第1話:注文の多い町中華と、満たされない胃袋
はじめまして。
本作は「チャーハン大盛り餃子セットチャーハン抜き」というこだわりから始まる、ちょっと変わった異世界スロー(?)ライフです。
気づいたら異世界、そしてなぜか餃子だけ無限に出せるスキル。
ゆるく、でもちょっとだけワクワクできる話を目指していきますので、気軽に読んでもらえたら嬉しいです。
「……すみません。チャーハン大盛り餃子セット。チャーハン抜きで」
夕暮れの町中華『来来軒』。
カウンター越しの店主の手が止まった。
「……あんちゃん。それ、単品の餃子じゃダメなのかい?」
「ダメなんです」
自分でも意味が分からない。
それでも、この注文だけは譲れなかった。
「スープとザーサイ、それと……“あるはずのチャーハンが存在しない”この感じ。それが欲しいんです」
店内に、微妙な沈黙が落ちる。
——疲れているな。
大学の単位は落とした。
バイトではクレーム処理ばかり。
何をやっても、満たされない。
だからせめて——
「……欠けたまま、満たされたかったんです」
店主はしばらく俺を見て、小さく息を吐いた。
「……変わってるな。まあいい、作ってやるよ」
数分後。
運ばれてきたのは、餃子六個、スープ、ザーサイ——そして。
空っぽのチャーハン用の丼が置かれた盆。
「……これだ」
ぽっかりと空いた器。
その欠落が、妙にしっくりくる。
餃子を一つ口に運ぶ。
パリッとした皮。
噛めば、熱い肉汁が広がった。
「……うまい」
その瞬間——
視界が歪む。
音が遠ざかり、光が滲み——
世界が、白く塗りつぶされた。
草原だった。
見渡す限りの緑。澄んだ空気。
さっきまでの店は、どこにもない。
状況を整理する。
——転移、か?
断言はできないが、それくらいしか思い当たらない。
ぐぅ、と腹が鳴る。
「……腹、減ったな」
無意識に手を前に出した、そのとき。
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【固有スキル:《虚無のセットメニュー(チャーハン抜き)》】
※主食は失われました。副菜は無限です。
短い説明。
だが、不思議と納得できてしまう。
試しに念じる。
餃子。
ぽん。
手のひらに、湯気の立つ焼き餃子が現れた。
「……出るのか」
もう一度。
ぽん、ぽん。
際限なく増えていく。
足元に転がる餃子から、食欲を刺激する香りが立ち上る。
一つ、口に入れる。
——うまい。
さっきと同じ味だ。
「……悪くない」
主食はない。
だが、副菜は無限。
生きるだけなら、十分すぎる。
地面に座り込み、餃子を頬張る。
そのときだった。
ガサリ、と草むらが揺れる。
視線を向ける。
「……誰だ」
現れたのは、銀髪の女騎士だった。
鎧は土と血で汚れ、呼吸も荒い。
限界寸前なのは一目で分かる。
だが、その目だけは鋭く、こちらを射抜いていた。
そして——
視線が、俺の手元で止まる。
餃子だ。
ごくり、と喉が鳴る。
「……それを」
一歩、ふらつきながら近づいてくる。
剣を支えに、なんとか立っている状態。
「……一つ、寄越せ」
迷いはあったが、餃子を一つ生成して差し出した。
女騎士はそれを奪うように受け取り——
そのまま、かじった。
動きが止まる。
息を呑む音。
そして——
空気が、震えた。
目に見えない圧が、周囲に広がる。
弱りきっていた気配が、一瞬で塗り替えられていく。
「……なるほど」
女騎士が、小さく呟いた。
自分の体を確かめるように、拳を握る。
「たった一口で……ここまで回復するか」
ゆっくりと顔を上げる。
その視線が、俺を捉えた。
値踏みするような、鋭い目。
「……貴様。その餃子、いくらでも出せるのか?」
「一応な」
ぽん、ともう一つ出す。
それを見た瞬間、女騎士の表情が確信に変わった。
「……そうか」
一歩、近づく。
先ほどまでとは比べものにならないほど、安定した足取りで。
「普通ではないな」
短く、断じる。
そして——
はっきりと言い切った。
「その力、我々の常識から外れている」
一拍。
「……規格外だ」
静かな断言だった。
手の中の餃子を見る。
ただの焼き餃子。
——のはずだ。
「……面白い」
思わず、口元が緩んだ。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
次回は、実際にその力がどれくらい“規格外”なのかが分かる展開になります。
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それでは、また次回よろしくお願いします!




