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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
変革 スキルシステム ダンジョン
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夜明けのディストラバンス

 ダンジョンから無事に出た俺達は軽く叱責を受けた。仮にも王女をダンジョンに連れて行くなんてどういうことだと。それならあんた達がちゃんと見ておけばいいと言おうかとも思ったが話が逸れるのでやめておいた。

 騎士というのは厄介なもので忠誠心を国や貴族に帰属するがプライドがやけに高い。それは自身が騎士であるという誉れがあるからこそでそれ以外は何もないはずなのだがどうもここの騎士は違うらしい。

 俺は騎士の説教話を聞き流しながら終わるのを待った。


「すみません、ユーフェリウス。私が勝手に出てきたばっかりに」


「いや、いいさ。プライドだけが取り柄の役立たずなんざに説教されても怖くはないさ。ただ面倒なだけだ」


「ユーフェ様、こんな所で言ってはまた何か言われますよ」


「そん時は返り討ちにしてやる」


「ふふ、ユーフェリウスは発想が自由ですね」


「常識がないからな。常識があったらこんな事言わねえよ」


 この世界の常識がありませんなんて言えない。もはや手遅れなので常識に関してはユリアかレティに一任する事にしている。


「さて、今日はありがとうございました。お蔭で面白い体験ができました」


「あんだけの魔物に襲われる経験はそう無いだろうな」


「はい。いずれは私もあんな風に敵を倒してみたいものです」


「サラシェイスならできるんじゃないか。後衛の魔法使いは募集してるからいつでも来ていいぜ」


「そうですね。機会があればお願いします」


 サラシェイスはそう言って天幕の方へ去っていった。

 既に夕方になっていたので俺達も帰ることにした。


「帰るぞ、ユリア、レティ」


「はい」


「ユーフェ兄、カレンが重い」


 こうしてゴブリンの洞窟の一階層の探索を終えた。行ったのはモンスターハウスだけだったがなかなか刺激的な体験ができた。素材を回収できたなかったのは残念だったがいずれ収納系のスキルを取らなければならない。今後の課題が見えた探索であった。


 カレンが寝てしまったのでそのままベッドに寝かせてから俺は魔力を体内で循環させる作業を開始した。魔力を動かすことで消費し、回復させる事で魔力の器を増やすこの作業は気がついてから行っている作業だ。ユリアもやるように言っているし、最近ではレティにも教え込み、カレンにもやらせている。地味な作業だがやればやるだけ増える。

 俺はこの作業だけで三千ちょいの魔力を増やすことに成功した。それだけあれば充分一日中使うことができるので重宝している。最も俺の場合使う箇所が少ないので宝の持ち腐れになっている。


「ユーフェ様、大丈夫ですか?」


「ユリアか。大丈夫だ」


「帰ってきたばかりなのですから無理してはダメですよ。横になってください」


「そうするよ」


 ユリアはゴブリンキングとの戦いを見てから過剰に心配するようになった。やはり、あの戦いは危険過ぎただろうか。ばれたくない一心で魔術を使わなかった風に見せたが使った方が危なげない戦いができたはずだ。だが、あの場の経験は無駄にはならなかった。課題点を見つけることができたのは大きいし、何より自信がついた。

 ユリアに膝枕されながら目を瞑り、ゆっくり思考を巡らす。結局この世界でやることは少なく、ある意味戦いが異世界の魂を持つ俺にとって娯楽になってしまっているのだ。刺激的で何より熱くなれるスポーツのように。これは危ない兆候でもある。小説に出てくる少年達は現実をゲームと違えて死んでいくのを知っている。それは俺の生きる現実においても変わらない。死ぬということはユリアを残していくことになる。

 そこまで考えて俺はユリアに多大な心労を与えていた事に気付いた。自分の勝手ばかりしているとこういうことになるから困ったものだ。目を開けるとユリアは微笑んでいるのが見えた。世界で最も安らぐ場所を与えてくれる人は悟ったような顔をして俺に話しかける。


