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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
変革 スキルシステム ダンジョン
20/62

ゴブリンの洞窟再び

 ユリアの銀色の髪が風に揺れる。空を見上げているユリアの横顔を俺はじっと見つめていた。綺麗だ。そんな言葉しか出てこない自分のボキャブラリーの少なさに辟易とする。宝石のような輝きを放つ銀色の髪、笑うと太陽のような笑みを向けてくれる綺麗な顔、程良く育った果実を思わせる胸、その肢体に至っては流石としか言いようのないプロポーション。まるでモデルのようなそんな印象を与えてくれる。

 そんなユリアは俺の従者で婚約者だ。何度思ったかは分からないけれど、隣にいるだけで勿体ないと感じさせてくれる。平凡な俺にとっては高嶺の花。

 手の届かない花に辿り着いた愚かな人である俺は今をとても充実して暮らしている。身の危険が常にあるこの世界でもこれだけ平和に暮らせるのはいいことだ。だからこそ、己を鍛えるのを止めることはない。いざという時のために。例えばそれは今。


「ぎゃうう!」


 ハウンドドッグと呼ばれる一度人肉を食べれば好んで襲う魔物が横から飛び出してきた。ユリアが一瞥してから俺に視線を寄越すと俺は頷いてから立ち上がった。

 ハウンドドッグは結構な速さでこちらへと迫る。俺は魔力で視覚強化をしながら適切なタイミング、距離を測っていた。後十歩でこちらへと届くという所で俺は魔術を発動した。地面から土でできた槍が突き上がる。ハウンドドッグはそのまま胴体を貫かれて絶命した。

 俺は視覚強化を止めてから肩の力を抜いた。後ろからユリアが俺を抱きしめてきて、耳元で声をかけられる


「お疲れ様です、ユーフェ様」


「たいしたことないさ。あれくらいユリアも倒せただろ?」


「そうですけど、守ってもらうというのもいいものですよ。ユーフェ様だからこそ、ですが」


 ユリアは少し不満そうな顔して頬を膨らませた。俺はそれにごめんと返してからユリアの手を取って歩き始めた。

 俺達がいたのは屋敷から離れてすぐの森の入り口だ。これから俺達はゴブリンだけが出るゴブリンの洞窟へと向かう。レベルを上げるのもそうだが継続してどれだけ戦えるかを確かめるために行くのだ。

 確かに本気で戦えば百や二百は物の数ではない。だが、それは本気を出せばという条件が付いている。俺はダンジョンという油断できない環境下において一定の緊張を保ちながらどれだけの時間戦えるかを知りたいのだ。人の集中力は三十分も続けばいい方だとどこかで聞いたことがある。今回は適度な肩の力の抜き方を学べればと思っている。まぁ弱いから緊張も糞もないのだけれど。

 しばらく歩いていると前から人影が姿を表した。その姿が誰であるかを認めて俺は声をかける。


「レティ、お疲れ。森の様子はどうだった?」


「特に問題はなさそうだったよ。ダンジョンができた影響もなさそう」


「そうか。森から魔物が出てきて貰っても困るからな」


「それよりユーフェ兄、ハウンドドッグがそっちに行ったと思うんだけど、大丈夫だった?」


「今頃腸を貫かれて血抜きをされてるんじゃないか」


「う、また槍を使ったの? ユーフェ兄は槍好きだよね」


「槍は初心者でも手軽に扱えて、尚且つ熟練者が扱うと最強の武器になるからな。俺が勝手にそう思ってるだけだけどな。と、いうより槍が一番イメージがやりやすいんだよ。実際に使ってるしな」


 背中にある槍をトントンと叩き、存在をアピールする。レティは何を言っても無駄だなというような呆れた顔をしてから溜め息を吐いた。何故、分かるかって? 何度もされていれば嫌でも分かるというものだ。

 実際、槍を想像しやすいというのは本当だ。実際に見て、触り、振るっているからこそ繊細に思い描ける。俺はただそれを魔術に応用しただけだ。別段、呆れることでは無いはずなのだがこの世界では異常扱いらしい。

 レティは言ってみただけだよと呟いてから笑った。


「レティもレベル上げるか?」


「うーん。そんなに簡単に上がるものではないと思うんだけど」


「モンスターハウスに籠もれば大丈夫だ。すぐに上がる」


「それができるのはユーフェ兄だけだよ」


「私もそうだと思いますよ」


 あたかも俺が特殊なように語る二人。レティはともかくユリアならできると俺は思うのだが笑っているということはノリに乗ったのだろう。

 こういうやりとりは楽しくていい。何事も笑いながらやる方がいいに決まっている。例え、それが魔物とはいえ、殺生をやるのだとしても。


「冗談を言ってると置いていくぞ」


 俺は身体強化を使い、思いっきり足を踏み込み、駆けた。後ろから聞こえた声を無視して俺は密かに笑みを浮かべながらダンジョンへと向かった。何度振り返ってもいい人生だと笑うことができるのだから。


 ゴブリンの洞窟はゴブリン種しか出ないことを理由にその名が付けられたそうだ。単純と言われればそれまでだがそれしか付けようが無かったと言われれば納得がいく名前だ。

 ゴブリンの洞窟に入って二十分。ゴブリンを五匹程討伐してから不意にユリアが疑問を呈した。


「少し強くなっていませんかゴブリン」


「うーん。ぼくには分からないや。一撃必殺だからさ」


「そう言われても俺も分からん。痛み付ける趣味はないから俺も一撃必殺だし」


「一応私も一撃必殺なのですが」


 そう違和感を感じたというユリアは苦笑してしまった。そういう細かい事はあまり気にしないのでユリアの助言は貴重だ。ユリアが何かを感じたのだというなら何かがあると思っていい。それくらいには俺はユリアを信頼していた。


