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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
変革 スキルシステム ダンジョン
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エリクシル学園への誘い

 ダンジョン攻略から一週間。こってりと怒られた俺達はゆっくりと休養を取った。女の人の怒りとは凄まじいまでに凄く、父様から慰められた程だ。その時に昔は俺もああして怒られたと遠い目をしている父様が印象に残っている。

 ゴブリンの洞窟を攻略して手に入れたダンジョンコアの使い道は未だ考えついていない。そもそもあの大きさの魔石をどう扱えばいいのか分からない。国に研究してもらうのが手っ取り早いかもしれない。王女のサラシェイスに頼めば活用法を研究してもらえるかもしれないがそれだと俺がダンジョンを二つも攻略したことがバレてしまう。ゴブリンの洞窟に関しては手遅れだがもう片方は隠しておくことにしよう。そして、国が徴収するなら素直に渡して面倒事を避けよう。うん、それがいい。

 眠気眼を開き、ベッドから起きあがろうとするが妙に重い体に気を取られて目を向けてみるとユリアが覆い被さるように寝ていた。銀色の髪をあちこちに広げて俺の胸の上で可愛い寝息を立てている。頬をつんつんとつついてみると可愛く呻き声をあげる。少し癖になりそうなのでそこでやめて俺は大人しくユリアが起きるのを待つことにした。

 変わりに魔力探知で近くに来ていたレティに声をかける。


「おーいレティ、起きてる?」


「ユーフェ兄、おはよう」


「おう、おはよう。そういやお前どこで寝てるんだ?」


「ミナ母さんの部屋だよ。抱き枕にされてるんだ」


「それは災難だった。俺はユリアの抱き枕だ」


「ユリア姉はユーフェ兄が大好きだからね」


「まぁな。そうだレティ。お前さん奴隷やめてみる?」


「へ?」


「いや、ずっと奴隷のままだったら面倒だろ? 奴隷ってたって首輪付けてるだけだしな」


「ユーフェ兄は相変わらず突拍子もないこと言うよね。というか首輪は取れるものなの?」


「にしし、斬ればいい」


「ユーフェ兄に聞いたぼくがバカだったよ」


「んじゃ、今日から自由民だな。レティ、自分の生き方自分で決めてみろ。それが自由ということだからな」


 奴隷の扱いは俺がレティを買った時点でどのようにしてもいいこととなっている。なので、殺そうが奴隷から解放されようが誰からも文句は言われない。本来ならば奴隷を解放すること自体があり得ないことなので鍵などは渡されることはない。

 俺は魔術で超振動を起こす短剣を発動してレティに渡す。レティは自分で首輪に剣を当ててそれを断ち切った。首輪が音を立てて地面へと落ちる。魔術を解いて短剣を消す。解放された首を触ってどこか呆然としていたレティだったがやがてありがとうと言って笑みを浮かべた。


「そうだね。ぼくはしばらくユーフェ兄に付いていくことにするよ。その方が楽しそうだし」


「そうか。やりたいことを見つけたらちゃんと言えよ」


「うん。分かってるよ。ユーフェ兄は少し過保護過ぎるよ?」


 レティはそう言って俺をからかってくる。過保護なのは当たり前だと俺は言いたかったがそこまで言ってやる義理もないかと口に出すことは無かった。何せ、大切な家族にレティも入っているのだから。少しくらいならば危険を冒すのも吝かではない。

 それから少ししてユリアが起きた。ようやく俺も体を動かすことができる。全身の骨がバキバキと音をたてる。


「うにゅ~、おはようございます」


「おはようさん、ユリア」


「おはよう、ユリア姉」


「さて、今日からそろそろ体を動かそうかね。一週間も休んでたから体が鈍ってしまう」


 また鍛錬の日々が始まる。基礎を疎かにしてはいけない。礎があるからこそその上に重なるものがあるのだから。俺はボロボロの槍の穂先を魔術で生成した鉄でできたものにすげ替えた槍を手にして部屋を出る。廊下ですれ違ったサラミナと挨拶を交わしてから、庭に出た。

 槍を振るうのがここ最近の日課となっていたがそろそろ他のことも手に取った方がいいかもしれない。あまり多くに手を出すと器用貧乏になりかねないので注意が必要だが今の所そこまで無理にこなしているというわけではないので大丈夫だと思う。

