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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
王都編
29/62

とある放課後の誘拐事件

 俺、だだいま誘拐されてます。


 すごくしょうもないミスでユリアの代わりに誘拐されてしまった。ダンジョンでの金策から二日後。やることもないのでユリアと二人で歩いているとそこで怪しい奴が気配関知に引っかかった。気付いた時には間合いに入られていたので、何とかユリアを庇おうとして石に躓いたのだ。そこからはあらまぁ不思議、手慣れた仕草で俺を担ぎ上げ、眠り薬らしきもので眠らされてしまった。まさかあんなドジをやって捕まるとは思わなかった。


「はぁ……まぁいつでも逃げれるんだがどうしよう」


 この誘拐事件、どう考えてもあの愚王子が起こしたに決まっている。いや、決めつけてしまっている。他の件の可能性もあるが王都にそんな馬鹿はいない。これでも王様の友人の息子で爵位持ちなのだ。そんな簡単に標的にされたら堪らない。

 という訳で根拠が無いわけではないのだ。甚だ不本意だが本人が現れるまで待つことにしよう。俺は自身に危害が及ばないように魔力障壁を張ってから床に横になり目を瞑った。


※※※※


 ユーフェ様が誘拐された。私の目の前で男達は堂々と犯行を行ったのだ。周りにも人がいるにも関わらず大胆だ。私はそんな的外れという訳でもない感想を抱きながら溜め息を吐いた。

 これは明らかにユーフェ様を牽制するために私を狙った犯行。おそらくはユーフェ様が愚王子と呼ぶ隣国のリーバスの王子でしょう。サラシェイスさんを余程自分の物にしたいようですね。まさに愚かと呼ばれる行為でしょう。


「……とにかく、レティに頼んで探って貰いましょうか」


 私は周りの視線を感じながら寮のある方へと歩いていった。きっとユーフェ様なら無事のはずだ。百のゴブリンでも素手で倒せそうな方だから。何よりもユーフェ様を信じているから。待っていてください、今助けに行きますから。


 寮へと戻る途中でレティと出くわした。レティは何やら串肉を食べていた。


「レティ、少し助けてください」


「どうしたのユリア姉?」


「ユーフェ様が私の代わりに攫われました」


「ふーん、ユーフェ兄にしては下手を打ったね。石に躓きでもしたのかな?」


「まさにその通りですよ。レティ、少し王都を見て来てください。私も探して見ますから」


「分かったよ。ユーフェ兄もドジを踏むなんてね」


 レティは笑いながら姿を消した。後でお仕置きですよレティ。ユーフェ様のことを笑ったのですから。

 私はそのまま王都へとユーフェ様を探すために歩き始めた。


 私は王都で一人で歩くのは初めてだ。そんな私は王都を歩くのがどれほど困難なことなのかまざまざと知らされた。これまでどれだけ守られていたのかが実感できる。今までこれほど人に絡まれる事はなかったから気づかなかった。人の目を引くとは想っていたがこうして絡まれる程私の容姿が優れるとは思っていなかったからだ。私は目の前に下卑た目を向けてくる男を冷めた目で見つめる。

 私の容姿は人を惹きつけるようで先程から何度も男が寄ってくる。これではユーフェ様を探すどころではなくなってしまう。


「へへ、嬢ちゃん、ちょろっといいかい?」


「……何の用ですか」


「いやいや、ちょいと体貸してくれたらなぁってな」


「がははは。正直に言ったら駄目だろ」


「我が手に覚悟を マジックソード」


「へ?」


「邪魔です」


 私はマジックソードを詠唱短縮で生み出し、男を斬りつける。幸い裏路地に引き込まれたので問題はない。死なない程度の傷なので手当てをすれば死なないでしょう。そのままもう一人の男も腹を横に凪いで倒す。


「余計な邪魔をしないでください。私は今、気が立っています」


 男とは本当に厄介な物です。ユーフェ様が言っていた事は本当なのかもしれません。ユーフェ様自身も変わらないと言っていたのは私のことを指していてのことでしょうか。欲に忠実なのは睡眠欲までにして欲しいものです。とりあえず、このままギルド大通りのはずれを歩くことにしよう。

