ゴブリンの洞窟1
「にぃに、いっちゃやだ」
そんなセリフを吐くのは妹のカレンだ。歩けるようになってからというものいつも俺に着いてきたり、引っ張り回してくれる可愛い妹なのだが今回ばかりは困っている。見つかったばかりの洞窟、つまりはダンジョンを探索に行こうと父様の許可を得ていざ行かんとしたところへカレンがやってきて自分も一緒に行きたいと言ったのがことの始まりだ。母様がカレンは一緒には行けないと言うと今度は俺を引き留めに掛かって今に至るのだ。
「カレン、わがまま言うなよ。まだ安全かどうか分からないんだ」
「じゃあカレンと遊んで!」
「カレン、ユーフェちゃんを困らしちゃダメよ」
「むぅ~」
いつの日か嫌われることになるかもしれない予定の可愛い妹の願いはできるだけ叶えてやりたい所だが如何せん危険な所なので余裕をもって行きたいのだ。幸い、先行して探索隊が王都から来ているので一階部分については安全が確認されている。そこくらいならば王都の護衛に頭を下げて連れて行ってもらうことは可能かもしれない。そこまで考えて俺はカレンをダンジョンに連れて行くように考えていることに気が付いた。これは兄バカかもしれないと溜め息を吐きながらカレンと目があうにように地面に膝をつく。ふて腐れているカレンの頭をポンポンと叩いてから声を掛けてやる。
「カレン、ちゃんと約束は守れるな?」
「? う、うん」
「よし、じゃあ連れて行ってやる。これからカレンが俺と同じようになるなら経験してもいいだろうからな」
「ありがとう、にぃに!」
「ユーフェちゃん、大丈夫なの?」
「ミナ様、ユーフェ様は王都から来た探索隊を宛にされるつもりのようです」
ユリアが俺の考えを読んでその答えを伝える。母様は納得したように頷き、カレンの頭を撫でながら良かったねと声をかけた。
実際、俺の魔術は無限の可能性があり、接近されるまでに倒せないということはないだろう。一応、周りの視線があるので詠唱破棄を装うつもりだが基本的には魔術槍をメインにして使うつもりだ。それに探索を護衛として二人ほど付けてもらえれば一階層くらいならば大丈夫だと俺は想定している。
ユリアは俺が妹に弱いことを知っているのか苦笑いを浮かべていた。流石にユリアも連れて行く気はなかったようだ。
「さて、ユリア行くか。カレン、行くぞ」
「はい、ユーフェ様」
「にぃに、待って!」
慌ただしく俺は屋敷を出る。急ぐつもりはなかったが俺は存外にまだ子供らしい。未知に対する好奇心というものが抑えられない。足早に俺は森の先にあるというダンジョンへと足を運んだ。
ダンジョンの前では探索隊が野営の陣地を張っているようで天幕が幾つか見える。その中の内の一つが少しだけ豪華なのかは何故なのだろうか。貴族が来ているという可能性はあるなら挨拶はしておかねばならないだろう。カレンの為に護衛を頼まなければならないのだから。
そういうわけで探索隊の騎士に声を掛ける。
「すみません、オイスター領領主の息子ユーフェリウスです。護衛として二人ほど貸してほしいのですが」
「分かった。しばらくここで待っていてくれ」
騎士はそう言って中へと入っていった。騎士がいると言うことは身分が高いものがいるということだ。それほどの人であれば挨拶くらいしておきたいものだが父様が既に済ましているだろう。俺は自由気ままにダンジョンを探索させてもらうことにしよう。
しばらくすると俺と同じ背丈をした女性を伴って騎士が帰ってきた。
「お、おい。この方を連れてダンジョンに行ってくれ」
「よろしくお願いしますユーフェリウスとやら」
確実に厄介事になりかねない案件だが今更断ることなどできるはずもない。既に決定事項のような雰囲気になっている。騎士が気持ち悪いほど顔が歪んでいるのが気に入らない。護衛を頼んだ筈が厄介事なお荷物を抱えさせられた俺は仕方なく、ゴブリンしか出ないというゴブリンの洞窟へと入ることにした。
