プロローグ
王都エリクシルへと行くために馬車に揺られて一週間。俺だけならばもしかしたら一日も経たずに着けたであろうが今回はユリアとレティも行くので馬車に乗っている。途中の街によって魔石を売ってから保存食を買い締めてから王都までようやくたどり着いた。
揺れ心地最悪の馬車の中を魔力消費の為に人を宙に浮かせる訓練をしながらしていたお蔭で痛みとは数日のうちに無縁の旅になった。馬車はいらないんじゃないかと言われるかもしれないが集中してただ浮かせることしかできていないので必要であるのは確かだ。
お蔭様で魔力量は大分増えた。一日中身体強化をしながらファイアーアローを放ち続けれるレベルだ。それも魔力をどれだけ込めれるかによって変わるのだがともかく簡単にはなくならない程度には多くなったのだ。
「しかし、暇だな」
「こんなに列が並んでるとは思わないよね。ユーフェ兄、水ちょうだい」
「俺は水道じゃないぞレティ」
俺は渋々ながらコップに水を入れてやる。氷入りの冷たい水をレティは美味しそうに一気飲みした。
「ぷはぁ~。ありがとうユーフェ兄」
「まったく、お前には何も文句が言えないよ。計算してやってない辺りが好意的だな」
「ユーフェ様、それではレティが増長してしまいますよ」
「レティはそんな馬鹿じゃないさ。これでももう五年も一緒だからな。何をしてはいけないかは分かってるはずだ」
「それがいけないと私は言っているのですが」
「ユーフェ兄は寛大な人なんだよユリア姉。ぼくも何でもユーフェ兄に頼る程愚かじゃないしね」
レティはそう言って馬車を降りていった。ユリアはどこか不満そうだったが俺が後ろから抱きしめてなだめているうちに機嫌が直った。
「ユーフェ様はずるいです。私がこうされれば何も言えなくなると分かっててやってますよね?」
「まぁそう怒るなよ。レティにとっては俺達は唯一の家族なんだ。気軽に接せない家族なんて家族じゃないだろ? それにやることはちゃんとやる子だ。そのうち国家顔負けの諜報員に育ってくれるさ」
「ユーフェ様もユーフェ様で何をしようとしているんですか。国でも作るんですか?」
「穏やかに暮らすためだよ。情報はいち早く最新の物が無くちゃな」
それから馬車が中へ入る頃にレティは帰ってきた。
美味しい屋台のある場所、主なギルドのある場所、有名な冒険者の名前、この王国の内政状況など様々な情報を手に入れてくれた。予行演習は前に立ち寄った街でできていたのでばっちりだ。そして、何よりも重要なのは試験の内容だ。
「それで試験はどのような感じだ?」
「入る学科によって変わるみたいだよ。普通科なら筆記試験、魔法科なら魔法の試験、騎士科なら剣の試験、スキル科はどうのようなスキルを持っているかで決まるらしいよ」
「スキル科ってのは新しくできた奴か?」
「うん。何でもサラシェイスさんが作ったらしいよ。スキルを研究して人々に広めようとしてるんだって。この科はスキルに関しての研究結果を上げて成績とするらしいんだ」
「……ユリアはともかくレティはどうする? 金は気にしなくていい入りたいなら学園に入ってもいいけど」
「んー、ぼくはやめておくかな。できるならダンジョンに潜りたいけど」
「一人で大丈夫なのですか? 短剣のスキルしか持っていないでしょうに」
「うん、まぁそうなんだけど。有り余る魔力を魔法で使おうと思うんだ」
「それなら俺が一つ教えてやるよ。ショット系魔法だ。面制圧に使えるから便利だろうし」
「ありがとうユーフェ兄。折角、自由になれたからね。ぼくも遊んでみることにするよ」
「危ないことはするなよ。ストーカーは綺麗に撒いてこい。しつこい奴は暗殺だ」
「ユーフェ様、街中で物騒なことを言わないでください!」
過保護だなぁとレティに言葉をもらいながら俺はそのくらいがちょうどいいんだよと心の中で呟いた。