「分かってもらえましたか?」


「うん、悪いな。ユリアだけ残していくのは俺も嫌だ」


「ユーフェ様は強いですが一人だけではいつか限界が来ます。私も頑張りますからもう少し頼ってくださいね」


「そうだったな。そのためにレティを育てたんだった」


「呼んだ? ユーフェ兄」


「いや、それよりお前だいぶ感知しにくくなってきたけど、何か取得したのか?」


「うん。魔力隠蔽を取得したんだ。これでユーフェ兄を覗き放題だね」


「レティ、そんなことをしていいのは私だけですよ」


「それはそれでユーフェ兄が困ると思うけど」


「はは、確かにな。次からもう少し頼らせてもらうよ」


「はい。ユーフェ様がそう言うのなら」


 慢心は油断を生み、過信は命を奪う。俺は一人で生きていけるほど強くはないし、何よりユリアが俺の世話をしてくれたことがそれを証明している。支えてくれる仲間に出会えたのは何よりの幸せかもしれない。


「じゃあユリアは次からは双剣を使うことにしよう。魔法剣も練習しといてくれ。レティはそのまま暗殺者に特化した感じでいこう。斥候及び、諜報を専門にしてくれ」


「せっかくスキルを持っていますからね。分かりました」


「ぼくは暗殺者か。何だかそのうち人も殺りそうだね」


「レティ次第だな。覚悟があるならやってもいいが殺人狂になられても困る」


「はは、ぼくはそんなのにならないさ」


「そろそろ夕御飯の時間ですね。行きましょうか」


 俺の課題は魔術をどのようにして人前で使えるようにするかだ。こればかりは急題であり、早急に解決しなければならないことだ。今後の課題なのでゆっくりと考えていくことしよう。俺はまだ成人もしていない十歳児なのだから。……いずれは堂々と使っていそうな未来しか見えないのが見えているので深く考えるだけ無駄かもしれないが。


 日が跨ぎ、夜明け頃。俺は揺さぶられる感覚と共に目を開けた。のそりと起きあがると小さな声が聞こえた。どうやらレティのようだ。何のようかと考えてから俺が頼んだ件だと思い出した。


「それでどうなった?」


「騎士が王女様を襲ったよ。野営地は大混乱だね。抜け出すのに一苦労だった」


「そうか。……父様に知らせよう。面白いことになりそうだ」


 悪い顔をしている自覚を持ちながらこれから貴族が行くことによると影響を考えて俺はほくそ笑んだ。知己の父親と知ればサラシェイスは招き入れるはず。そこで堂々と名乗り出れば王家に恩を売れる。あわよくば、収入アップを狙おうとする作戦なのだ。

 そんな下心はさておき、サラシェイスの方が心配だ。男に襲われるのは案外怖いと聞く。そんな殊勝な心を持っているとは思わないが万が一でも心に傷を負っている可能性があるのであれば早く向かわねば、ユリアがいればどうにかなると思う。俺が力になれるかは不明だが。

 俺は急いで着替えを済ませ、野営地に向かう準備をした。


 父様は話を聞いてすぐに外に出た。俺はその後を追いかける。野営地は森の先のゴブリンの洞窟前にある。もう少し後ろで作っても良かったと俺は思うのだがダンジョンから魔物が溢れ出てくる可能性を一瞬でも思い浮かべなかったのだろうか。俺には関係ないことなのでどうでもいいことだが言っても仕方ないことだ。どうせ聞きはしないのだから。

