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魔法世界の魔術師  作者: 炎の人
変革 スキルシステム ダンジョン
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ゴブリンの洞窟2

 先に進めば進む程、緊張感が増して最初は騒いでいたカレンも何度も俺がゴブリンを殺していく内に何も言わなくなった。ユリアの魔力も温存気味で来ているので大群でもこない限り大丈夫だと思う。レティの的確な索敵により奇襲は今の所受けていない。ゴブリンもほとんどが一撃で倒れてくれるのでそれ程疲れてもいないのでまだ先に進めそうだ。

 俺はユリアが火魔法を放つのを見ているとカレンが突然質問をしてきた。


「にぃに、ゴブリンって悪い人なの?」


「ゴブリンは魔物と言って悪い生き物だな。粗悪な武器を使うからそれ程警戒しなくてもいいけど、人を攫ったりするからね」


「んー、カレンはなんかやだな。魔物さんも生き物なのに」


「はは、そうか。カレン、覚えておけ。人にはやらないと後悔する事もあるんだぞ」


「そんなのがあるの?」


「例えば、カレンが俺が怪我をしたのを放っておくとする。そしたら俺はその怪我で死んじゃうかもしれない。そんなのは嫌だろ?」


「うん。にぃにが死んじゃうのやだ」


「だから、俺が魔物を倒すのも同じだ。俺達以外の戦えない人が俺が倒さなかったせいで死ぬかもしれない。だから、魔物を倒すんだ」


 カレンはしばらく悩んだようにうーんと唸っていたがやがてもう一度嫌だなぁと言って俺に苦笑いを向けてきた。小さい癖によく考えるなぁとカレンの頭を優しく撫でてからカレンの優しさに俺は心が和んだ。殺伐としたこの世界でそれだけの優しさを身に付けるのは中々難しい。カレンがいつか現実を知ることになった時が大変そうだなと俺は思った。それまでは俺が側にいてやれるといいが今後どうするか決めていない。おいおい考えていかなければならないことだろう。

 カレンには少し教えておいてもいいかもしれない。


「カレン、それなら強くなるといいよ。自分が弱かったらこの世界では命がなくなるだけだからな」


「うん、頑張ってみる」


 ユリアもサラシェイスも俺を話を聞いていたのかしきりに頷いている。少し恥ずかしくなって視線を前へと戻す。


「ユーフェリウスは面白いことを言いますね」


「分かってんだろ? 建て前だって」


 戦えない人が死ぬかもしれないというのはもちろん大抵の人が建て前だ。本音は金が貰えるから殺すというある意味、野蛮な集団が冒険者だ。報酬がなければ動かないし、まず善意で動くことはない。それは自らが生きる為でもあるし、金にならないことをしたがらないのが冒険者なのである。もちろん、例外はいるが大抵がそのように自分の利益を優先する。


「それでもですよ。ユーフェリウスなら無償で助けてくれそうな気がします」


「ご想像にお任せするさ。王女様の慧眼が叶うといいな」


「そうですね。近い内にお願いをするかもしれません」


 サラシェイスはそう言って寂しそうに笑った。何か羨ましいことでもあったのか、それとも王女という立場故の悩みなのかは分からないが俺にできることはお願いとやらを聞いてあげることだけだ。

 俺ができることならば、叶えてあげるのも吝かではない。ただその後のことを考えているのなら手段問わずやってあげようと思っている。自分の将来を描こうともせず、何かをしようとするのなら行動に移す価値はないのだから。

 推測の域は出ないがだいたい頼みたいことは分かる。まずは彼女の言葉を待つべきだろう。


「レティ、この先は大丈夫か?」


「うん、大部屋があるみたい。何だか嫌な予感がするから気を付けてね」


「ユーフェ様、どうしますか? 私も武器を持った方がいいかもしれません」


「まぁそうだな。そろそろ解禁するか。ユリアは槍を使え。俺は剣を使うとしよう」


 俺はスキルポイントを消費して剣術スキルを取得した。本当ならユリアに剣を持たせたい所だがあいにく俺の創造する魔術剣は他人には持てない仕様になっているので仕方がない。大部屋と聞いて思い浮かぶものが一つあったので手数を大事にしたいと思ったからこそ魔術剣を選択した。両手に持てば手数を補えるし、魔術剣に属性をつければ俺でも無双できる。

