プロローグ
できれば最後まで書きたいなぁ、と思ってます。行き当たりばったりな作品ですがよろしくお願いします。
学校が終わり、家で宿題をしていた。普段ならば何にも思わず、宿題を終わらせ、寝ていたのだろう。その日は何故か無性にアイスが食べたくなった。机から立ち、部屋を出る。リビングを出てから母の顔を見る。冴えない顔だが自分に似ていることを何故か嬉しく思った。大切な友達の言葉を思い出したのだ。
「へーちゃんどうしたの?」
「アイス、買いに行ってくる」
「気をつけてね」
「うん」
そんなやりとりをして、外に出た。へーちゃんと呼ばれる恥ずかしさも流石に何年もされていると慣れる。初めは恥ずかしくて仕方なかったのだが今では何も思わなくなった。愛称で呼ばれることが家族の証であり、愛されている証拠であると大切な友達に教えて貰ったのだ。その大切な友達はもうすでにこの世にいない。少し生意気でお節介なあいつはもういないのだと思うと少し泣けてきてしまった。
そうこうしているうちにコンビニに着いた。アイスを片手にレジに並ぶ。適当に掴んできた百円玉を眺めながら昨日のことのように思い出される大切な友達の言葉を頭に思い浮かべた。
『へーくんは愛されているね。ほら、私も愛しているからさ』
『私も愛されてるよ。へーくんがそうでしょ?』
『ほら、へーくん。女の子をエスコートしない手はいらないでしょ。私の手を貸してあげる』
一つ一つが大切な思い出であり、愛おしい思い出である。平介という自分の名前をへーくんと呼ぶ大切な友達は俺のことが好きだったらしい。それは公然の秘密であり、いつくっ付くのか噂されていたようだ。俺はそれを知らなかった。鈍感という奴だ。
俺と手を繋いだ瞬間、顔を赤くしたのは俺の見間違いではなかったようだ。死んでしまった今となってはもう後の祭りだが。
コンビニの店員からレシートを受け取り、店を出る。信号待ちの間にもまるで走馬灯のように溢れ出す大切な友達の言葉が思い浮かべられる。
『へーくんへーくん。私ね、いつか空を飛びたい』
『へーくんは、好きな人とかいる?』
『へーくんは大人だね。何て言うか大人だ』
気が付けば涙を流していた。大切な友達が死んでしまってから気付いたのだ。本当に大切な物が手の中からこぼれ落ちのだと気付いた。もうとっくの昔に分かっていたことを様々な記憶が俺に言葉にしろと促す。そうしなければいけない気がした。
「おせぇよ、俺。なぁ美加ちゃん、俺好きだったんだなぁ君のこと。こんなにも愛されてるし、愛してるよ」
それはもう手遅れで、もはや届かない高いところに言ってしまった大切な友達、いや愛おしい友達にできる精一杯の言葉だった。
手で溢れ出した涙を拭う。信号が青になって歩き出そうとした、その時急にブレーキ音がなった。そちらの方を見るとトラックが突っ込んでくるのが分かった。トラックの運転手はハンドルにもたれ掛かっており、眠っているのか、あるいは気絶か死んだのか。もはや回避するのに間に合わない中で俺の思考は加速していく。
そういえば、と俺は思い出した。愛おしい友達も交通事故で死んでいたな、と。自分も同じ運命にあるのかと笑えてしまう。
(俺をお迎えにきたってか美加ちゃん……)
遂にトラックに跳ねられ、跳んだ。十メートル程跳ばされ、俺はようやく止まった。頭から血が流れ、全身が痛くて動かない。
鈍っていく思考の中で言葉を口に出す。
「はぁ……はぁ……母さん、ごめん。俺……」
美加ちゃん愛してる。そんな言葉を口にできることなく、意識が途絶えた。
それが俺の新たな人生の始まりとは知らぬままに。
※※※※
声が聞こえる。暖かい何かに包まれるような感覚、それはまるで子供に声をかけるかのような声だ。
眠たくて仕方がない俺はようやく目を開く。目の前には赤い髪をした美人が目に入った。その人はわぁと目を輝かせてこちらを見ており、隣のイケメンな金髪の人に何やら話しかけている。日本の言葉でもない、これは……英語に近い言葉だ。
そんな理解不能な人語を話す人を前に俺は困惑するしかなかった。周りの状況が理解できずにいると段々と眠たくなってきた。
(やけに眠たいし、言葉は分からんし、意味が分からん)
瞼が落ちていく。俺はそのまま泥のように眠り、意識を手放した。
そして、起きたのは夜になってからだった。いや、正確には分からない。カレンダーを見れる訳でもないし、辺りにもそれらしき物が見当たらない。それにあったとしても読める可能性があるとは思いがたい。
そこでようやく俺は気付く。体が動かせないことに。そして、何やら体内に今まで感じたことのない物があることにも。それが何かは分からず、戸惑う。
それを動かしてみようとするがゆっくりとしか動かない。いや、そんなことよりもまずは体だ。これはもしやと思ったが体が赤ん坊になっている。赤ん坊になっているのだ。
(転生、か。そんなことがあり得るのか)
非常識なことを当たり前にしろと言われても困るがこんなことはそれしか考えられない。転生をした事実を受けとめ、俺は考える。新たに貰った生で何をするのかを。
(何にせよ、知らない場所だしまずは身を守る物を手に入れないと)
先程から感じる体内の違和感、これが何かの手掛かりになるのではないかと俺はそれを弄ってみることにした。
それは液体のようでぐにょぐにょしていたがやがて身体全体に行き渡り、すんなりと動かせるようになった。その頃には朝になっており、再び睡魔に襲われ、眠りについた。
昼頃に起きた俺は金髪の人と目が合う。その人はにこりと笑い、俺の頬を撫でた。嬉しそうに笑う金髪の人はそのまま部屋を出て行ってしまった。その後にすぐ、赤い髪の人が来て俺を抱きかかえた。
(どうやら俺の父と母のよう、だな。イケメンと美女とはまたテンプレだな)
そんなことを思いながらも体内にある物を動かし続ける。徐々にほんの少しずつだが大きくなっていくそれは体内を巡り渡っていく。これを仮の名として魔力としておこう。もしかしなくても魔力としておこう。この魔力があれば三歳になる頃には体は動かせるし、自衛の手段が手に入る。例え、両親がいようともここは未知の場所、何があるか分からないのだ。俺は魔力が少しずつだが大きくなっていくことに楽しくなりながらもこれからのことを考えていく。
(この世界で頑張って生きていこう。それまでは両親に任せて魔力を鍛えておこうかな。とりあえずは旅をして色んな物を見れたらいいな)
睡魔に襲われながらこの世界で生きていく決意をした。まだ忘れられない事もあるがそれはそれ、これはこれだ。
それは俺の歳が零才の事であった。