 どこからからか聞きつけたのかいつの間にかユリアが後ろにいるのを確認し、俺は森の中へとはいり、野営地に向かう。


「ユーフェ様、王女様が襲われたと聞きましたが」


「レティには監視の任務を与えていたんだが案の定当たってしまったな。あの王女のことだからあまり心配はしてないけど、もしもの場合もあるからな」


「ユーフェ様は女心が分かってるのか分かってないのかよく分からない方ですね」


「俺は知っているだけで経験はないからな。そこはどうしてもちぐはぐになるんだよ。ユリアが経験させてくれれば問題ない」


「……そういう所がズルいんですよ」


 野営地が見えてきたので会話を打ち切る。どうやら既に父様は野営地に入っているようで話し合いをしている様子が聞こえてくる。


「カナルディア卿、どうしてここに」


「騒がしいから来てみたんだが、これはどういった騒ぎで?」


「は、はい。騎士の一人が姫様を襲ったのです。我らも突然仲間からそのような輩が出たのでパニックになっています」


「なるほど。所で王女殿下はどうなっている?」


「それが天幕から出てこないのです。勝手に入るわけにもいかず、こうして立ち往生している次第で」


「それは侍女であってもむりだと?」


「はい。誰も入れるなと言った後、何も返事がない状態です」


「困ったものだな……」


 ようやく父様のいる場所にたどり着き、俺は少し頭を悩ませてからユリアを見る。ユリアが頷いたので俺は父様に話しかける。


「父様、ここはユリアに任せてみましょう。同じ年代の女であれば少しくらいは心を開いてくれるはずです」


「……ユーフェの言うことも一理ある、か。騎士殿、如何かな?」


「試してみるしかないでしょう。我々もどうしようもないですから」


「では、ユリア頼んだぞ」


「お任せください」


 ユリアは天幕の方へと向かいうのを見送る。俺はもはや反応が消えかかっているレティを後ろに感じながら魔力感知を全力でレティに向けてスキルのレベル上げを計る。

 父様も頭を抱えてから俺の方を見てくるのでどうしたのかと視線で問えばこんな言葉を繰り出してきた。


「ユーフェ、お前は分かってたんじゃないのか?」


「そうですね。こうなるとまでは思いませんでしたが何かが起こるとは思ってました」


「やはりか。まぁお前はできるような所でやらない所があるからな。加減をしているのかは知らないが全力でやらないと後悔する事もある。気を付けろよユーフェ」


「……肝に銘じておきます父様」


 そうか。そう言われればそうかもしれない。サラシェイスが殺される可能性もあったのだから父様の言うことは正しい。俺はまた己の未熟さを知り、そして何だか嬉しく思った。まだまだ成長できるのだということが分かったからだ。

 しばらくしてユリアだけが出てきた。


「ユリアどうだった?」


「はい。ユーフェ様なら解決できるかと思うのですが」


「ユリアでは不可能だと?」


「私では無理でした。ユーフェ様どうかお願いできますか?」


「父様、行ってこようと思うのですが」


「ああ、行ってこい。やるからにはちゃんと責任を持ってやるんだぞ」


「分かっていますよ。後悔だけはしたくありませんから」


 ユリアと共に天幕を潜る。薄暗い中でサラシェイスは顔を隠すように布団を被っていた。俺はそっと近寄り声をかけた。


「どうしたんだサラシェイス」


「顔に、傷が残っているのです。油断していました。まさか、あそこまで強欲な騎士がいるとは思いませんでした」


 するりと顔をだけだしたサラシェイスは悲しそうな顔をしていた。その頬には一筋の切り傷があった。確かに俺ならば治せる。細胞を活性化させて古い細胞を取り除くだけの作業だ。


「男は皆そんなもんだよ。俺だってそう変わらない」


「そうですか。ユーフェリウスでも変わりませんか?」


「人ってのは自分が欲しい物にはとことん貪欲になれるんだよ。思考が単純になる奴は落ちぶれる典型だな」


「生きるのも大変だというのにそんなことまで悩まないといけないなんて大変ですね」


「まぁそれが生きるって事だからな。サラシェイスは死にたいと思うのか?」


「それはありませんよ。折角この世に生まれたのですから、色んな物を見てみたいです」


「そうか。なら、世の中の色んな物を見ることになりそうだな。綺麗な物も汚い物も」


「そうですか。所で、この傷は治りますか?」


「治るよ」


 そう一言だけ呟いて俺はサラシェイスの頬をなぞりながら魔術を発動する。細胞を活性化させるイメージをしながら魔力を動かす。サラシェイスは俺が詠唱もしていないこと気付いたのか驚きで目を見開いてる。傷口から古い肌がこぼれ落ちる。俺が頬から手を離すと綺麗になっていた。


「お前が知りたい色んな事の一つを知れたな。ついでに言うとこれは俺だけしか使えないらしい。少なくとも俺以外は見たことがない。これが本物の魔術だ」


「……………」


「ユーフェ様、そろそろ行きましょう。サラシェイスさん、また会えるといいですね」


 天幕から出ると俺は溜め息を吐いた。ユリアは心配そうに見てくるが大丈夫だと手を振って答える。しかし、治療にはかなりの魔力を消費してしまった。五百も使うということは全身になるとどれくらい掛かるか分からない。そんな機会が無いことを祈るとしよう。

 魔術には想像次第で色んな可能性があるが魔力を多く使うのは意外な欠点かもしれない。それも慣れてしまえば問題はなくなるのだがそれまでが大変だ。


 夜明けの騒動は俺達が帰った数分後にサラシェイスが天幕から出てくることで収まったそうだ。サラシェイスの顔は何やら決意に満ちていて清々しい顔をしていたとレティが報告してくれた。その数日後、探索隊は王都へと帰還した。





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