「まぁ注意して進もうか。もしかしたらモンスターハウスが溢れ返ってるからかもしれないし」


 そんなもしかしたらで放った言葉が現実だと知るのはその後すぐだった。


 溢れ返るゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。緑色の子鬼達は声を上げながら中央にいるゴブリンキングを崇めてその声を聞いていた。俺達は部屋の中を覗いていてその中の光景に声を無くした。今度は百では効かない。三百、いや、五百はいるだろうか。緑で覆い尽くされたモンスターハウスもとい魔物部屋に俺は自分が言葉にしたことが当たったのに溜め息を吐いた。


「マジでか」


「どうやらこれからゴブリン達はダンジョンの外に出るようですね」


「この前より多いね。しばらくゴブリンは見たくないかも」


「どうする? とりあえず一発かますか?」


「ユーフェ様の一撃から各個撃破でいいのでは?」


「ぼくはちまちまやっていくよ」


「よし、じゃあ決まりだな」


 部屋の中を見ながら俺は魔力を体全体に馴染ませていく。半分、は無理でも三分の一は倒しておきたい。数が減れば減るだけ楽になるからだ。体内に巡らせた魔力を放出してイメージを明確化していく。どんどんと形になっていくそれらのイメージを明確にするためのキーワードを定めて呟く。


「ガトリング」


 放出した魔力が小さな弾となり回転しながら宙に量産されていく。一つ一つは小さいが回転が加えられることで威力が増したそれらは脅威だ。ようやく俺の魔力に反応したのかこちらを向いたが既に手遅れだ。


「Go!」


 言葉に合わせて一斉に掃射される。その一つ一つが致命傷になり得るガトリングという名の回転した魔力玉の乱れ打ちがゴブリンの集団を襲う。頭を打たれた者、心臓を打たれた者は絶命し、四肢や胴体を打たれた者は絶叫を上げる。半分近くに当たり内、三割が死に至った。


「いくぞ! ユリア、レティ!」


「はい! エレイン、ウォーターカッター」


『はいはぁい。お任せあれ~』


「疾っ!」


 ユリアがエレインに命じて魔法を放ち、レティはゴブリンを倒すことで答える。それぞれうまくやれていけそうだ。そう確認した俺は背中の槍を手に持ってゴブリンに躍り掛かった。

 ゴブリンの背丈は俺の腰あたり、頭が丁度突きやすい所にあるので一突きしては凪払い、死体となったゴブリンで数の多いゴブリンを牽制していく。ゴブリンキングが必死に命令している中で俺達は次々とゴブリン達を排除していった。突いては払い、突いては払う。同じ動作の繰り返し、故に精度も高く一撃必殺で倒していく。


「レイジボール」


 敢えて詠唱して魔術を放つ。風を閉じ込めた玉がゴブリンに当たり、風が荒れ狂う。吹き飛んでいくゴブリンを一瞥しながら次のゴブリンに突きを入れる。

 そんな作業のようにゴブリンを駆逐していき、残りは少数のゴブリンとゴブリンキングだけとなった。


「ユリア姉はやっぱり強いね。ユーフェ兄より倒してるんじゃない?」


「手数が違いますからね。ユーフェ様が魔術を使えばすぐに全滅していたかもしれません」


「ほれ、最後まで油断するなよ」


 俺達は誰もが余裕を持っている。これだけできれば戦場でも活躍できそうな気もする。戦場には戦場の雰囲気があって勝手が違うとは思うが。

 ゴブリンキングは忌々しいそうにこちらを見ながら配下のゴブリンに命じて襲いかからせる。そのゴブリン達もユリアの双剣とレティの短剣の前には意味をなさなかった。ユリアの左右から繰り出される剣にどちらを迎撃するか考えている間に首を斬られ事切れる。レティが目の前で隠密スキルを使い、姿を見失っている所へ背中から首へ一突きで声も出さずに同じく事切れる。もはや悪夢としか言いようのないそれはゴブリンキングの体を硬直させるのに充分だった。

 その好きを逃すはずもなく、俺はソーラーレイの小型版を生成、ゴブリンキングへと放った。呆気なく飲み込まれたゴブリンキングは魔石すら残すことなく、塵となって消えた。


「あ、ユーフェ兄。魔石のこと忘れてたでしょ」


「悪い、忘れてたわ」


「終わりましたね。ありがとうエレイン」


『どういたしまして。それにしてもユーフェリウスって凄いわね。ほとんど槍だけで倒すなんて』


「言っておくが本業は魔術師だからな」


 もはやどちらでも通用するレベルで扱えるのでどちらでもいいのだがあくまでも俺は魔術師のつもりなのだ。槍は牽制てして今後は使っていくつもりだ。……魔術槍士にならないとは言えない。確信できない所が既にアウトなのだが。

 いずれはスタイルを決めていく事になるだろう。今はともかく、外に出れば魔術は誤魔化しが利かなくなる。その時、槍を使っていけばいいカモフラージュになるかもしれない。


「まぁとりあえずはお疲れ様。少し休憩してから二階層への階段を探そうか」


 それから少し休憩してから二階層の階段を見つけるべく、行動を開始した。二階層の階段はあっさり見つかる事となった。魔物部屋の更に先に行くと見つかったのだ。

 二階層へと行く階段を降りながら次はどんなゴブリンが出てくるのか考えていた。


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