王都ダンジョン
通称、王都ダンジョンと呼ばれるそのダンジョンは今、冒険者に人気を博している。それもそのはず魔物の素材が豊富であり、只今王都で魔物の素材を作った防具が人気であるからだ。素材が入りやすくなったのが功を奏して冒険者がダンジョンを潜り、防具を作るために寄ってくるのだ。
そんな王都ダンジョンの前に俺達は来ていた。
「人がゴミのようだ」
「ユーフェ兄、冗談はともかくどうするのさ。入場料を取ってるみたいだけど」
ダンジョンの前で兵士が立ち、金貨五枚、五千コルで入場を許していた。俺はあくどい商売やるよなと呆れながらも素直に並ぶ筈もなく脇にそれた。
「……もしかしなくても入場料払う気ないよね?」
「お小遣いが減ってもいいなら別にかまわないが?」
「わーい、不正万歳!」
「身も蓋もないこと言うな」
不正をするのは確かなので言い訳のしようもない。俺は魔術で周りの景色を誤魔化すように認識を阻害させて、その場で消えた。
「わ、ユーフェ兄が消えた」
「ここにいるぞ。さて、お前も消えて貰うからな」
レティの手を取って、同じように魔術を発動させる。まぁ光の反射云々を利用して人に見えないようにしてみたらできたのだ。魔術だけが唯一のチートかもしれない。
わざわざ並んでいる冒険者達には悪いがその横を素通りしてダンジョンへと入った。
しばらく歩いてから魔術を解いた。レティは緊張しっぱなしだったようで大きく息を吐いた。
「二度とやりたくないや。どうせユーフェ兄が魔物部屋に入れば直ぐに稼げるんだから」
「有り難みが減るだろ? 当たり前になったら誰も感謝しなくなるから嫌だな」
「まぁそうかもしれないけどさ。さて、このダンジョンの特徴は転移罠が多くあることなんだって。その中には魔物部屋へ直行する奴もあるらしいよ」
「ああ、レティそれはフラグだ」
がち。俺達は一瞬で転移した。
目の前に群がる魔物達を見て俺はレティをジト目で見つめる。若干ばつが悪そうにしているが魔物に囲まれているというのに緊張が無さ過ぎる。それも俺がいるせいなのだろうが。
「オーク、コボルト、ゴブリン、オーガが主な魔物だよ。たまにデビルラビットがいてそいつの肉は美味しいらしい」
「そんじゃまぁやりますか」
「ぼくもレベル上げたいからやろうかな」
魔術で剣を展開する。今回の属性は雷と氷だ。物は試しとやってみるとできたのだ。最近こんなのばっかりだ。魔を操る術である魔術とは万能であることが伺える。それも魔力があればの話だが。
剣を構え、疾走する。群の中心へと分け入るために剣を大きく左右へ振り抜いた。氷と雷が炸裂する。片方は切り口が凍りつき、片方は切り口が焦げ付いている。そのまま剣術を駆使して振り回す。
「せいっ、やぁ、とぁ!」
二匹、三匹、四匹。首を正確に狙い、斬っていく。オークばかりの所へ入ってきたが今の所分厚い皮に刃が阻まれる事はない。オークの槍を避け、剣を振りかざしてくるのを剣ごと切り裂き、弓をはねのけて進んでいく。オークが十を超えた辺りでオーガがやってきた。
その巨体はオークにも勝るとも劣らずで筋骨隆々とした腕が如何に協力であるかを物語っている。オークのぶよぶよした体よりも引き締まった皮は防具にすると良さそうな気がする。
「俺は防具はいらないけどな」
くらったら死ぬのに必要などない。俺は魔術剣をしまい、槍を展開する。属性は火だ。槍を棒のように振り回してオークの脇から来たゴブリンを蹴散らしてからオーガへと突きを放つ。鋭い突きは容赦なくオーガの喉元へ突きさった。
「もらった!」
魔力を通して爆発するようなイメージをしてから槍の先端を切り離す。しばらくからオーガの体は爆発し、上半身が消し飛んだ。