 魔術剣を使うに当たってサラシェイスがいるので詠唱をして誤魔化さなければならない。恥ずかしいので詠唱はしたくないがここは我慢してやるとしようか。


「創造するは剣を、赤と青を礎にして我が手に宿れ マジックソード・ダブル」


 俺が唱えるのと同時に右手に火属性の剣、左手には水属性の剣が現れた。魔法剣として詠唱はしたがしっかりと魔術で作り出した。魔術と魔法にそこまでの違いはないのだが。


「ユーフェリウス、それは?」


「魔法剣だよ。そのうち普及するんじゃないか? 魔力が多くなけりゃ使えないけど」


 MPを千も使う魔法剣は実用性はあるが消費が大きすぎる。サラシェイスの魔力を感知してみて分かったが俺達の魔力量は異常の一言に尽きる。皆、魔力の訓練を行っていないのか魔力量が低いのだ。これでは使える魔法も少ないだろうと俺は勝手に推測をたてる。


「サラシェイス、レティの勘を信じようと思う。少し後ろからついて来てくれ」


「分かりました。ユーフェリウスに任せます。元々は私の我が儘でこうしているのですから」


「それくらい聞く甲斐性があるぜ王女様」


 俺がわざとおどけてみせるとサラシェイスは嬉しそうに頷いた。


「さて、レティはカレンを見ていてくれ。カレンはちゃんと見とけよ。生き物を殺すことの意味を考えるならちゃんと見ておかないといけない。分かるな?」


「うん、分かった」


「ユリアは槍を牽制として使ってくれ。そのうち槍術スキルを手に入れることができるかもな。魔法は詠唱破棄で頼む」


「分かりました。御武運を、ユーフェ様」


「おう!」


 赤と青の魔法剣もとい魔術剣を握り直し、俺は大部屋へと進む。魔物もいないし、気配すら感じないその大部屋は不気味すぎた。レティの嫌な予感というのもあながち間違いではないと思った。


【危機察知を取得しました】


 無機質な声と共にスキルを取得したというアナウンスが流れる。この三ヶ月で幾度か聞いた声を頭で聞き流しながら取得したばかりの危機察知が警鐘をならす。その音は大部屋の二割程歩いた時点でパリンと割れたような音を出して砕け散った。

 それと同時に大部屋に有らん限りのゴブリンが現れて声を上げた。


「ぐぎゃあ!!」


「うわぁ……サラシェイスは魔法は使えるか?」


「はい。水魔法を取得しています。飲み物は毒が怖いですからね」


「なら、援護を頼む。俺は派手に動くからな」


 薄い水色の髪をかきあげてからサラシェイスは魔法の詠唱を始めた。ユリアもサラシェイスを守るために槍を構えた。

 それを見届けると俺はゴブリンの大群に向かって走り出した。最初に撃ち合ったのは俺だ。赤の剣がゴブリンの喉元に突き刺さる。その瞬間に炎を吹き上げた。続いて青の剣で斬りつける。水でできた剣が赤く染まる。ゴブリンをあっという間に二匹を倒したのにも関わらず、ゴブリン達は怯まずに俺に襲いかかってくる。錆びた剣を振るうゴブリンの合間を抜けながら赤と青の剣を振るい、ゴブリン達を勢いよく殲滅する。血飛沫が舞い、ゴブリンが絶命していく。俺は戦闘の興奮で思考が加速していくのが分かった。


【思考加速を取得しました】


 無機質な声を聞きながらゴブリンを倒していく。百を超えるゴブリンが殺到してくる中で剣を振るう。ユリアとサラシェイスが魔法で援護をしてくれるので後方に憂いはない。ただひたすら修羅と化し、斬り倒すのみ。十、二十とゴブリンを斬り倒し、三十を数えた辺りで俺は剣を止めた。