 ユリアには魔法剣の練習をしてもらっている。これがあれば剣の刃こぼれを気にしないで戦闘ができる。属性も様々なものがあるので魔物によって取り替えることで弱点を付くことも可能だ。ユリアにはこの魔法剣の詠唱破棄での発動を目指してもらう事にした。即座に展開できないと切り札としか使えないからだ。ユリアとしても長期戦を想定した魔法を修得したいのか懸命に練習を行っている。慣れれば慣れるほど消費魔力も減るので有り難い。どれだけ効率化しても五百は持っていかれるのが難点なのだがそこまでいくと魔力をあげることで剣の威力をあげることが可能なので便利なのだ。

 瞑想なんてスキルを修得できたそうでそれを鍛えていた。このスキルは瞑想状態を維持することで魔力を回復させるというユニークスキルであるらしい。そしてそれを生かすために魔力譲渡のスキルを修得して魔力で補助するという訳だ。折角なのでこのマジックトランスを自力で覚えようと俺の背に手を当てて魔力を送ろうとするのだがなかなかうまくいかない。俺も手までは魔力が集まるのは分かるがそれからがうまくいかないみたいだ。


「うーん。やっぱダメなのかな」


「スキルレベルが足りないんじゃないか? まだ魔力操作の上位スキルの魔力制御を手に入れたらできるかもな」


「ぼくって魔法使わないからなぁ。詠唱すれば誰でも使えるのは分かってるんだけど、あの手間が面倒だからね。ユーフェ兄の魔術が羨ましいよ」


「まぁそうなるよな普通。魔術もさほど魔法と変わらないんだけどな」


 魔術と魔法の違いは術式の展開速度にある。魔法の場合、詠唱が術式の代わりをして発動するのだ。この詠唱するのをできるだけ短縮したのが詠唱破棄という訳だ。そして、魔術はというとイメージを直接術式に変換して発動する。念じれば発動する感じというのはまさにそういうことだ。イメージがそのまま現象となるので神の技と呼ばれるのも納得である。

 何故俺だけが使えるのかは分からないがどうせ魂云々どうたらこうたらとかいう説明があるだけなので気にしない事にしている。何故そう思うのかはテンプレとしか答えようがない。それよりも使えるものは使えるのだから仕方ないと割り切る方が建設的だ。

 俺はレティに諦めろと言って練習を促そうとしたが流石にこのままというのも可哀想なので身体強化を教えることにした。俺は赤ん坊の頃よりやってきたお蔭なのか身体強化のスキルは十レベルと最大になっている。これがスキルになる前からできる魔力を消費する技だ。体に魔力を流して体の動きを強化する。これは俺だけが知っているが部位事に強化することでそれぞれの箇所を強化する事も可能だ。ユリアに聞いてみたがそういう風な使い方をする人はいないらしい。ちなみにユリアもので俺だけができる技ではないことは証明されている。


「レティ、身体強化を教えてやる。体に魔力を流す感じだ。全身の血の巡りに魔力を流すんだ」


「こう?」


 魔力操作のスキルが高いお蔭かレティはすぐに使いこなすことができた。魔力の流し方も自然であるし、この調子で使っていればいずれ魔力制御に手が届く事だろう。


「使ったことがあるのか?」


「無意識に使ってたんじゃないかな? レベルが五もあるよ」


「そうか。じゃあ次は目に魔力を流すイメージだ」


「目に魔力を流す……おお、遠くが見えるよ!」


「できたか。そうやって部位を強化する事もできる。聴覚も強化できるから聞き耳のスキルもレベルがすぐに上がるかもな」


「しばらく退屈せずに済みそうだよユーフェ兄」


「そりゃあ良かった」


 これでしばらくはレティは大丈夫だろう。ユリアはといえば詠唱して発動することはできているみたいだがそこから詠唱を縮めることができないみたいで迷っているようだ。俺は前世でその手のものを読みまくったので想像の材料は豊富だからできるが普通、すぐに詠唱破棄をしろと言われても不可能だ。詠唱の意味が分かるのは作り手だけで実質神しかいないからだ。読めるのに意味が分からないとは不思議だがそうであるらしいので解決のしようがない。だから詠唱破棄をできる人は完全に才能によると言われている。結局はイメージが物を言うのでそういうわけでもないのだが。


