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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
変革 スキルシステム ダンジョン
19/62

水の大精霊エレイン

 ユリアが隣に並んで歩いている。たったそれだけのことが俺は嬉しいと思った。

 本来であればもうここにはいないはずだった。貴族の妻としてこの領を出て、嫁ぐ予定であったのだ。それを俺が横槍を入れて、伯爵を殺害し、阻止した。俺が自らの手で、己の欲のために殺したのだ。

 だが、そんな俺をユリアは受け入れてくれた。自分もいずれ盗賊であれ人を殺すのだから代わりはないと。あの時はどこまで本気だったのかは分からないが今では本当に俺と一緒になることを望んでいるのだと理解している。それは本当に有り難いことだ。この世界で独りぼっちな俺の心を埋めてくれるただ一人の存在になった。

 今までのことを思い返していると不意に視線を感じたのでユリアの方を見てみると恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。何かあったのだろうかと俺は思い出してみても何もない。何もないからと言って何もしなくていいなんて事もないかと思い、実行に移すことにした。

 銀色の髪はサラサラとしていてとても綺麗で触り心地はとてもいい。その髪をさらりと触ってから頬に手を当てるとユリアは益々顔が赤くした。当時は五歳であったが今は十四歳の成人一歩手前、本当に大人になったことを実感させてくれる。街に行けば十中八九声掛けられるレベルだと言えば分かるだろうか。

 そんな花も恥じらう乙女となったユリアは緊張しているのか肩を振るわせていた。

 

「恥ずかしいか」


「はい、とても。ですが……こういうのもいいですね」


「そうか」


「はい!」


 その笑みは俺を虜にするには充分で、自分だけのアルバムに仕舞っておきたい程、魅力的だ。

 もう、いいだろう。そう思って俺は迷うなくユリアの唇を塞いだ。俺も十になり、平凡なりに男を磨いてきたつもりだ。ユリアに釣り合う為に頑張ってきたが如何せん容姿ばかりは変更できない。だから、強さを磨いた。そうすればユリアを守る騎士であれる。隣に立てる資格が得られると思った。まぁユリアはそんなことを求めはしないと分かってはいたが俺のちっぽけなプライドのようなものだ。ユリアは例え俺が弱くても好きになってくれる。だが俺は納得できなかった。だから、槍を手に取った。

 ユリアとすることが何事も新鮮で楽しくてたまらない。楽しく過ごすために力を手にした。何者にも邪魔をされないために。そんな狂おしい程の愛おしいという気持ちを唇に乗せてずっと口付けをする。この時が永遠に続けばいいのに、なんて下手なセリフを言いたくなるほどの幸せな時間だ。身を委ねるようにして目を閉じたユリアからようやく離れた。ユリアの顔は相変わらず赤く染まっていた。恥じらう姿も絵になる美人だ。


「ユーフェ様はもう少しお体を労ってください。私が心配で倒れてしまいますよ」


「それは困るな。俺が泣いてしまう」


「ふふ、じゃあ無理はしないでくださいね」


 俺の左腕を取って抱きついてくるユリアの頭を撫でる。ユリアの手前、たぶん叶わないよとは言えなかった。俺が無理をするのはユリアの為であり、ユリアを守るためなのだ。守ると誓った相手に諭された程度でやめるようじゃ覚悟がしれている。俺は絶対に後悔しないために強くなる。

 だから、頭を撫でることで誤魔化した。きっとユリアのことだから許してくるはずだ。その分一緒にいる時間は長くとろうと思う。それが償いにでもなればいいなと願いながら。


「湖に戻りましょうユーフェ様。エレインが待っていますよ」


「そうだな。……なぁユリア。お前は後悔してないか?」


 何に、とは言わない。ユリアなら分かっているはずだから。俺は少し不安になっていたのかもしれない。ユリアのために起こしたとはいえ、己の欲も混じった行動をした結果、伯爵を殺害したのだ。嫌われても仕方がないと俺は思っている。いや、嫌われたくないのだ。もう、こんなにも深く好きになったのだから。


「大丈夫ですよ。私が決めた道です。後悔はありません。今はこんなにも幸せですし、これからユーフェ様が幸せにしてくれるのでしょう? なら、何も問題はないですよね?」


 と、いっぱい食わされた気分になった。女の子はやはり強い。その意味が分かった瞬間だった。俺はその言葉に安堵し、そして感謝した。心の不安はどこかへと消し飛んだ。それだけユリアの言葉は俺の中で大きなものである証拠だ。

 この幸せを逃さないためにも精進しなければと俺は隣にいるユリアを見ながら思った。


 湖に着くと早速エレインが出迎えてくれた。禍々しい魔力の元も断ち切ったので精霊達も安心したことだろう。エレインも心なしか嬉しそうに見える。俺とユリアは並んでエレインと話を始めた。


『お疲れ様、すごい魔力を感じたけど、あれってユーフェリウスがやったの?』


「ああ、ちょっと感情的になってしまってな。つい魔力を注ぎすぎた」


 てへっ。そんな効果音が聞こえるような感じにウインクするとエレインはどこか呆れるような表情で俺を見ていた。


『あなた分かってるの? 私でもあんな量の魔力ここ数百年使ったことはないわ。本当に規格外ね、ユーフェリウス』


「あはは、そりゃどうも。意外とやればできるもんだな。何個か新しい魔法できたし、結果オーライだな」


「ユーフェ様はどこかに自重を忘れている方ですからね。百のゴブリンの群れに突っ込んでいける勇敢な方ですから」


『うーん、ユーフェリウス=常識外れって覚えておくわ』


「本人を前に何言ってんだよ二人とも」


 俺は触った弾ける小さめの風の玉を魔術で作り上げて二人に投げ飛ばす。すっかりコントロールが慣れたそれらは二人のおでこに当たっていい感じに痛みを与えてくれたようだ。


『いたっ、酷いよユーフェリウス』


「ふざけるから悪い。そら、早く約束を果たしてくれよ」


『はーい。じゃあ私と契約しましょうかユリア』


「え、エレインさんとですか?」


 ユリアが驚いて声を上げた。もちろん、俺も驚いている。まさか、湖の主であるエレインが契約を言い出すとは思わなかった。それは湖がまずいのではないかと聞いてみたがそうでもないらしい。