今の技は割と危険なのであまりやりたくない。槍の先端。所謂金属部分を切り離して爆弾として置き去る魔術だ。魔術で作った槍だからこそできる荒技なのだ。
「魔力消費が半端ないが何とかいけるかな」
「ユーフェ兄、ゴブリン終わったよ」
レティの方も順調そうなのでそろそろ肩慣らしも終わりにしよう。魔術を発動するために魔力集める。その間も槍で突き、払い、敵を倒していく。それなりに集まってきた所で俺はイメージを固めてから呟く。
「展開!」
俺の知識にある様々な刀剣が浮かび上がる。魔力で固めただけのそれらは宙に浮いている。俺はそれを一斉に掃射する。
「フルバースト!」
刀剣が俺を中心にして円上に広がっていく。オークとオーガを五十程突き刺して消えた。
残っているのは後わずか。俺は槍を持った手を握りなおしてから再び駆けた。
全てを倒し終わった後、俺とレティは魔物の死体を集めるのに苦労した。倒したのはゴブリン八十、オーガ三十、オーク四十の百五十匹だ。
これらは剥ぎ取りをギルドに依頼する予定だ。ゴブリンだけは魔石だけ剥いで火葬にした。
「うーん、疲れた。いきなり魔物部屋に飛ばされるとはね」
「レティがあんなこと言うからだ」
「ぼくのせいじゃないと思うけどな。ユーフェ兄の運が悪いんだ」
「……まぁそういうことにしておこう。レティ、お前のお小遣いが減るだけだ」
「ユーフェ兄それはずるい」
「ふははは。ならば、言うとおりにするがいい」
冗談を呟けるのも生きているからこそだ。魔力はまだ余っているので余裕がある。今回戦闘に使ったのは三千くらいだ。多すぎるとは思うが魔力だけを使って戦うのであればこれは普通であろうと思う。正直に言うと最後の魔術に魔力を使いすぎた。
レティの方は無難に隠れながら首を落としていたようであまり魔力を消費していない。理想的な戦い方である。
「ユーフェ兄もユリア姉が心配するような戦い方はやめればいいのに」
「槍を使うのが楽しいからな。囲まれると面倒だけど」
「わざと囲まれてる、の間違いでしょ」
「気配感知があるから遅れは取らないさ」
実際、後ろに目があるのではないかというくらいに後ろからの動きが見える。あまりスキルに頼りすぎると後々が怖いのでいずれ生身だけで魔物部屋へ行きたい所だ。ユリアに怒られて止められるのがオチかと俺は思い、苦笑した。
魔物部屋の奥へと進むと二階層へと階段があった。魔物部屋の奥に必ずあるのは仕様なのかと思ったがもしかしたら人によって違うのかもしれない。そこの所はレティに情報収集を頼むとしよう。
一度二階に行ってから俺達は一階層の入り口へ転移した。転移石というのが置いてあるのでできたがここはそれほどに深い場所なのだろうか。謎も増えてきたし、ダンジョンを進む際は慎重に進んだ方がいいかもしれない。
「ユーフェ兄、そろそろ帰ろうよ。換金は明日でも大丈夫でしょ?」
「そうだな。今日はありがとなレティ」
「どういたしまして」
ニコッと笑顔を浮かべてから先へ行ってしまった。こうして戦っているのでレティも年頃の女の子なのを忘れそうになる。俺と同い年であり、俺とは違うというのを改めて認識しておいた方がいいかもしれない。俺は前世という特別なものがあるがレティにはそれがなく、ただの十一歳の子供であるのだから。
「ふーむ、矛盾ってのは解決しないものだなぁ」
守りたい者がいつまでも守られてるままでいてくれない。俺から離れ、独自の考えを持ち、独立していく。少し寂しいような逞しいような気持ちを感じながらいつの日かユリアの言葉を思い出して俺は気を取り直した。
「まぁ今でも結構守られてるけどねぇ。心とか」
呟きは冒険者の喧噪の中に消えていった。俺はレティの後を追い、王都にある寮へと帰ることにした。




