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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
幼少期編
2/62

ユリアとの出会い

露骨すぎる赤ちゃん。

 それから一年が経った。仲睦まじい夫婦に囲まれ、俺はすくすくと育っていた。未だ動かせない体に飽き飽きしながらも魔力を確実に増やしていった。いつか使う日のためを夢みて俺は期待感を募らせていく。

 両親の会話や侍女の会話を聞いていたお蔭で言葉を理解するに至った。これは本当に助かった。赤子の頭は理解が早いようだ。ようやく言葉が分かるようになり、会話から情報が取れるようになったのだ。今まではベッドの上からの視界のみの情報だったがこれからは聴覚の情報も取れるようになったのだ。体を動かせないので暇だったのもあるがやはり言葉が分かると安心するというものだ。頭が良ければもっと早く習得できただろうか。なんてことも考えたことはあるが目の前に母親が来たので考えるのをやめた。


「ルーフェちゃん」


「あい!」


 ミナルディー・オイスターというのが母の名前らしい。最近は俺の名前を読んで返事をさせるのを気に入っている。とてもにこにこ笑うのだが一度返事しなかった時はとても悲しそうにしていたのでそれ以来、返事を必ずするようにしている。何だかんだでこの母親を気に入っているのだ。


「ミナ、魔術師協会から手紙だ」


 そこへ父親が来た。金髪の髪は謎に綺麗で男のなのに綺麗という意味不明な存在だ。

 カナルディア・オイスター。父親である彼はオイスター領の領主をしているらしい。この父親も俺の頬を触るのが癖になっているらしく、時々触っている。柔らかいからなのか、はたまた子供を感じ取れるからなのかは分からない。が、嫌いではないのでそのままにしている。


「あら、もう返ってきたの。ルーフェちゃんの魔力を調べさせるための道具を頼んだんだけど」


「どうにも向こうに来いとのことらしい。まぁまだ早いし、三年後の話だ。それに私とミナの子供だ。きっとすごいに決まっている」


「そうね。私には感じ取れないけど、きっとそうね。あーあ、なぜ身内だと魔力を感じ取れないのかしら」


 と、魔力や魔術師等の言葉を話している両親。一喜一憂したりと子煩悩一歩手前のようだ。

 そんなことより今、魔力という言葉が出た。これはこの世界に確実に魔力があるということだ。俺が動かしている物も魔力であると決定付けるには充分な言葉だ。

 あれから鍛え続けた魔力もかなりの量になっている。今では体内で動かすだけで消費するのは中々難しくなってきている程だ。

 これで自衛の手段に魔力が使えることが分かったのでこれからも更に精進していくつもりだ。両親の声を聞きながらその日はそのまま眠りについた。


 それから数日後、俺の部屋に小さい女の子を連れて侍女のサラミナがやってきた。俺の世話係りをしているサラミナは元々母であるミナルディーの世話係りだった人らしく、ミナルディーと時折仲良く話をしてるのを見かけることがあった。

 そんなサラミナは俺に話しかける、訳はなく小さな女の子に言い聞かせるように口を開いた。


「ユリア、この方がユーフェリウス様よ。今日からあなたがこの方の世話をするのですよ」


「は、初めまして。ユリアでしゅ!」


 かんだ、かんじゃった。そんなかみかみな言葉に俺は思わず内心で笑ってしまった。体であいあいと笑いを示して受け入れるのも忘れない。

 小さな女の子、ユリアは顔を真っ赤にして俺の近くに来て頬を触る。銀色の髪をサイドで括り、ツインテールにしているユリアはとても可愛い少女だ。その小さな手が俺の頬へと触れられる。その手は暖かく、生まれたであろう時に感じた暖かさと同じものだ。


(ロリコンに目覚めてもおかしくないレベルだな。割とその気はあるのかもしれないな俺)


 と、まぁそんなことはさておき、きゃいきゃいと喜んでやるとユリアは嬉しそうに笑った。


「まぁユーフェリウス様もお気に召されたのかしら。ともかく、今日からあなたがお世話して差し上げるのよ。分かった?」


「はい、分かりました。よろしくお願いします。ユーフェリウス様」


「あいあい!」


 俺はよろしくと言わんばかりに返事をした。勿論、そんな訳がないと分かっているサラミナはともかく、ユリアは少し驚いたような顔をしてから笑みを浮かべた。


 それからユリアが世話係りになり、毎日俺の部屋に来るようになった。当たり前といや当たり前なのだが美少女が俺の部屋に来るというのはなかなか面白いものがある。今では俺のおむつを変えたり、玩具で気を引いたり楽しそうに仕事をしている。流石に母乳は出ないのでそこは母さんが来て母乳をくれている。辱めのオンパレードな赤ちゃん時代に辟易しながらも俺は毎日を過ごす。そして今更ながら俺の家は貴族なのだなとふと、思った。一代限りの名誉貴族であるらしいのだが。爵位は子爵らしい。


「ユーフェリウス様、お加減は如何ですか?」


「あい!」


 そして、今、俺は風呂に入っている。と、言っても木桶にぬるま湯を入れて体を洗われているだけだ。小さな手で体を洗ってくれているが申し訳なさが半端ない。自分でできるのになと思いながらも体が動かせないから仕方ないと諦めるしかないと思わず落ち込んでしまった。