学園に着いた俺達は王女の紹介状を見せて試験を受けることにした。俺が受けるのはスキル科だ。スキルの公開をしなければならなかったがすぐに合格となった。ユリアとレティは俺の従者として登録して一緒の寮に住むことになった。
ステータスを見るのは久々なので驚いたが結構スキルを取っていた。そこで気付いたが持っていなかった時のことを考えていなかった。まぁ取得しているのは分かっていたので問題はなかったはずだが。
以下が俺のステータスだ。
・ユーフェリウス・オイスター
Lv.10
MP21872/21872
SP34 消費ポイント32
〈ユニークスキル一覧〉
〈スキル一覧〉
身体強化10・念話10
槍術6・体術3・魔力自然回復量アップ10・魔力制御9・魔力探知4・剣術3・危機察知4・思考加速2・気配感知7・夜目3・投擲2
〈魔法スキル一覧〉
魔法創造5・時空属性の適性4・混合魔法3
それなりに無茶をやらかしてきたので魔力制御に至ってはレベルが九とかなり高い。上位系に当たるスキルはどうにもレベルが上がりにくいがみたいだ。俺の魔力制御に関しては例外だと思った方が良さそうだ。一度ステータスを見せてから思ったがさすがに取得スキルが多かった。試験管は目を瞬かせて俺のスキルを見ていた。魔法スキルには目がいってなかったので良かったがこれでは俺の力が丸見えだ。隠すことを覚えなければならない。能ある鷹は爪を隠すという訳ではないが馬鹿正直に公開してやる必要もない。魔法スキルはすべて隠すか改竄できればいいがそのうち考えておく事にしよう。
無事、合格が決まった俺達は数日後に寮が決まるので再び学園に来るようにとの言葉をもらい、学園を出た。
「スキルを隠す、ですか?」
「ああ。ユリアも隠蔽と偽装のスキルを取得しておいてくれ。もちろんレティもな」
「了解。これで無垢な子供を装えるね」
「レティの発想がゲスい」
俺も考えない訳ではなかったのでレティの事は言えないのだが。
隠すことができるということは見ることもできるはずだ。その証明に鑑定のスキルがある。俺はまだ取っていないがいずれ取ることになるだろう。これらの対策はばっちりとして実力を隠しておく。いずればれるにせよ、対策を取られない用にするのは当たり前のことだ。その辺のことはサラシェイスに教えておいた方が良いかもしれない。折角の友達をつまらない事で失うのは嫌だからな。
それからどうするかを話し合うことになった。試験は一瞬で終わり、暇ができた。やることがないので数日は宿屋暮らしだ。その間にやることは金稼ぎだ。魔石があるので大丈夫と両親には言ってきたが実はそれほど余裕があるわけではない。この王都は近くの街よりも物価が高く、それなりに稼がないとヤバい状態なのだ。そういう訳で子供ができる仕事といえば冒険者がしかないのでそこに行くことになった。
登録するのはもちろんユリアだ。俺とレティは十歳なのでぎりぎり登録できない。その点ユリアは十四歳なので登録は可能だ。ちなみに登録可能年齢は十二歳からだ。
「という訳でレティ、早速案内頼む」
「うん、分かったよ。ようやく役に立てる時がきたから頑張るよ」
どこか嬉しそうなレティの案内の元、街を歩く。王都だけあり人が多く、屋台もたくさん出ていて辺りに美味しそうな臭いをバラまいている。買い食いをしている人もいて食欲がそそられるが残念ながら金欠なので買いに行く事ができない。おそらくだが自由になるお金が欲しいからダンジョンに行きたいとレティは言ったのだろう。
先ほど冒険者らしき人達もちらほらと見えている。背には剣や弓、などを持っていて装備は古臭い物が多い。それなりにやってきている人がいる証だ。
そして何よりも目立つのだがユリアを狙う不届き者だ。ユリアが魅力的なのは分かるがそうニヤニヤしていると蹴り飛ばしたくなる。俺は魔術を使って男達の方へと繋げる空間を広げてそこから蹴りを放つ。見事に転けてくれた。空間魔術万歳だな。
冒険者ギルドがそろそろ見えてきたのでレティにお願いをする。
「レティ」