 湖の主、というのもエレインが一番長く生きているからそうなっているだけでエレインが抜けても大丈夫だそうだ。

 ユリアがどこか申し訳無さそうな顔をして湖を見ていたがエレインの言葉が本当にどうか怪しくなってきた。


「まぁそれでいいか。良かったな。これで水に関してはエレインに任せれる」


「魔力を渡すだけでいいらしいですからね。ダンジョンの攻略もはかどりそうですね」


『それじゃあ始めるわよ。ユリアは右手を出してみて』


 ユリアはエレインに言われたように右手をその上に重なるように左手をおいたエレインがしばらく目を閉じてから目を開いて詠唱を始めた。


『我、水に連なりし精霊の長、エレインなり。神の定めに従いて、今ここに契約者を得ん。其が名はユリア。我が行いを許し、ここに契約を納めよ コントラクト・コンタクト』


 エレインが詠唱を終えるとユリアとエレインの双方の手から魔力が流れていくのが分かった。しばらくそうしていると無事に終わったのか二人は手を離した。


『成功ね。ユリアの魔力なら問題無いとは思ってたけど』


「なんだ、条件があったのかエレイン」


『一定以上の魔力の持ち主としか契約できないし、わざわざ詠唱しないといけないのよ。だから、私達は面倒を嫌ってあまり契約しないの』


 そこでエレインは言葉をきり、改めて俺達を見る。その行為に何か意味があるのかは知らないが何をするのだろうか。


『さて、改めて自己紹介するわ。私の名前はエレイン。この湖の主であり、水の大精霊よ。よろしくねユリア、ユーフェリウス』


「「水の大精霊!!!」」


 詠唱を聞いていたから何となくそんな感じはしていたが実際に聞いてみると驚くものだ。大精霊は精霊の頂点であり、精霊をまとめる長だ。それぞれの精霊は皆、大精霊の命令には従う。大精霊が機嫌を損ねるだけで大災害が起こると言われている程、すごい力を持っていると言われている。実際に滅びた例はないが精霊を畏怖や信仰の対象とし崇められている。精霊教ができたのがその証拠で今では当たり前に普及している。ちなみに俺は無神論者だ。咄嗟の神頼みはするが主に信仰している神はいない。

 それ程の影響力を持った精霊がエレインなのだ。驚くなという方が無理である。


「まぁだから、何だと言った感じなんだが」


「私もユーフェ様と出会っていなれば心臓が止まっていたかもしれません」


『むぅ、面白くないなぁ。ユーフェリウスがそれだけ規格外ということか』


「もう反論する気も起きないよ」


 俺が規格外なのは自分が一番理解している。前世では平凡だった俺がこんなある意味、強大な力を手にしたのは普通におかしい。とはいえ、おかしいからといって目を逸らしても自分の益にはならないので仕方なく、利用しているだけだ。狐に話を聞いて以来、自重するようにしているがそれでも人がいなければやりたい放題しているのだから、もはや手遅れな気もしないでもないが。

 ともかく、魔術は便利で強力だ。詠唱いらずの魔術は世の魔法使いからすると垂涎の的だ。何せ詠唱がいらないのだから。魔術師が魔法使いと呼ばれるようになった最近では魔術は無詠唱が使えるものが至る極地だとかいう説が唱えられているらしい。そんな中に魔術を使う俺が入っていけば研究材料にされるのは目に見えている。だからこそ、こうしてわざわざ詠唱したりして隠して使っている訳なのだが。


「魔術師にとっては生き辛い世の中になったもんだよな」


「ユーフェ様しかいませんけどね」


『まぁこれからは精霊使いもちょくちょく出てくると思うけどね。何たって魔術師もどきになれるんだからね。でも、精霊と契約できるのは普通の場合、魔力が気に入ったものか、精霊側の好奇心のみだから大丈夫だと思うよ』


 大精霊であるエレインが言うのならば間違いないだろう。一応、ハスターに精霊使いの有用性について話しておいた方がいいかもしれない。いきなり人がたくさん訪れて宿がありませんじゃオイスター領が無法地帯に早変わりになるかもしれない。何もない所だが生まれ故郷がそうなるのは嫌だから対策は打たせてもらうとしよう。


『ユリア、呼んだら出てくるけど、普段はここにいるからよろしく頼むわね』


 「はい、エレインさんよろしくお願いします」


『エレインでいいわよ。せっかく契約したんだから仲良くやりましょう』


「はい、エレイン。こちらこそ」


「よし、帰るか」


 ユリアが俺の言葉に返事を返してくれた。俺とユリアは並んで屋敷へと帰るのだった。


 こうしてユリアと精霊の契約が無事終わったのだった。当初は契約する予定ではなかったのだがそれなりにいい暇つぶしにはなったのではないだろうか。伯爵のリッチグラッジ、大精霊のエレイン。決別と出会い。前者は俺だけの中に納めておくとして、後者もまた誰にも彼にも話していい内容ではない。

 また、秘密が増えたなと俺は少しげんなりして、溜め息を吐いた。


   

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