」


「はい、熱が治ったら遊びましょう」


 こうして俺はユリアと約束をした。そんな約束を脅かす存在がすぐに迫っているとは知らずに。

 俺はユリアの子守歌を強請り、眠りについた。たまにはそういうのも悪くはないと思った。


 そして、数日後の昼。ユリアが涙を流しながらこちらを来るのが見えた。俺は怪訝に思いながらもユリアの言葉を待つ。泣いているユリアを見たことがないわけではないがそれでも今回は異常だ。

 側に来てようやく落ち着いたユリアはゆっくりと話し始めた。


「ユーフェリウス様、申し訳ございません。約束は守れそうにないです」


「あい?」


「伯爵様に嫁ぐことが決まりました。ヘークンさんに教えて貰った掛け算をうっかり使ってしまったのです。って、こんなことを言っても分かりませんよね。ですから、今日でお別れですユーフェリウス様」


 俺はそれを聞いて、しまったと思った。教えるのが楽しくてつい教えたのが仇になったのだ。人間、誰だってミスをする。そんなことも計算に入れないで責任も取れない癖に軽々と教えたツケが回ってきたのだ。

 愚かだと思った。何とアホなことをしてしまったのか。後悔してしてもしきれない。俺は念話で何事か言おうとしたがその前にユリアが口を開いた。


「知っていますかユーフェリウス様。伯爵様ってとても偉い方なのですよ。です、から、私は、幸せ、に、なれるの、ですよ」


「…………」


 そんな涙を流しながら言われても説得力なんてなかった。俺は異世界で初めての後悔をし、泣きそうになった。これほど、悔しいことはなかった。前世でも美加ちゃんを亡くした時、好きだと気付いた時くらいだ。

 小さな女の子は銀色の髪を揺らしながら涙を拭う。俺の目の前にいるユリアがとても小さく見えた。俺は守りたい物を守れないのが悔しかった。後悔が俺の心を締め付ける。


「ユーフェリウス様、あなたと一緒に入れて楽しかったですよ。また、会えたなら遊びましょう」


 そう言ってユリアは部屋を出た。涙が床に落ちていく。何を言えば良かったのか、はたまた何も言わなければ良かったのか。俺には何も分からない。

 頭の中が真っ白になり、無意識に聴覚を強化してしまった。


『明後日、私は帰る。この天賦の才の子をしっかりと着せ替えるのを忘れるな。私の妻になるのだから、ふはは』


『……分かりました。それでは寝室に案内します』


『ああ、楽しみだな。早く家へ帰り、育てたいものだ』


 それは突然、思い浮かんだ事だった。日本にいた頃ならば、決して思い浮かばないし、やることはないことだ。決してしてはいけないことで、法律でもそう決まっていること。


 殺してしまえばいいのではないか。


 不意に思い浮かんだそれは俺の頭の中で反芻される。悪魔のささやきに俺は決意してしまった。伯爵とやらを殺してなかったことにしよう。そうすれば解決だ。誰も赤ん坊がやったなどと思うまい。

 そこまで考えて俺は首を振った。それは最終手段だ。まだ、他に何かできることがあるはず。二日の時間がある。


(そうだ。ユリアの人生が掛かっているんだ。何も悩むことはない。こんな奴に奪われたくはない。全力を尽くせ俺)


 俺はユリアを守るために様々なことをやり、助けることを決意する。悪魔の囁きを胸の底にしまい、聴力を強化して、その日は夜まで盗聴に徹するのだった。


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