王城とサラシェイスの婚約者
王城の外観は壮観の一言だった。西洋の城など見る機会が無かったのでこういう物なのかと実際は異世界の物だが納得していた。
中へと入るとがらりと様が変わり、あまり派手さはなく、質素になった。必要最低限の威厳を残したままの飾り付けをしている辺りは流石というべきか。俺はその辺の事は無頓着なので表現力の無さに少し落ち込んだ。過ごせれば後は何でも良いと思っているのがここに来て弊害を産んだようだ。今更直そうとも思わないけど。
城勤メイドとすれ違いながら父様の後に続く。俺は城の珍しさにキョロキョロとしているとユリアに指摘されてしまった。流石に田舎者丸出し過ぎたようだ。
「まぁ実際田舎者なんだが」
「流石に城の中では堂々としていてください。ユーフェ様は貴族なのですから」
「小市民な俺に貴族とかいう称号が付いただけの間違いだろ」
「それでも貴族なのは違いありません。ユーフェ様の為に言ってあげているのです? 少しは聞き分けてください」
「ああ、ごめん。そこまで言うなら貴族らしくやるよ」
俺はそれとなくピンと姿勢を伸ばしてそれらしい格好を取る。まぁそこまでしなくてもいいかもしれないがこういうのは気分だ。
ふと、後ろを見やるとレティがいなかったので城内の散策にでも行ったらしい。プロに負けないといいがその時はその時だと思った。もちろん、プロとは城内の密偵のことだ。
俺がそんな風なことを思っていると前から豪華な服を着た人が来て俺達は立ち止まって横に退けることになった。そこまで高貴な身分なのかと思いながら頭を下げていると俺の目の前でそいつが止まった。何の用だろうと思い、黙っていると高貴?な人は俺に話しかけてきた。
「……お前がユーフェリウスか」
「は? は、はい。そうですが」
思いっきりタメ口を張りそうになったのを敬語に直して言う。どこか不機嫌そうな男は俺を睨み付けてきてきた。何か因縁があっただろうかと思い直したが俺に思い当たる節はない。はて、何をどこでやらかしたのやら。
小太りの少年は明らかな敵意を持ってそのまま話を続けた。
「私はリーバス王国、王子サリュエル・リーバスだ。サラシェイスにちょっかいをかけることは許さん。覚えておけ」
そう言ってリーバス王国の王子とやらは去っていった。俺がどこか呆然としているとちょうど通りすがりのメイドが王子が何故ああ言ったのか教えてくれた。
「あの方はサラシェイス様の婚約者なんです。サラシェイス様の気がご自分に向かないからこうして声をかけたのかと思いますよ」
「サラシェイスが不憫だな。あんな愚王子と婚約なんてこの国も終わっちゃうんじゃないの?」
「は、はっきりと言いますね。確かに私達もそう思ってはあります。王様としてもそう思ってるようですが私情は国王としては出せないようなのです」
「なるほど、ありがとう。メイドさん。ここだけの話にしてね」
「ええ、分かっております」
そう言ってメイドは去っていった。俺がさあ行こうとしたら両親が呆れた目をしていた。何故だろうと思っていると父様が声を理由を言ってくれた。
「お前、さっきの人は王女専属のメイドだぞ」
「そんなのがあるの?」
「スカートに王家の紋章が入ってただろ。あれがその証だ。そりゃあ王族ともなれば専属が付くに決まっている。そういうお前だってユリアを伴ってるじゃないか」
「俺のは強権だよ。了承済みだけどね」
「そういうのを両者の合意というんだよユーフェ」
知っていますともお父様。俺は心の中でそう言ってから先を歩くことを促した。ユリアはどこか嬉しそうに俺の方を見ているので無視した。照れ隠しがばれてるなこれは。
しばらくしてようやく謁見の間へと着いて入ることになった。どうやら既に待機済みだったらしく、準備は直ぐに済んだ。ユリアとレティはここで待機だ。扉が入り、中へと入っていくと二人の人がいた。
一人はもちろんサラシェイス。あの時はそれなりに身を守る為に防具を付けていたが今はドレスだ。薄い水色の髪に合わせたドレスでサラシェイスに似合っていると思う。
もう一人は玉座に座っている事から国王なのだろう。見つめすぎて失礼にならないように視線を下に逸らしながら俺達は膝を付いた。
周りには騎士がおり、不埒者がいないか目を光らせている。
「カナルディア・オイスター、登城いたしました」
「うむ、面をあげよ。カナルディア、急な呼び出しで済まんな。うちの娘が世話になったようで呼び出したんだが」
「いえ、お呼びとあらばどこでも行きます。それとその件に関してはうちの息子が全てやったことです」
「ほう、そこの後ろにいるのがそうか?」
「はい。息子のユーフェリウスです」
「ふむ、こんなひょろそうなのがゴブリンを百も倒したというのか。世の中は不思議だな。もっといえばスキルというのも不思議であるが。お前はどう思うユーフェリウス」
「……神の遺産、とだけ。これは推測ですが神が与え忘れたような物がスキルだと私は思っております。何故、今なのかは分かってはおりませんが偶々と思う方がいいでしょう。それと」
俺はそこで言葉を切り、王様を見る。これはスキルシステムが現れてからの懸念だがこれは本当にヤバいことだ。誰もが鍛えれば戦えるというのは国民全てが兵士になり得るということだ。これからは冒険者の数が増えると俺は思っている。ダンジョンの氾濫のような小説だけのことが現実味を帯びて起こることで戦争などやっている暇もなくなるだろうが万が一もある。