「強そうだな」


「グルゥゥバァァァァ!!!」


 ゴブリンが波別れし、出てきたのはゴブリンより二周りも大きいゴブリンだ。そのゴブリンは咆哮を上げるとゴブリン達が急に隊列を組み、後ろへと下がった。

 よく観察するとゴブリンとの違いは大きさだけでは無いことが分かる。手に持つ武器は粗悪な武器でなく、鍛えられた鋼のグレートソード。屈強な筋肉は並のゴブリンを凌駕し、口からは鋭い牙が生えている。体表は変わらず緑だがやや緑が濃いように見える。

 ゴブリンの大きさと気配から見てゴブリンの長であることは間違いない。俺は油断なく剣を構え、もしもの場合のために魔術を使う決意をした。身体強化を使い、全身を強化する。感覚が研ぎ澄まされる感覚が身を覆う。


「ユーフェリウス、ゴブリンキングだわ。気を付けて」


「随分と行儀正しいゴブリンキングだな」 


「ゴオアァァァァァァ!!!」


 ゴブリンキングがその大きなグレートソードを振り下ろしたのを合図に俺とゴブリンキングの死闘は幕を開けた。振り下ろされる剣を避けて赤の剣を叩き込む。血飛沫が舞うが痛みに怯んだ様子はなく、ゴブリンキングはそのまま俺の体を真横に別れさせようとグレートソードを振るう。バックステップでどうにか避けようとするがゴブリンキングの蹴りがそこに入ってきた。咄嗟に剣を交差させてガードしようとするが二つとも魔術剣なので硬さはない。ゴブリンキングの蹴りは魔術剣を壊し、俺の腹をぶち込まれた。足に魔力が込められていたので意図的に壊しにきた事が分かる。


「ユーフェ様!」


「ぐっ、だ、大丈夫だ」


 身体強化のお蔭で反応はできたが口から血が出る程度には内臓をかき回されてしまった。ゴブリンキングはそのグレートソードを一度目の前で振り、声を上げる。ゴブリン達がこれでもかと声援を送り、指揮が上がってしまったのが見える。俺は焦ることなく、小さな声で詠唱を始めた。


「創造するは槍を、土を礎に鋼に変え、我が手に宿り、敵を屠る為の覚悟を持たせたまえ マジックスピア・スティール」


 手にしっくりとくる重さの槍が創造される。鋼をイメージし、敵を屠る為にただ貫くのみというイメージを掛け合わせた槍だ。

 ゴブリンキングは俺が槍を造ったのに気付き、警戒の目を向けてくる。俺はその槍をゴブリンキングへと突き込んだ。ゴブリンキングは俺の槍の早さに驚いて後ろへと下がろうとするが遅く、槍は脇腹を深々と掠めた。初めてゴブリンキングは痛みで声を上げる。油断はせず、槍を構える。先程と違い、質量を持たせたのでグレートソードを受けることができる。痛みに怒り狂ったゴブリンキングの強力な一撃を受けて流しながら再度槍を突き込む。今度こそ腹の中心へと槍が吸い込まれるように刺さった。


「グ、グルァァァァァァァア!!」


「これで終わりだ!」


 突きを連続で放ち、ゴブリンキングの血が流れる。最後の抵抗とばかりにグレートソードを振るうがそれも軽々と避けて意味を成さない。ボロボロになったゴブリンキングから距離を取り、俺は右腕に魔力を集め、槍に魔力を通してから右手に持った槍を投げた。


【投擲を取得しました】


 投げた槍はゴブリンキングの脳天へと突き刺さった。しばらく立ったままだったがグレートソードを落としてから仰向けに倒れ込んだ。ゴブリン達は自分達の長が倒れたせいでパニックに陥り、隊列が崩れ我先に逃げようとするがここは部屋である。逃げる場所はない。