「ユリア、どうだ?」


「無理ですね。やはりいきなり詠唱破棄は難しいのではないでしょうか」


「まぁそうだよな。詠唱短縮からやってくか? ユリアは剣は何だと思う」


「剣、ですか。斬るためのものですけど」


 それが何だと言うことを言いたいのだろう。俺も前世で先生に聞かれて何言ってんだと思ったものだが答えを聞いてなる程と思ったものだ。そう、剣というのは……


「剣というのは人を殺すためにできたものだ。そのために刃を尖らせてあるし、斬れるようにしてある。剣っていうのは人を殺すためにとことん突き詰めた究極の武器だ」


「……人を、殺すため」


「俺のいた世界ではもう普及はしていないけどな。けど、人を殺すための武器であるのは変わりないよ。でも、それは使い手によって変わるんだ」


 俺はそこで言葉を切ってユリアを見る。複雑そうな顔をしている。俺がしたあの時のことを思い出しているのだろう。初めて殺しをした日のことを。


「人を守るための剣にもなるし、復讐するための刃にも変わる。人によって剣を持つ理由が変わる。ユリアは何のために剣を持ちたい?」


「私は……」


 俺も対して覚悟を持って槍を手にしている訳ではない。自分を守るために、ユリアを守りたいがために手にしてるだけだ。俺の場合は守るというのが武器を手にする理由だ。


「私はユーフェ様の隣で一緒に生きていきたいです。そのためなら修羅にでもなる覚悟はあります」


「自分の剣の形が決まったな。それはユリアだけが持つ剣だ。それを詠唱にしてみよう」


「はい」


 ユリアは魔力を取り出して目を閉じる。さっきまでより精密な魔力制御で魔力が集まっていく。ユリアが口を開いて詠唱する。


「我が手に覚悟を! マジックソード・ダブル」


 二本の水色の剣が生成されてユリアの手に収まる。俺はユリアが詠唱短縮に成功したのが分かり、笑みを浮かべた。


「できました」


「ああ、通常よりも魔力消費が少ないな。俺の隣はお前だけだ。頑張れよ。努力怠ったら置いてくからな」


「分かっていますよ。もっと精進して一生付いていきますから」


 ユリアは俺に最高の笑みを浮かべてきた。この笑顔のためなら何でもできる。二人の今後の成果に期待しながら自分も努力しなければと思った。


 訓練もそこそこに昼飯を食べる事にした。三歳のカレンはゴブリンの洞窟での光景を見て以来大人しくしている。何か嫌なことでもあったのかと聞いてみたがそうでもないようで俺はどうしたのかと思っていたが何事も相談にこないのであれば大丈夫だろうと放置している。

 そんなカレンや新しい子供産み終わった母様、父様と共にご飯を食べていた時だった。サラミナがリビングへと入ってきて手紙を一つ持ってきて俺の前に置いた。


「これは何? サラミナ」


「王女殿下からの手紙だそうです。読んだなら行動で移すことで返事をして欲しいと」


「それって行くこと前提の話だよな」


 仕方ないとばかりに俺は手紙を破り、その内容を読む。手紙にはこうあった。


『拝啓、ユーフェリウスへ

春も終わり、夏になりかけてきましたね。この王都は人が集まるせいか少し暑くなってきました。

あの時以来、私はあなたとの再開を楽しみにしています。この度は学園へ来ないかとの誘いでこの手紙を書きました。共に学ぶのもいいとは思いませんか? そう思うのであれば是非とも梅雨明けにエリクシル学園の入学試験に来てください。成績が優秀で

あれば同じクラスにしてもらうよう

に言っておきますので楽しみ待っています。また、ダンジョンに行くのも良いかもしれません。

 敬具。サラシェイス・ブルライト・クレハスより』


 どうやら学園で一緒に学ばないかとの誘いのようだがこれは俺というより俺達にとのことだ。それならば、言ってみてもいい気がする。俺はユリアとレティに聞いてみると即答で行くと答えをもらった。


「と、言う訳なので王都の学園へ行こうと思うのですが」


「王女様のお誘いを断るわけにもいかないしな。行ってこい」


「ありがとうございます」


 こうして俺達は梅雨明けにあるという学園の入学試験に行くことになった。

 あれからサラシェイスがどのように変わったのか見るのが楽しみだ。いずれ出会うとは思っていたが年も明けないうちに出会うことになるとは思わなかった。それまでは勉強に勤しまないといけないがそこは大丈夫だろう。何とかなる。……たぶん。



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