花のおてがみ
実話を元にした、ちょっとセンチメンタルなお話です。
花のおてがみ
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よしくんはさくらがきらいでした。
なぜかって?
だって、きれいなのに、すぐにちってしまってさみしいきもちになってしまうんですもの。
きょうも、さくらの木の下で、なんだかさみしい気分。あと何日でちってしまうのかな?
そんなとき、ふっととなりに、よしくんのおかあさんより、少し若いくらいの女の人が立っているのに気がつきました。
「あら、こんにちは。ぼくもおはなを楽しんでいるの?」
女の人は少しさみしそうな笑顔でたずねました。
「ぼくは・・・ぼくはさくらなんかだいきらいだい!さくらーさくなーやーよーいーのーそーらーはー」
よしくんは、とつぜんおおごえで、そんなかえうたを歌いはじめました。
「そんなことを歌ったら、さくらさんがかわいそうよ。」
「だって、さくらはさいたらすぐなくなっちゃって、くしゃくしゃになって、そっちのほうがもっとかわいそうじゃないか。だったら、咲かないほうがいいよ。」
よしくんは、地面に散らばったさくらの花びらをみわたしていいました。
「そうじゃないのよ。さくらさんはね、ぼくに早くあいたくて、あんなに高いところから、ふわふわっておりてくるの。ほら、またごあいさつにきてくれたわよ。」
みると、よしくんの鼻先にふわりひとひら、さくらが。
「お姉ちゃん、すごい。どうしてそんなことわかるの?」
「どうしてだと思う?」
「もしかしておねえちゃんは、さくらの木のようせいさん?」
「だったら素敵だね。でもちがうよ。私はね、去年の今日すごく大事な人とおわかれしたの。私がぜんぶ悪くて、ね。心にはぽっかり穴があいたみたいになっちゃって、私は愛されることが一生できない人間になっちゃったんだって、真っ暗な気持ちになったよ。でもね、そんな私にも、花を愛でる気持ちなんてなくした私にもさくらの花びらは舞い降りてくれたの。さっきおわかれした人がすずめになって、花びらを降らせてくれたみたいに、ぐうぜんに、ね。」
「じゃあ、花びらはすずめさんからのおてがみだったんだね。」
よしくんがそういうと、しばらくして、お姉さんは二回うなずき
「そうだね、そうかもしれないね。」
といって、よしくんをだきしめました。
「きっと、おねえちゃんに、げんきを出してっておてがみだったんだ。すごいなあ。ぼくもさくらの花のおてがみほしいなあ。」
「うん。うん。きっと、ぼくに大事な人ができて、さくらがずっと好きなら、おてがみもらえるよ。」
女の人はずっと泣いたまま、よしくんにすがるように話しかけています。
「ぼく、さくらが好きになってきたよ。さくらさんがごあいさつしてくれるのも、楽しみになった。ありがとうおねえちゃん。」
「私こそありがとう。もしあの子が生きていたら・・・ううん。そんなこと考えてもしかたないな。おはなしできてすごくうれしかったよ。さくらをきっと好きでいてね。」
女の人とよしくんは見つめあい、言葉にならない約束のようなものをした気がしました。
それから、よしくんと女の人は出会うことはなかったけれど、女の人は違うと言ったけれど、よしくんはやっぱりおねえちゃんはさくらの木のようせいなのかもしれない、と思っているのでした。
いかがでしたか?実話の方に関しては深くは触れませんが、公園で花びらが降って来たときには涙が出そうになりました。そんなお話をまとめてみました。読んでくださってありがとうございました。