だからこそ、これらスキルの扱い方は慎重であるべきなのだ。
「スキルはとても危険な物です。扱い方次第で国民全てが兵士と成れることでしょう。また、ダンジョンを攻略するにおいては必須の物でもあります」
「ふむ、それほどか。私にはどうも理解しにくいものでな。重要なのは分かった」
王様はしばらく考えている様子でしばらく唸っている。騎士達にも具体的に言葉にせずとも戦争の文字が浮かび上がっていることだろう。俺にとっては誰が来ようとも雑兵扱いできるから問題はない。
「はぁ……サラ。お前の友達は頭がいいらしいな。スキルを完全に扱えるみたいだ」
「お父様、ユーフェリウスは有用ですよ。私の友達になってくれる方ですから。ね、ユーフェリウス」
サラシェイスにウインクされた。話を合わせろということか。なかなか策士だなサラシェイス。俺は仕方なく話を合わせることにした。
「ええ、王女殿下とは良きお友達になれそうで私も嬉しく思っております。この度、新しく併設されるスキル科に入学する事になりましたので楽しみにしていますよ」
「まぁもう合格したのですね。ユーフェリウスなら入ってくれるとは思っていましたが予想が当たるとは嬉しいものですね」
「ははは、ユーフェリウスとやら。ずいぶん娘と仲がいいみたいじゃないか」
王様が青筋を浮かび上がらせながら俺を睨んでくる。どうやら少し調子に乗りすぎたようでサラシェイスも慌てている。俺は冷静に笑みを浮かべて煽り立てる。
「ええ、共にゴブリンを倒した仲ですから。王女殿下のことならある程度分かりますよ」
ハリキリスマイル。王様の青筋が更に深みが増し、謁見の間に緊張感が広がる。両親も青い顔をしているので相当ヤバいのだろう。俺はいざとなればお暇するので問題ない。ぶっちゃけ、煽り耐性ない王様とか国王務まらないから軽い気持ちで試してみただけなのだが。
もちろん、王様は耐えた。王様は騎士に下がるように言った。渋っていたが騎士はすぐさま下がっていった。それから直ぐに王様は笑い声を上げた。
「わははははは。小僧、ワシを試したな」
「おや、分かりましたか。煽り耐性のない王様のいる国は嫌ですからね」
「そうかそうか。それで、ワシは合格か?」
「もちろんですとも。愚かな真似をしました。どうか容赦を」
「よい。小僧の懸念は分かっているつもりだ。スキルの危険性についてだな」
「はい」
「よく考えておこう。カナル、お前の息子はどうやら頭がキレるようだな」
「どうもそのようですサリエルさん」
王様と父様が親しげだ。横から母様が教えてくれたのだが昔、冒険者をしていた時に出会って以来の付き合いだそうだ。
それからしばらくして昔話に話を咲かし始めた大人を横目に俺はサラシェイスに連れられて謁見の間を出た。サラシェイスに勝手に出ていいのかと聞いたがああなると話し終わるまで終わらないと言っていた。昔馴染みだから弾む話もあるのだろう。
「それよりも久しぶりですねユーフェリウス、ユリアとレティも」
「ああ、そうだな。元気にしてたか?」
「はい。手紙に書きましたが会えるのを楽しみにしていましたよ。また、ダンジョンに連れて行ってくださいね」
「おう。というか、王都にもあるのか?」
「あるよユーフェ兄。ここのはだいぶ深いみたいで十一階層以上は確実だって」
「そうなんですよ。色んな魔物が出るから割と冒険者がいるみたいですよ」
「こういっては何ですがサラシェイスさんが行って大丈夫なのですか?」
「もちろん、ダメに決まってるじゃないですか」
「だからこそ、行くんだよ。な、サラシェイス」
「ふふ、やはり分かっていますねユーフェリウスは」
「むぅ、ユーフェ様」
これは分かる人にしか分からないので拗ねられても困る。そんな恨めしそうな目で見られても可愛くしか見えないのでむしろご褒美だ。ユリアの頭を撫でて適当に誤魔化して俺はレティに行動を指示した。
「と、いう訳だ。レティ、情報収集頼むな。魔物部屋に入れば三分の一はお前にやるかさ」
「しょうがないなぁ。約束だよ?」
そんな風に言いながらも役に立てるのを嬉しそうにしているのはバレバレだ。だからこそ、役割を与える甲斐があるというものだ。
「早速、と言いたい所だが入学式が終わってからにしよう。スキル科なんてどうせやることないだろ?」
「そうですね。スキルについての研究を提出するだけで卒業できるようにしてありますから実地で試すとでもいえば問題ないでしょう」
急に袖が引っ張られたのでそちらを向くとカレンがいた。
「ねぇにぃさま」
「どうしたカレン」
「あそこにいる人が睨んでるよ」
カレンが指さす先にはリーバス王国の王子が恨めしそうにこちらを見ていた。俺が鼻で笑ってやると顔を真っ赤にして立ち去っていった。サラシェイスは嫌悪感丸出しの表情をしているので余程嫌いなのだろう。
その点、俺は婚約者に恵まれたものだ。俺のような奴に嫉妬の感情を表してくれる貴重な存在だ。
「愚王子か。何だってあんなのが来てるんだ」
「何でも自分の物だと思っているところに私が拒否をしたからああして口説きに来ているんです」
「災難だな」
「そう思うならどうにかして欲しいものです」
サラシェイスは溜め息を吐いて心労を露わにした。サラシェイスに同情しかできなかった俺だった。