「あい……」


「え! ダメでしたか? 申し訳ございません」


「あいあい!」


「ふふ、そうですか。赤ちゃんは意思表示しないはずなのに何故か返事している風に見えるんですよね」


 ちょっとやりすぎた感はあるがこれが俺の売りなのでやめる気はない。ユリアの小さい手があそこへと及んでいく。拷問、もとい体洗いが着々と進んでいく中、俺は魔力を動かしていた。そろそろ動かすだけだと魔力を消費するには限界が来ていたのだ。どうにかして魔法、あるいは魔術を使えるようになりたい所だ。魔力消費量が今より多くて継続して使えるような物がいいかなと考えるがそんなに都合のいい物はないかとも思えてくる。

 そんな中でふと念話なんてどうだろうと思いついた。意思が伝えられたら情報も集まりやすくなる。魔力も消費できる。一石二鳥の方法だ。


「それでは体を拭きますね」


「あい」


「ふ、ふふん、ふ、ふふん、ふふ、ふんふん~♪」


 ユリアの鼻歌を聞きながらベッドに言ったら試してみようと思うのだった。


 ユリアにベッドへと運ばれる。ユリアは小さな女の子だが俺一人を軽々と持ち上げる。最初は苦労していたが何かコツでも掴んだのかそれ以降はしっかりと持っていた。

 上機嫌なユリアを前に俺は早速念話ができないか試してみる事にした。魔力を頭の方に集めながら心の中で声を出してみる。


(こほん、もしもし聞こえる?)


「え? 今のは声……」


 ユリアが辺りを見渡す。どうやら成功したようだ。魔力消費量も今までの倍はあるのでこれでしばらく持つことだろう。俺は念話の成功にテンションが鰻登りになった。こんなに簡単に使えていいものかととも思ったがそんな悩みは今はいらないと念話で引き続き話すことにした。


(あー僕はヘークン。よろしくね小さな女の子)


「え、え? ヘークン? 私はユリア」


(じゃあユリア、声だけだけどごめんね。今は姿を見せられないんだ)


「は、はい……そ、それでヘークンさんはどうして私に声が届くのですか?」


(僕はユーフェリウスを守っているんだ。ユーフェリウスのために色々しようと声を掛けたのさ)


「そ、そうですか。流石はユーフェリウス様ですね」


(これからよろしくねユリア)


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして俺は念話を使い、ユリアと会話をする事になった。これで更に詳しく情報が手に入るし、ユリアにも魔力の訓練をさせることもできる。これから先、俺に着いてくるのであれば危ないこともあるかもしれない。その時のために自衛の手段は多い方がいい。勿論、俺が強ければ問題はないのだが。その前によそへ嫁いでいくという問題が起こりそうだ。

 念話を覚えた俺はユリアにお休みを言ってから眠りについた。


※※※※


 それから半年が経った。念話でヘークンとしてユリアと会話し、この領のこと、父や母のこと、ユリアの両親のことなど色々聞いた。

 父親のカナルディアはこの村の領主をしている。貴族のやっかみで与えられたこの土地をうまく立て直し、今では畑もうまくいき、薪を売って領の財政も安定しているそうだ。毎日、苦心しているらしく、時々俺の部屋にやってくるのは癒やしを求めてのことだろう。

 母親であるミナルディーはこの村周辺に出る魔物を時々狩りに行っているという。火の魔術を使い、無難に退治する様をみて憧れる人もいるようだ。最近ではユリアを見て私も娘が欲しいわ、なんて呟いているのを聞いた。その翌日、妙にてかてかした母とやつれた父を見たがそういうことだったのだろう。父様、お疲れさまです。

 そして、ユリアの両親、父親であるハスター。彼はカナルディアの領政補佐をしているそうだ。趣味で庭を弄っているので庭師要らずとかユリアは悲しいことを言っていた。ユリアの年頃だと親に構って欲しい年頃なはずなのだが時折、俺の部屋を覗き見るハスターを見て、俺は謎の優越感を感じている。いや、ハスターさん可哀想。本当は娘に構って欲しいのだろうと思う。今度機会があれば進言してみよう。

 ユリアの母親であるサラミナは領館であるこの家全体の掃除などをしているそうだ。この家のお金も預かっており、かなりの権限を持ってるらしく、サラミナには逆らえないと冗談っぽく母であるミナルディーが言っているのを聞いたことがある。そんなサラミナだがどこかで聞いたように息子が欲しいと言い始めていつぞや見た光景を再び見ることになった。おいたわしや、ハスター殿。お励み、ご苦労様ですとでも言ってやりたい。

 そんな話をしていて気付いたが実はユリア、頭がいいのだ。気付いたことをスポンジのように吸収して自分の物にしており、物覚えがいいのだ。俺はその点を見つめて、ユリアに魔力の修練を教えてみた。感覚的な教え方だったがユリアはすぐに魔力を感じ取れるようになり、それからはずっと同じ事を繰り返すように言ってある。俺以上に化ける可能性があるので、ユリアのこれからが楽しみだ。

 しばらくしてから、それなりに魔力が増えてきたユリアに身体強化や感覚の強化、つまり聴覚や視覚の強化を教えてやるとこれまたすぐにできるようになった。これほどの才能を俺の世話係に潰すなどもったいないなぁと思いながらもユリアは着実に育っていったのだった。

 勿論、これらのことができるのは内緒にして欲しいとお願いしている。俺が大きくなるまでの間に連れ去られても困るし、遠くに行かれて守れないなんてことがないようにとの配慮でもある。いつかその手で守れるようになり、また自分でも守れる力を手にしてから羽ばたいて欲しい。俺はそう思いながらユリアを見ていた。

 そうしているうちに半年が経ったのだった。


「ユーフェリウス様、おはようございます」


「あい!」


 今日も元気に挨拶を交わした。いつもの日常が始まる。


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