ギルドマスターと王都エリクシル
「いやぁ耳が痛いよ」
その声が階段の方から聞こえた時、冒険者達が一斉に緊張感を爆発させた。俺はその人物を見やると驚くべき事にエルフであった。初エルフである。まぁそこはぶっちゃけどうでもいいのだが。
「エルフがギルドマスターやってるのか。人の街でプレッシャーとかないのか?」
「いえ、全然。私達エルフと人間の違いなんてそれ程ないしね。それはそうと先程は済まないね。どうにも整理をしたいんだけどできなかったんだよ。スキルシステムとかいうもののお蔭でランク制度が作れる用になったんだけどね」
「へぇそりゃまた誰でも使えるものなのか?」
「まぁ秘密だよ。スキルを使うのは確かだけど、あまり関係しないとだけ行っておこうかな」
「ふーん。特別知りたい訳ではないけどさ」
「そういえば、自己紹介がまだだったかな。僕はマクスウェル・ウェザードだよ。一応魔法使いでもあるんだけどね」
「その割にはここの冒険者は緊張してるけど、何かやったの?」
「盗賊を一撃で屠っただけだよ。五十人程ね」
くくくと笑うギルドマスターのマクスウェルさんは俺の方を興味深そうに見てくる。いわゆる悪い顔をして。老人というより経験者は得てして才能を見る目がある。そういう目が俺を射止めたのかもしれない。
俺の半分ほどの魔力、ユリアより少し上くらいの魔力を持っているマクスウェルさんは化け物だ。そう考えると俺も大概だなと苦笑してしまう。
「お互い喧嘩しないことを願うしかないな。王都が潰れてしまいそうだ」
「おや、やはりそう思う? 僕も流石に王都を廃都にはしたくないね」
「どこの悪役なのですかお二人は」
ユリアの呆れた発言をよそに俺とマクスウェルさんは笑う。ちょっと悪乗りしてみただけだ。周りの冒険者達は青ざめて今にも倒れそうだ。そろそろ可哀想なのでお暇することにしよう。
「それじゃあマクスウェルさん。また会えたらいいね。俺は学園の新しい科に通うからまた来るよ」
「ええ、また来てください。その魔力量、僕よりも多いですからね。一度平原を荒地にしてでも戦ってみたいものです」
戦闘狂というよりは魔法狂いなマクスウェルさんはまたくつくつと笑みを浮かべて俺達を見送った。
そこからは宿を取り、俺達は観光に出ることにした。レティには悪いが案内と露払いをしてもらう事にした。お小遣い増やさないとな。まだ稼いでいないことを思い出して明日から始めようとダメダメな思考をよそにユリアと歩き始めた。
「さて、まずはどこがいいんだ?」
「オススメは屋台だね。少し子供スキルを発動させてただでもらったけど美味しかったよ」
レティ恐るべし。レティは黒髪黒目の珍しい子だ。俺からしたら馴染みがあるがこの世界ではあまりいないらしい。かといって、迫害されたり、嫌われたりしている訳ではない。むしろ、人気なのだ。ユークリウッド英雄物語の主人公ユークリウッドがまさに黒髪黒目なのだ。そのせいもあって黒髪黒目には優しくしろという謎の不文律があったりする。まぁそれを実行するもしないも個人の自由なのでそこまで期待していいものではないがレティはそこに容姿の良さが入ってくる。子供っぽいあどけなさというか放っておけないというような魅力を放つその可愛い顔やまさに子供体系である小ささもあって可愛がられること請け合いだ。
そういうのを自分で分かっていて使うのだから始末に負えない。気付けば餌をやっているような子がレティなのだ。
「じゃあそこに行くか。あまり余裕はないが一本ずつくらいならいけるだろ」
レティに連れられてやってきた屋台で串肉を買う。一本五百コルとなかなか高めだがそれなりに美味かった。いつも質素な食事だったことを考えるとこれでも充分贅沢だ。これからダンジョンで稼いでいけばそんな気付かないもなくなるだろう。魔物部屋万歳である。魔物部屋行く前提であるのが怖いところだが。
「美味しかったですね。また、食べたいです」
「そうだな。ユリアが食べたいときに食べれるように魔石を貰い受けに行こう」
「魔物部屋に魔物を狩りに行くだけだよねそれって」