「しょうがないなぁ。お小遣い多めにちょうだいね?」
「元よりその積もりだ。自分で稼ごうとしやがって。少しくらい頼れ」
「はーい。じゃあ行ってくるよ」
レティはあっという間に人混み消えていった。男の悲鳴が所々から聞こえてくる。数が多すぎて辟易する。こうして俺達は無事、冒険者ギルドへとたどり着いた。
中に入ると意外と空いていて、あまり冒険者はいなかった。さっさと用事を済まそうと受付へ向かう。
「いらっしゃい。依頼の登録かな?」
俺が真っ先に来たことで勘違いされたようだ。これでも俺は十歳なので仕方ない事なのだがどうにもなれない。
「違うよ。今日はユリアの登録に来たんだ」
「そう。じゃあお嬢さんはここに名前とスキルを書いてね」
ユリアがこちらを見てきたのでスキルは剣術だけにしておけと俺は念話で伝えた。登録の作業は簡単なようですぐに終わった。
「はい。これがギルドカードね。ここに血を垂らして」
「はい」
「これであなたの魔力にしか反応しなくなったから手放さないでね。なくしたら金貨五枚、五千コルで再発行だからね」
ユリアはギルドカードを受け取り、それをポケットにしまった。俺はそれを見ていただけだった。
「冒険者ギルドは何でも屋なの。依頼があればあそこに出るわ。私達はクエストボードって呼んでるの。魔物討伐から雑草抜きまで何でもござれ。有名になったら二つ名が付くようになってるから指名依頼なんかもくるかもね。それと近々ランク制度が導入されるの。これは依頼の達成度と戦闘能力によって決まるからその時になったら試験を受けに来てね」
どうやら傭兵ギルドとさして変わらない状態らしい。雑用から魔物討伐まであるのだから幅広い感じだ。横から説明を聞いている感じだとそんな風な感想を持った。実際にやってみると違った感想がでるかもしれないが。
「それと最後に魔物の魔石なんかも買い取りしてるわ。魔物によっては毛皮や肉なんかもね。それじゃあ頑張って。ああ、あと喧嘩なんかはギルドは介入しないから気を付けてね」
何気に恐ろしい事を言っている。ユリアの場合は何も問題はないがそれでも恐ろしい事には変わりはない。襲われても文句は聞かないと言うのと同じだ。
俺達はギルドを出ようとすると案の定、目の前を塞ぎ込まれた。
「やぁ嬢ちゃん。これから俺が冒険者のレクチャーをして上げるよ。どうだい?」
「ああ、そうするといい。手取り足取り押さえてやるよ」
「馬鹿だろお前。どこまでやるつもりだよ」
ギャハハと汚く笑う三馬鹿とも称せる男達を俺は冷めた目で見つめていた。ユリアなんてもはや路傍の石ころを見るかのような眼差しだ。あれが俺に向けられた時きっと絶望するに違いない。
嫌な想像をしたので頭を振り、切り替える。俺は一歩前に出てにこやかな笑みを浮かべながら言った。
「あはは、おじさん面白いこと言うね。こんな時間に働いてない奴がどうやって教えるんだ? ろくに稼げない癖にさ」
「何だと?」
「小僧、調子に乗ってると痛い目にあうぞ!」
「それってこんな感じかな?」
俺は三人目の男を指さす。そこには気絶して倒れている男の姿があった。残りの二人は驚いて口をパクパクさせている。俺は静かにほくそ笑んだ。これをやったのはレティだ。ますます優秀な隠密になってくれているようで喜ばしいものだ。
俺は笑みを浮かべて話を再会した。
「むーかしむかし、あるところに、呪いの花持ちと呼ばれた人がいました。その人は短時間で人を気絶させ、その後、その人の命を喰らってしまうそうです。ねぇ叔父さん、今、そんな状況だと思うんだけど、どうかな?」
「ひ、ひっ!」
「お、おい! 俺を置いてくな」
男は気絶した男を置いてどこかへと去って行った。俺は振り返ってから受付の人にこう言った。
「あまり放置をしているとギルドが潰れちゃうよ? 乱暴な人が多いギルドだってね」
「いやぁ耳が痛いよ」
二階の階段から声がした。そこからやってきたのは耳が長いのが特徴のエルフであった。