ダンジョンの中は薄暗いが妙に明るさを保っている場所であった。先五メートルくらいは見渡せるがその先からは闇が垣間見える。カレンは興奮したようにダンジョン見渡している。先走らないようにしっかりと手を握りながら俺は後ろにいたレティに声をかける。
「レティ、偵察を頼めるか? 一応魔力感知はしておくが」
「了解、後でおやつを要求する」
「レティ?」
「な、何でもない。ぼくは悪くない」
そんなことを言いながらもレティは先へと走っていった。そんな様子をぼんやりと見ていた女性、いや少女は今思い出したとばかりに俺に問いかけてきた。
「最初からいましたか? あの方は」
「いたぞ。今では立派な隠密だ。暗殺から情報収集まで何でもござれ、だったらよかったんだが残念ながらまだ育成途中だ」
「……オイスター領ではそんなことまでしているのですか?」
「いや、俺の趣味だ。これから旅に出るのに情報収集する役を押し付けるために買った奴隷何だが思いのほか優秀過ぎてな」
「そういえばお名前聞いてなかったが」
「あ、ああそうですね。私はサラシェイス・ブルライト・クレハスです」
「ユーフェリウス・オイスターだ」
「ユリアと申します」
「カレンだよ!」
カレンが可愛く手を上げて自己紹介をしたので褒めるために頭を撫でる。それにしてもクレハスの名を持つということは……
「王女様ってところか。レベル上げにでもきたのか?」
俺がそういうと驚いた顔をしてからしまったというような顔をして俯いてしまった。自己紹介でしくじったのを今更気付いたのだろう。少し抜けている王女様だ。ここは軽く流しておくべきか。
「さて、ユリア。ゴブリンくらいなら俺らでも余裕だろうから任せたぞ。カレンはしっかりと俺の手を握っておけ」
「はい、ユーフェ様」
「にぃにの手をにぎる!」
「……驚かないのですね。大抵はびくびくする人ばかりなのに」
サラシェイスと名乗った王女は寂しそうにそう呟いたのを聞いたが聞かなかったことにした。時には難聴を装うのも紳士の嗜みなのだ。
ゴブリンの洞窟と呼ばれるだけあってゴブリンだけしか出てこない。俺は背負っていた槍を片手に持ち、振るう。身体強化で振るわれるそれはゴブリンの心臓を軽々と貫通する。声を上げる間もなく、絶命した。
「ゴブリンはやっぱ弱いな。レベルが一しか上がらん」
「確かに効率が悪い気がしますね。ファイアボール」
「わぁすごい! にぃに強い!」
「ぼくの出番が相変わらずない」
「私もです。これほどとは思いませんでした」
前から来るゴブリンを右手でもって槍を振るって倒す。動作も遅く、武器の射程も短い棍棒では俺を倒すことはできない。右手のみで振るうのは初めてだが槍術スキルのお蔭かそれなりに扱うことができた。ユリアもいつの間に取得したのか詠唱破棄を使い、魔法を放っていく。ゴブリン如きでは相手にならない程の腕を俺達はもっている。
「さて、行くか」
「ユーフェリウスは強いんですね」
「これでも鍛えてるからな。ゴブリン程度なら問題ない」
レティが索敵し、俺が武器を振るい、ユリアが魔法を放つ。これが今の所の役割だ。魔術はサラシェイスがいるのであまり使いたくない。原理は一緒なので詠唱破棄として使ってもばれることはないだろうが念には念を入れて隠しておくことにしている。ユリアにはそれを了承をとっているので問題ない。別に尻に敷かれている訳ではないので許可をとる必要もないのだが。
しかし、王女様が着いてきた理由がいまいち分からない。レベルを上げたいなら騎士と一緒に来れば問題ないはずだ。ただ抜け出したかったというパターンが一番理解が早い。どちらでもないとすると俺には検討もつかない。
「にぃに、先に進も!」
「ああ、分かった」
考えを事を胸の奥へしまい、俺達は用心深く、先に進むのだった。




