雅と書いて不思議ちゃんと読む
とりあえず俺は自分のリュックの中身を出してみたが、あまり使えそうな物は入っていなかった。
リュックに入っていた物を順に挙げていくと、
ライター、ビニール袋、電池が切れそうな携帯、わずかな日本円、エアガン一丁が入っていた。
エアガンは友人とサバイバルゲームをしたときに入れっぱなしにしてしまったようだ。
とりあえず俺は使えそうなライターとビニール袋は携行することにした。
「さて…まだ五時くらいか。夕食まで時間があるけど、何をしようか思い浮かばないな…」
寝て過ごすことも考えたが、ふとアリスに教わった魔法が気になったので試してみることにした。
「一番安全な転移魔法を試してみるかな、これが使えれば相当楽だろうし」
転移魔法は行きたい場所をイメージする必要があるため、写真で風景を見たり、実際に行ったことがある場所にしか転移できない。
そこで今日行ったルミア探偵事務所に転移してみることにした。
カラフルな看板を思い浮かべ、飛ぶようなイメージを作る。
そして目を開けると、見覚えのある建物が目の前にあった。
「お、実際に使うのは初めてだが上手くいったな」
消費する気力も少ないらしく、ほとんど疲労はしていない。
折角なので、町を適当に歩いてみた。もうすぐ夕食の時間だからか、辺りの飲食店が賑わっている。
人ごみを避けるため、狭い道に入る。夕日に照らされて建物の壁がオレンジ色に染まっていて趣があるなぁとか思っていたら、曲がり角から女性が飛び出してきた。
「…おっと、大丈夫ですか?」
急に止まろうとしてバランスを崩したらしく、そのまま俺に倒れ込んできた。
「あっ、すみませんー。」
「いえ、転ばなくて良かったです」
黒髪ポニーテールの女性は深々と頭を下げる。
そして俺に向き直り、
「一つ…質問してもいいですかぁ?」
と、いきなり話を振ってきた。
「えっと…別に構いませんが?」
すると彼女は目を輝かせ、こんな質問を投じてきた。
「もしかして…黒く髪を染めたりしちゃいました?」
「いや…元からだけど…どうしてそんなことを?」
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女は半ば興奮気味にまくしたててきた。
「…え?元から黒髪なんですか?こんなことがあるなんて…やっぱり長生きはするもんですねぇ」
「えーと、状況が飲み込めないんだが」
すると彼女はいたずらっぽく笑い、
「明日くらいには分かりますよー。私の名前は雅です。それでは、また会いましょうねぇ」
そう言ってたたたっと駆けていく。いわゆる【不思議ちゃん】なのだろうか。
まあ、また会うことはないだろうな。
××××
「…そうか。転移魔法は無事使えたか。やはり私の教え方が良かったのかもな」
夕食を三人でとりながら談笑する。
「そうですか…城下町の店には私もよく買い出しに行ってますね」
「そうなんですか、今度手伝いますよ。」
「いえいえ、これが私の仕事ですから。」
他愛ない話をしているうちに、夕方出会った不思議な少女のことは忘れていった。
××××
「………ん、もう朝か。」
昨日はお酒を三人で飲んだところまでは覚えている。風呂に入ってベッドに倒れこんだんだっけ。
とりあえずリビングに下りると、アリスとラルクさんが何か話していた。
「お、恭弥。良いところに来た」
「ん?どうした?」
「今日はアリス様の働いている騎士団の方を見に行ってはいかがでしょうか?」
「ああ。ラルクの言うように私の所属する騎士団の連中に挨拶でもしてくると良い。あいにく私は刀の為に留守番だがな」
「うーん、そうしたいんだけど、ただの民間人が入れるところなのか?」
するとアリスは胸ポケットから手紙を取り出した。
「これを門番に見せれば分かるだろう。中に私のサインを書いてある」
「うむ、じゃあ朝ご飯を食べてから行ってみるよ」
別にするべきこともないので、とりあえず行ってみようと思う。
感想やアドバイス、質問や誤字がありましたら書き込みお願いします(=´∀`)人(´∀`=)
あと、活動報告の方も見ていただけると幸いです( *`ω´)