「間違ってはいないだろう。俺に提供してくれるんだから」
「魔物が不憫に思えてくるから不思議だよね。ユーフェ兄の理不尽は今から始まった話じゃないけど」
「あまり無理してはいけないですよ。ユーフェ様が怪我をするのも私は悲しいですから」
「大丈夫だよ。深く潜る訳じゃないんだからな」
ただちょっと魔術で一網打尽にするだけだからね。レティには呆れた目で見られたがそれが俺の力なのだから仕方ない。金を稼ぐのに遠慮も糞もない。やりすぎると狙われるから控えめにしよう。
屋台のある通りを抜けて商店のある通りに向かう。レティが言うには武器屋、防具屋、鍛冶屋、道具屋などが鎬を削っているらしい。冷やかしに見に行くのも良かったがこういうのは付き合いが大事になるのでまた次回、金が溜まってから行くことにした。
「やっぱり静かな所のほうがいいな」
「ユーフェ様もそう思いますか? 私も何です。たまに美味しいものを食べるくらいがちょうどいい気がします」
「ぼくもそう思うよ。田舎者には田舎者の暮らしが似合うっていうし」
「だな。何でも分相応が一番だ。まぁそのうち慣れるだろうけど、静かな場所がいいのは変わらないかもな」
田舎者には田舎者の過ごし方があって都会に来るとそれらががらりと変わる。それがまた郷里を思い出させて懐かしさを感じてくれる。今頃、カレンはどうしているだろうか。素直で可愛い妹はゴブリンの洞窟以来あまり話さなくなったから少し心配している。まかり間違ってもこんな王都には来ないとは思うが。
「にぃさま!」
「え?」
そんなことを思っているとフラグがたったのか、後ろを振り向くとカレンの姿があった。小さい体で懸命に走っている。飛び出すようにこちらへ向かってきたので抱き留める。
「にぃさま! にぃさま!」
「お、おう。どうしたんだカレン。呼び方まで変わってるし」
「あのね、カレンね。頑張るの」
俺は一瞬訳が分からなかったがカレンの言葉にそうかと答えてから頭を撫でてやった。嬉しそうに笑うカレンを見ていると更に両親の姿も見えてきた。どうしてここにいるのだろうか。俺の疑問を見透かしたのか父様が答えを教えてくれた。
「王様に呼ばれたんだよ。ほら、王女殿下が何か言ったらしくてな。これから王様に謁見に行くんだ」
「私もついでに来ちゃったのよ」
「そうだ。ユーフェ、カレンはここに置いていくからな」
「はい?」
「ユーフェちゃん、ちゃんと見てやってね。カレンちゃんが魔物を倒すの頑張るそうだから」
「にぃさまお願い! カレン、頑張るから」
まぁ何かで悩んでいたのが振り切れたなら俺としても喜ばしいことだ。だが、俺の所にいていいのだろうか。というか、この調子だと面倒を押し付けられるだけな気がしてきた。カレンの将来を考えても結局は俺と同じように冒険者を目指すしかなくなるわけだ。他家に縁がある訳じゃない名誉子爵で良縁を望むのも酷なことであるし、何より両親が本人の望まない結婚は望まない事だろう。そう考えると俺と一緒にいる方が合理的なのかと思う。親心に負けるという奴か。俺は溜息を吐いてから諦めることにした。
「分かったよ。その代わりカレンにはちゃんとやってもらうからな」
「うん! ありがとにぃさま!」
「良かったわ。これでカレンちゃんも安心ね」
カレンも一緒に住むとなると結構手狭になるかもしれない。最悪ベッドを購入する必要がある。一緒に寝るのも恥ずかしい年頃はカレンはまだだがどうしてこうも俺にくっつきたがる子ばかりなのか。ユリアはそれなりの年齢になってから一時離れていた。カレンがお兄ちゃん嫌いなんて言う時が来るのだろうか。きたらかなり落ち込みそうな気がする。
想像するのも楽しいがそろそろ用事があるという王城へ俺も行くことにした。どうせなら家族で行く方がいいだろうし、サラシェイスもそのつもりであろうから。
サラシェイスの思惑になり、王城へと向かう道すがらカレンが水魔法を見せてくれて大変おどろいたりしながら歩くのだった。
迷走中、方向性が決めていないからこうなるんだよなぁ。