 しばらくそれらしい所を歩きましたが見つからない。いくらユーフェ様でも予想外な事が起これば対象できない可能性があります。それだけは避けたいですがどうなることやら。


「はぁ……ユーフェ様も過保護ですね。今までどれだけ助けられていたか分かりませんね」


「まぁね。これでもぼくも役に立ってるんだよ」


「レティですか。どうですか? 見つかりましたか?」


「残念ながら。いくらぼくでも何でもできる訳じゃないからね。ごめんねユリア姉」


「いえ。レティはこのまま家に帰ってください。カレンが心配です」


「まぁいいけど。何か宛があるの?」


「直感のスキルがあるからきっと見つかりますよ」


「よくわかんないけど、任せたよ。どうせユーフェ兄のことだから犯人の顔を拝もうとか考えてるだけだろうし」


 レティは呆れたように肩を竦めてから姿を消した。確かにレティの言うとおりかもしれません。それならば、犯人は王都の外にいるはず。流石に中で会う気はあの王子には無いでしょう。確か近くに誰も近寄らない廃鉱があったはず。

 私は迷うことなく、そちらへ向かうために歩き出した。


※※※※


 あれから半日が経って日が落ちた。流石に犯人自らは来ないかと諦めていると小屋の扉が開いた。外から入ってきたのはやはりというか何というか愚王子だった。本当に予想をいい意味で外してくれた。


「ふははは。いい気味だなユーフェリウス」


「そりゃどうも」


「観念してサラシェイスから離れることだ。そうしたら解放してやる」


「いや、その前にお前、婚約破棄になるからな? これでも一応子爵持ちなんでね。国際問題になるぞ」


「はっ、お前が死ねば誰も知らないままだ。随分余裕だな」


 俺は鼻で笑ってやるとサミュエルは顔を真っ赤にして俺をけ飛ばした。気を抜いていた俺は見事に顔面をクリーンヒットした。痛かった。謎に痛いのを我慢しながら俺は解放されたら一発本気で殴ることを決めた。

 顔を真っ赤にしたサミュエルは唾を吐きながらがなり立ててくる。


「捕まってる奴が偉そうな口を聞くな。俺はリーバスの王子だぞ」


「サミュエル様!」


「何だ! 今は忙しいんだ」


「それが、メイドが一人こちらに向かってきています」


「メイド? そんなもの早く片付ければいいだろう」


「そ、それが誰も手も足もできずやられていくばかりで」


「何を言ってるんだ。お前、は」


 サミュエルが振り返ると報告に来ていた男の頭が綺麗に吹き飛び、サミュエルの足元に転がった。サミュエルは腰を抜かして座り込んむ。俺はそれを見て遂にやってしまったかと残念に思いながら目の前からやってくるメイド、ユリアを視界に納めた。


「ユリア」


「ユーフェ様! ご無事ですか?」


「ああ、何ともない。よくここが分かったな」


「はい。スキルのお蔭です」


 俺は拘束を身体強化で無理やり破り立ち上がった。


「助けに来なくても良かったですか?」


「まぁそうなんだがユリアの経験にもなったしいいかなってさ。あんまりやって欲しくはなかったけど」


「ユーフェ様の為なら何だってできますよ。それにユーフェ様は私を守ってくれていました。今日、一人で王都に出て実感したんです」


 ユリアはそうして貰うことが大事であるかのようにそう語った。ユリアは笑みを見てそうかと俺は頷いて答えた。


「さて、と。お前、本当馬鹿だよな。だから辞めとけば良かったのに」


「な、な、何を言っている」


「婚約破棄だよ。サラシェイスが泣いて喜ぶかもな」


「泣いて喜ぶかはさておき、王様に感謝されるのは確かだと思いますよ?」


「き、貴様等! さっきから好き放題言いやがって! 俺はリーバスの王子だぞ!」


「はいはい。おねんねしておきな」


 手刀を落としてサミュエルを気絶させる。ロープがあったので縛り付けて持って帰ることにした。


「おいで、ユリア」


「あっ」


 ユリアを抱きしめる。ただそれだけで心を守ってあげれるかは分からなかったが俺にはこうするしかできなかった。


「ユリア、お前がしたことは本当はいけないことだ」


「はい」


「普通は人を殺せば殺すだけ心が磨り減るもんなんだ。俺はお前にそんな風になって欲しくないからあの時殺すなって言ったんだ」


「ユーフェ様はやっぱり過保護です。私は覚悟ができています。いけないことだとも分かっていますよ。ただ私はユーフェ様と一緒に入れないのであれば意味がないと思っています」


「そうか。でも、いや、ありがとう」


「はい!」


 俺はしばらくユリアを抱きしめ続けた。俺が守りたい者は次々と羽を付けて羽ばたいていく。俺の守護はもう必要ないのかもしれない。けれど、いつかまた困難がやってくることもあるだろう。そんな時に俺がまた助けてやれるようにすればいいかなと思った。

 守られる立場を卒業したユリアはこれからどんな風に育つのだろうか。俺の隣でますます輝くユリアを俺は誇らしく思うのだった。

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