「ユリア、サラシェイス、援護を頼む」


「はい、この身をもって」


「仕方がありませんね。ゴブリンなら何とかなるでしょう」


 俺が槍をゴブリンキングから引き抜き混乱するゴブリンの中へと入るとゴブリン達は更に混乱し、成すすべなくゴブリン達は撃たれていった。


 ゴブリンを討伐し終えた頃、ようやく俺は一息着いて倒れ込んだ。その数は多く、とてもではないがこの数で倒しにいくものではない。少なくとも複数のチームで倒さなければならないレベルの量だっただろう。まぁ途中注意が散漫になりながらも倒せたのは僥倖と言える。俺は心配そうに覗き込むユリアの顔を見て、ようやく戦いが終わったのだと感じた。


「大丈夫か、ユリア」


「はい、私は大丈夫ですよ。ユーフェ様の方が酷いです。今、回復魔法を掛けますね」


「ああ、頼む」


「にぃに、すごかったね。大きいゴブリンをやっつけちゃった」


「まぁな。これでも鍛えてるからな。カレンはあれから逃げれる位には強くならないとな」


「ちょっと難しいかも」


「はは、そりゃそうだ。カレンはまだ小さいからな」


 血で汚れた手ではカレンを撫でることができないのに気付いて俺は少し残念に思いながら諦めた。


「……怒られそうだわ」


「サラシェイス、今更だろ。レベルはあがったか?」


「三になったわ。お蔭様で幾つかスキルを取得できそうです」


「そうか。なら、今から言うスキルを取っとけ。隠密、偽装、魔力自然回復量アップだ」


「分かりました。ユーフェリウスを信じて取ることにします」


「おう。毎日使っておけよ。レベルが上がれば上がるほどスキルは強力になるからな」


 ユリアの治療が終わったのを見てから立ち上がる。大部屋の中央に宝箱が出ているのを確認して皆の方を振り返る。


「あれは褒美、ってことなのか?」


「面白いもの、かもしれませんね」


「そういうことか。とりあえず開けてみよう」


 宝箱は鉄色で味気ない感じが出ているがしっかりとした重さを感じさせた。蓋を開けてみるとそこには二振りの短剣が置いてあった。手にとって見ると両方共に色違いなのが分かる。赤色をした刀身の短剣と黄色をした刀身の短剣に何かを象徴したような紋章が描かれている。幻獣か何かであろうそれはしばらくしている内に消えてしまった。


「短剣、ですね」


「魔剣じゃないか? ほら」


 魔力を流してみると火と雷が出てきて魔剣だというのが証明された。俺はそれをレティに手渡す。


「え、いいの? ぼくが貰って」


「レティは頑張り屋だからな。努力し過ぎも体に触るから気を付けろよ」


「え、あ、うん。分かったよユーフェ兄」


 宝箱はしばらくすると自然と消えてしまった。大量のゴブリンとゴブリンキングの死体をどうするか考えていると遠くから騎士の声がする。俺はサラシェイスを見ると不満そうな顔をしているのが分かり、笑ってしまった。

 その後、騎士に見つかり、俺達は問い詰められる所であったがサラシェイスが執り成してくれたお蔭で問われることはなくなった。洞窟を出るのに俺達は護衛されることになった。


「……レティ」


「なに?」


「今晩はサラシェイスに張り付いてくれないか? 嫌な予感がする」


「いいけど、大丈夫かな。見つかったら殺されちゃうよ」


「その時は騎士を皆殺しにしても助けてやるよ」


「ユーフェ兄の覚悟は凄すぎるよ。まぁ嬉しいからいいけどね」


 嫌な予感の主はあの騎士だ。サラシェイスは何やら言って連れ出したようだがよもや貞操を盾にして連れ出してもらった何てことはないことを祈る。夜に褒美をやるから来なさいと言っても騎士はゲスの勘ぐりをして襲いにいくかもしれない。俺の考え過ぎならそれでいいのだが。

 別に俺が気を配ることも無いだろうが何かの縁だ。最後まで面倒を見ようと思う。何より女の子があんな寂しそうな表情をしていいものではない。ほんの少し抜けている王女様の為に俺は一肌脱ぐことにした。








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